第21話 「思わぬ凶報」
俺とシンシアは、武官交流の為に国を離れている。
高等兵学校用兵課を首席で卒業した俺と、僅差で首席を逃したシンシアは、共に観戦武官という任務も併せて遊学中だ。
俺とシンシアとの関係を酷く憂慮していたリッテンハイム公も、俺が高等兵学校を首席で卒業した事により、やっと認めてくれるようになっていた。
二人で与えられた宿舎で過ごす時は、一時も離れずに甘い時間を過ごしている。
だが、一旦武官として訓練や戦地に赴くときは、議論をぶつけ合い、お互いに一歩も引かない。
訪問先の武官達が止めに入る位の言い合いをしているので、二人が愛し合っているなどとは誰も思っていないだろう。
――――
二人で近隣諸国を遊学し始めてから一年が過ぎた頃。思わぬ凶報が届いた。
国で大規模な内乱が起こったらしい。
内乱には四大公爵家が大きく関わっているらしく、反乱軍側に三つの公爵家が加担し、王に味方したのは、シンシアの父であるリッテンハイム公だけという事だ。
次の知らせは直ぐに届き、王の軍は敗北し、反乱軍側が国を掌握した事が分かった。
そして更に、王側に援軍を送った国々と戦争状態に入り、近隣諸国が領土を侵略し始めたという事が知らされた。
隣国が内乱や戦争で混乱している隙に、近隣諸国がその国へ侵攻し、版図を広げるのは常套手段だ。
俺達が滞在している国も、直ぐに国との戦争状態に入ってしまった。
それにより、俺とシンシアには敵国の武官として追手が掛かる。
国には戻る場所が無い上に、滞在していた国からは敵として追われる身になってしまったのだ。
危険な状況だったが、滞在していた国で友誼の有った武官達の協力もあり、秘密裏に隣国へと逃れる事が出来た。
しかし、逃げ伸びたのは地理的には故国とは真逆の位置にある国。
故国へと戻りたい気持ちは強かったが、王とリッテンハイム公の行方が分からない今、戻ったところで出来る事など殆ど無い。
ただ、この状況で愛するシンシアと共に居られた事だけが、何よりも幸運だと思えた。
「シンシア、これからどうするのが良いと思う?」
「私は……」
シンシアと熱い口づけを交わす。
やっと辿り着いた宿屋の一室で、俺はシンシアを強く抱きしめた。
そう、一番大事な事は、追われる身だった二人が無事に窮地を脱したという事だ。
この世にシンシアほど大切な人は居ない。
このまま国を失うとしても、彼女さえ傍に居てくれれば、他に何も必要無いのだ。
幾度も唇を重ねて来るシンシア。
促されるままにベッドへと倒れ込んだ……。
「しばらくは、正体を隠しながら情勢を伺うしかないわね」
「その間、どうやって食い繋ぐかだな……」
「そうねぇ、私が売春宿にでも身売りをすれば良いかしら?」
「なっ! なら俺が毎日買い占める」
「ふふっ。そのお金は?」
「俺が男娼になる」
「なら、私が毎日買い占めるわ」
シンシアと見つめ合い、また唇を重ねた。
彼女は絶対に俺が守る……。
シンシアの瞳を見つめ、真剣な顔をして言葉を紡いだ。
「本日のお買い上げ、ありがとうございます」
俺の真剣な表情に違う言葉を期待していたのか、シンシアが笑い出してしまった。
そして、また口づけをすると、悪戯な表情をして、俺に覆いかぶさって来た。
「じゃあ、今晩は私の好きにさせて貰うわよ……覚悟なさい」
「愛してるよ、シンシア」
「私も……」
これから先の事を考えるのは、明日の朝に先延ばしだ。
先ずは愛おしい女性との時間を大切にする事にする……。




