第19話 「この世界と時間軸」
「まあ、少し時間がかかるけれど、時間軸に付いて説明しましょうね」
カーラの横にクリスが座り、まだ少年だったクリスと別れた直後に、こちらの世界で青年になったクリスと会えた理由を説明し始めた。
「私達が相手方の世界に受け入れ先のポイントを作っていない限り、マナの大きな歪を追う事によって、その世界に行っている事は説明したわよね」
「はい」
「全ての世界が、同じ時間軸で同時に存在しているとしたら、これは不可能なことよね?」
「確かに……」
「私達は、自分たちの世界の時間軸を基準にするとしたら、とある世界の過去や未来に転移している事になるのよ」
「……」
「それが本当に過去なのか未来なのかは誰にも分からない。ただ、私達は自分達の時間軸の中で、他の世界の数万年、数億年という年月の流れを追う事が出来ているの。あくまでマナが介在している範囲内になるけれどね」
「という事は、今回自分が派遣された世界は、とんでもない過去かも知れないし、未来だったかも知れないという事ですか?」
「そう、その通り」
何とも不思議な説明だが、確かにそれでしか説明が付かない事は理解できた。
「でも、クリスの事は?」
「ええ、彼はあなた達と別れた後、マナの事を研究し続けて、あなた達から聞いた別の世界への扉を開くことが出来たのよ。そして、私達の会社を訪ねて来たの」
「いつ?」
「あなたが、ここに来るずっと前に……」
「え? 俺があの世界でクリスに出会う前に、彼が既にこの世界に居たという事ですか?」
「……そういう事」
意味が分からなくなった。
俺がカーラと出会う前から、ここにクリスが居たという事は、俺がこの世界に来る前から、クリスとあの世界で会う事が決まっていたという事なのか?
「あなたにお話しできるのはここまで」
「えっ?」
「とにかく、ただ有るがままを受け入れて、しばらく仕事を続けて頂戴」
「もう少し、色々教えてくれませんか?」
「ごめんなさい。あなたがこれから先を知る事で、派遣が上手くいかなくなる可能性がある限り、これ以上の話は出来ないの。分かって……」
「あの……もしかして、にゃーにゃーよもドラゴンの幼生も、全て予定調和的な?」
カーラが申し訳なさそうに小さく頷いた。
「俺は只の操り人形なのですね……」
「違うわよ! ……違うけれど、今はここまでの説明で我慢して頂戴」
カーラが泣きそうな困った顔をしていた。
何とも気持ちが悪いが、何か深い事情が有る事は理解できた。
彼女の言う通り、しばらく与えられた業務を、粛々とこなして行く事にしよう……。
――――
それからというもの、様々な世界へ都度違うメンバー構成で派遣される様になった。
何故かリディアとは殆ど一緒に派遣された。
だからと言う訳ではないが、俺はリディアが大好きだ。
にゃーにゃーよとドラゴンの幼生はワンセットになっている様で、一緒に派遣される時もあれば、彼らだけ留守番という事もあった。
クリスとも結構一緒に派遣され、彼の能力で救われる事が度々あった。
でも、彼への感謝を伝える度に、彼は申し訳なさそうな顔をする。
クリスは俺の事について、何かを抱えている様だが、彼がそれを口にすることは無かったし、俺も敢えて聞く事をしなかった。
異世界での経験を積んでいくうちに俺の体は鍛えられ、剣と魔法の世界に派遣される時は、剣技で十分戦える様になっていた。
そして、記憶を無くして派遣される「記消」による派遣が行われた……。
――――
「シンシア。いよいよ決戦の時が来たな……」
「ええ、貴方と共にある限り、神は我々に微笑むでしょう」
男はシンシアと口づけをして、小高い崖の縁に馬を寄せた。
剣を抜き、天に向けて掲げると、崖下に集結していた二十万もの兵たちが一斉に鬨の声を上げた。
その声は、地響きの様に平原に響き渡っている……。




