表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

第21話 「思わぬ凶報」

 俺とシンシアは、武官交流の為に国を離れている。

 高等兵学校用兵課を首席で卒業した俺と、僅差(きんさ)で首席を逃したシンシアは、共に観戦武官という任務も併せて遊学中だ。

 俺とシンシアとの関係を酷く憂慮(ゆうりょ)していたリッテンハイム公も、俺が高等兵学校を首席で卒業した事により、やっと認めてくれるようになっていた。


 二人で与えられた宿舎で過ごす時は、一時も離れずに甘い時間を過ごしている。

 だが、一旦武官として訓練や戦地に赴くときは、議論をぶつけ合い、お互いに一歩も引かない。

 訪問先の武官達が止めに入る位の言い合いをしているので、二人が愛し合っているなどとは誰も思っていないだろう。


 ――――


 二人で近隣諸国を遊学し始めてから一年が過ぎた頃。思わぬ凶報が届いた。

 国で大規模な内乱が起こったらしい。

 内乱には四大公爵家が大きく関わっているらしく、反乱軍側に三つの公爵家が加担し、王に味方したのは、シンシアの父であるリッテンハイム公だけという事だ。


 次の知らせは直ぐに届き、王の軍は敗北し、反乱軍側が国を掌握(しょうあく)した事が分かった。

 そして更に、王側に援軍を送った国々と戦争状態に入り、近隣諸国が領土を侵略し始めたという事が知らされた。

 隣国が内乱や戦争で混乱している隙に、近隣諸国がその国へ侵攻し、版図(はんと)を広げるのは常套(じょうとう)手段だ。

 俺達が滞在している国も、直ぐに国との戦争状態に入ってしまった。

 それにより、俺とシンシアには敵国の武官として追手が掛かる。

 国には戻る場所が無い上に、滞在していた国からは敵として追われる身になってしまったのだ。


 危険な状況だったが、滞在していた国で友誼(ゆうぎ)の有った武官達の協力もあり、秘密裏に隣国へと逃れる事が出来た。

 しかし、逃げ伸びたのは地理的には故国とは真逆の位置にある国。

 故国へと戻りたい気持ちは強かったが、王とリッテンハイム公の行方が分からない今、戻ったところで出来る事など殆ど無い。

 ただ、この状況で愛するシンシアと共に居られた事だけが、何よりも幸運だと思えた。




「シンシア、これからどうするのが良いと思う?」


「私は……」


 シンシアと熱い口づけを交わす。

 やっと辿り着いた宿屋の一室で、俺はシンシアを強く抱きしめた。

 そう、一番大事な事は、追われる身だった二人が無事に窮地(きゅうち)を脱したという事だ。

 この世にシンシアほど大切な人は居ない。

 このまま国を失うとしても、彼女さえ傍に居てくれれば、他に何も必要無いのだ。


 幾度も唇を重ねて来るシンシア。

 促されるままにベッドへと倒れ込んだ……。


「しばらくは、正体を隠しながら情勢を伺うしかないわね」


「その間、どうやって食い(つな)ぐかだな……」


「そうねぇ、私が売春宿にでも身売りをすれば良いかしら?」


「なっ! なら俺が毎日買い占める」


「ふふっ。そのお金は?」


「俺が男娼(だんしょう)になる」


「なら、私が毎日買い占めるわ」


 シンシアと見つめ合い、また唇を重ねた。

 彼女は絶対に俺が守る……。

 シンシアの瞳を見つめ、真剣な顔をして言葉を(つむ)いだ。


「本日のお買い上げ、ありがとうございます」


 俺の真剣な表情に違う言葉を期待していたのか、シンシアが笑い出してしまった。

 そして、また口づけをすると、悪戯(いたずら)な表情をして、俺に覆いかぶさって来た。


「じゃあ、今晩は私の好きにさせて貰うわよ……覚悟なさい」


「愛してるよ、シンシア」


「私も……」


 これから先の事を考えるのは、明日の朝に先延ばしだ。

 先ずは(いと)おしい女性との時間を大切にする事にする……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ