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第16話 「託されし物」

「さあ皆楽しんでくれたまえ。今日は良きものを見せて貰った」


 領主の挨拶で士官選考会を祝う宴が始まった。

 流石は貴族階級の宴という事もあり、提供されている料理の豪華さには目を奪われる。

 主賓として領主の前で戦った八名がこの宴に招かれたが、参加している貴族達の煌びやかな衣装に比べ、自分達は余りにみすぼらしく肩身が狭い。

 もし士官に成れたとしても、この貴族社会の最底辺に組み込まれるだけで、決して豊かな未来を保証される訳ではなさそうだ。


「ねえ。君達はどこの国から来たの?」


 あの金髪で可愛らしい少年魔導士は、宴が始まる前から俺たちの周りを離れなくなっていた。余程興味が湧いたみたいだ。


「この辺では誰も知らない遠い辺境の国からだよ」


「遠い国? 本当に?」


「ああ、この街に流れ着いた只の冒険者さ」


「ふーん」


 少年魔導士は納得いかないといった表情をしていた。

 もっと話をしたそうにしていたが、お互いに他の選考会参加者から話しかけられて、会話は途切れてしまった。

 俺は皆から剣技について色々聞かれたが、もちろん「剣が勝手に」とは言えないので、防御からの反撃専門の流派だと適当に答えた。


 宴の最中に領主に呼ばれ、やっと直接話をする機会を得る事が出来た。

 待ち望んでいた、任務を達成できるチャンスだ。

 ところが、にゃーにゃーよが「何かが聴こえるにゃ!」とか言いながら何処かに消えてしまい、リディアと二人で領主に会う事になった。

 まあ、居ない方が良かったのかも知れない……。


「選考会の戦い振り見事であった。冒険者と聞いておるが、希望とあらば我が士官になる事を認めようぞ」


「領主様の有難きお言葉ですが、実はお願い事がございます」


「ふむ。儂に出来る事ならば聞こうではないか。申してみよ」


 もし領主の士官となったとしても、そうそう王への謁見(えっけん)など叶う訳もない。

 人払いをして貰った上で、自分達の本当の目的を話し王との謁見を依頼した。


「なるほどのう。にわかには信じられぬ内容だが、その契約書を儂から王に渡すという事であれば不可能ではない」


「領主様。有難きお言葉ではございますが、王に直接渡さねばなりません。何卒お力をお貸し頂けないでしょうか」


「ふむ。流石に素性の知れぬ者を王に謁見させる訳にはいかぬ。そこで提案があるのだが……」


「教えて頂けますか」


「まず儂の士官となり武功を上げよ。南方の蛮族が国境を越え、我が領地へと足を踏み入れたとの報告がある。そこに赴き蛮族を駆逐せよ。そこで目覚ましい武功を上げれば、王への謁見も可能になるやも知れぬ」


 まさか戦に巻き込まれる事になるとは思っていなかったが、王に謁見する為には、その方法が一番早い様なので領主の提案を受け入れる事にした。


「では、お主を兵士長に任命し、南方の蛮族征伐の任を命ずる。準備が出来たら南方国境の砦へと出立せよ。お主が部下に加えたい者がおれば、好きに選ぶが良い」


「承知しました」


「今日は祝いの宴じゃ、ゆるりと楽しむが良い」


 席に戻ると、少年魔導士が目を輝かせながら待っていた。

 そして、領主との話をすると、部下になって付いて行きたいと言い出したのだ。

 あの強力な魔法は必ず助けになるし、何だかとても良い子みたいなので、受け入れる事にした。


 ----


「これを持って行けば良いにゃか?」


「はい。貴方様に我が種族の未来をお預け出来き光栄でございます」


 宴が行われている城の地下牢で、巨大な翼を持った獣と黒いモフモフした獣の様な者が相対している。

 翼を持った獣は頭を横向きに床に付け、攻撃の意志を持たず恭順(きょうじゅん)を示す体勢を取っている。

 翼を持った獣はドラゴンで、にゃーにゃーよが手に持っているのは、ドラゴン族の卵だった。


「まもなく殻を破りて生まれて参りましょう。何卒、貴方様の庇護(ひご)の元に……」


「分かったにゃーにゃーよ! 取りあえず一番安全な場所に隠すにゃーにゃーよ!」


 にゃーにゃーよは卵を股間の袋に入れた。

 かなり大きめの卵だったが、何とか収まった様だ。


「巡回の看守が参ります。怪しまれる前にお逃げ下さい」


「分かったにゃーにゃーよ! お前も元気でにゃ!」


「ありがとうございます。偉大なるレイニーブラックパンサー殿もご壮健で……」


「何にゃそれは?」


「いえ、お気になさらずに……」


 黒いモフモフがトコトコと逃げて行く姿を見ながら、年老いたドラゴンは静かに呟いた。


「我が王より託されし使命を果たすことができた。これでやっと旅立つことができる……」


 ドラゴンは静かに目を(つぶ)り、二度とその目を開く事は無かった。


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