第22話 「流れ込む記憶」
故国で内乱が起きてから二年が過ぎた。
俺とシンシアは近隣の諸国を転々としながら、故国の情報収集を続けていた。
そして、旧故国の辺境の地で、現国家に反旗を翻した者がいると知り、そこに馳せ参じたのだ。
反国家、いや、元の正統なる王位を継ぐ者。
反乱で命を落とした王の第三王子が、雌伏の末に立ち上がったのだ。
国が疲弊した理由は、三大公爵家の裏切りによる内乱が発端になっている。
王子の元には、裏切った公爵家を恨む貴族や、旧リッテンハイム公爵の配下の兵士達が続々と集結していた。
王子の元に兵士は数万という規模で集まって来たが、それを指揮する者が不足していた。
若輩者ではあったが、兵学校用兵課の主席と次席であり、国外での観戦武官での経験を買われ、俺とシンシアは軍の指揮を任される様になっていた。
集まった兵士の中には、旧リッテンハイム公の旗下の者が多く、シンシアに忠誠が集まったが、彼女は俺の次席参謀という体を崩さなかった。旧リッテンハイム公の勢力が派閥化するのを防いだのだ。
『正統なる王位を継ぐ者』という王子の肩書は、兵士達に強力な自負心を与え。それが力となり、裏切者たちの軍を次々と打ち破って行った。
それに連れて兵士からの信頼も高まり、俺は稀代の指揮官として認められる様になっていた。
王子と共に立ち上がってから約一年半。
各地から馳せ参じた兵や、打ち破った諸侯から糾合した兵により、王子の軍は二十万余となっていた。
いよいよ、裏切った公爵家の連合軍との決戦を前に、俺は兵を鼓舞するために、兵士達が集結している平原にある小高い崖の上に立った。
「シンシア。いよいよ決戦の時が来たな……」
「ええ、貴方と共にある限り、神は我々に微笑むでしょう」
俺はシンシアと口づけをして、小高い崖の縁に馬を寄せた。
剣を抜き天に向けて掲げると、崖下に集結していた二十万もの兵たちが一斉に鬨の声を上げる。
兵士達の声は、地響きの様に平原に響き渡って行く……。
――――
裏切者達を打ち破り、領土へ侵攻していた周辺諸国を追い払った俺達は、遂に王都への帰還を果たした。
旧リッテンハイム公爵家は再興されシンシアが公爵となったが、俺はシンシアと婚姻する事になり、事実上公爵となる事になった。
婚姻を翌日に控えた夜、懐かしいシンシアの部屋で二人で過ごしていた。
シンシアを抱きしめて、美しい瞳を見つめながら、口づけをしようと思った途端……。
突然、俺の脳裏に全く知らない記憶が流れ込んで来たのだ。
だが、その記憶は直ぐに知らない記憶では無くなった。
俺がここにいて、今こうしている理由……。
俺はシンシアに全てを伝え、彼女へマナの知識と異世界の事を伝えるのが任務だったのだ。
しばらくして気持ちが落ち着いた俺は、シンシアに想像すら出来ない事を説明し始めた。
最初は俺の冗談かと思っていたシンシアだが、俺の経験してきた事や、今日まで余りに辻褄が良く事が進んだ理由を伝えた。
元々聡明な女性だったことも有り、シンシアはスムーズに世界の理について理解してくれた。
そして、俺と共に転移する事を望んでくれたのだ。
俺は記憶が戻った状態でも、変わらず愛しいと思えるシンシアと共に、元の世界へと転移出来る事を心から喜んだ。
そして、喜ぶと共にあの仮想現実の中で愛したシンシアが、元々俺の記憶の中に居た女性だという言葉を思い出したのだ。
という事は、この派遣も何かを辿る為の経験済みの派遣なのだ……。
カーラからのカウントダウンを聞きながら、俺は愛しいシンシアと口づけを交わす。
これからどんな事が有っても、彼女の手を離すつもりは無い。
カーラに俺達が居なくなるこの世界の事を聞くと、忽然と消えた俺とシンシアは神が遣わされた救世主として、長く崇拝されるそうだ。
何とも申し訳ない気がするが、シンシアさえこの腕の中に有るのならば、それで構わなかった。
カーラの指示と共に転移が始まる。
シンシアと口づけをしながら、俺達は転移した……。
――――
澄み渡るような青空に、照り付ける太陽。遠くから軽快な音楽が流れている。
美しいビーチに、漆喰で固められた白い家々。
辻々には華やかな色の花が咲き乱れている。
ビキニ姿でビーチに合うカクテルやジュースを手に歩き回る人々達。
そんな陽気でリゾート感あふれる街に、俺は独りで立っていた……。
いつもお読み頂きありがとうございます。
物語はいよいよ核心へと迫ります。
続きも読んで頂けると幸いです。
磨糠 羽丹王




