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第14話 「鉄壁防御の魔獣使い」

「にゃぁぁぁぁーーーー」


「うん。大分強く投げられるようになった」


 目の前の野原をにゃーにゃーよが転がっていく。

 色々試行錯誤した結果、唯一の攻撃方法として編み出された戦法だ。

 『相手が攻め疲れた時に、にゃーにゃーよを投げつける』

 にゃーにゃーよも俺と一緒で、マナを使った攻撃を受けない限り怪我をしないはずだから、相手に当りさえすれば、なかなかの攻撃力になるはずだ。

 最初は渋っていたにゃーにゃーよも、俺とリディアで褒め称えてその気になってくれた。




 俺は最近ギルドメンバーの一部から『鉄壁防御の魔獣使い』と呼ばれている。

 もちろん誇大広告だが、鉄壁防御は本当の事なので、特に文句は言われない。

 それどころか、にゃーにゃーよは周りの連中からも可愛がられて、割と人気者だ。

 特に色っぽい装備の女性冒険者に可愛がられていて、胸の間に抱きかかえられている時は少し(うらや)ましい……。

 そんなにゃーにゃーよを羨ましそうに見ていると、リディアが目の前に飛んできて、可愛いポーズを取ってくれたりする。


「業務外の特別サービス。うふふ」


「ありがとうリディア」


「どういたしまして」


 そう言うと、ウインクをして綺麗な鱗粉をフワッと撒きながら、俺の周りをクルクルと回ってくれる。リディアは本当に可愛い妖精さんだ。


 ----


 にゃーにゃーよを投げつける戦術を使いながら、面白い発見もあった。

 どうやら、にゃーにゃーよは獣に怖がられるのだ。

 何故だか分からないが、オオカミの様な犬系の獣は怯えて逃げて行き、ネコ系の獣は恐れおののくと言った感じで、耳を倒して後ずさりをしながら消えていく。

 まあ、この世界には存在しない得体の知れない生物だからなのかも知れない。


 でも、このにゃーにゃーよの特性は役に立った。

 依頼のランクが上がると、同時に何種類もの敵に囲まれる様な時がある。

 その中に獣系の敵がいると、にゃーにゃーよが居れば敵の数が減るのだ。

 獣を利用して攻撃を仕掛けて来るオークが敵の時などはとても助かる。

 攻撃してくるオークを俺が蹴散らし、にゃーにゃーよが獣を追い払う。

 敵が総崩れになったところで、他のパーティーメンバーが次々と相手を倒して行き、難易度の高い依頼を難なくこなすことができた。

 この頃から『鉄壁防御の魔獣使い』の名前はギルド内でもかなり有名になって来ていた。


 そして、極めつけは、オークの大規模討伐の依頼で、大型パーティーを結成して挑んだ時だった。

 敵のオークの罠にまんまと嵌ってしまい、数倍の敵に囲まれて防戦一方となってしまったのだ。

 それでも何とか凌いでいた時に、オークどもが巨大なオーガを三体も投入してきたのだ。

 場合によっては全滅も有りうる状況の中で、俺を力任せに潰そうとしたオーガが三体とも宙を舞い地面に叩きつけられてダウンする。

 その後オークが放った百匹以上の野獣は、にゃーにゃーよを投げつけると一目散に逃げだしてしまったのだ。

 多少の怪我人は出たが、大規模討伐は無事に成功し依頼を達成する事ができた。


 その大規模討伐後、ひとりでオーガを三体も倒し群がる野獣を蹴散らした『鉄壁防御の魔獣使い』の名声は一気に広がった。

 お蔭でかなりの稼ぎが入り始め、食事も高価な物を食べられるようになり、初めて広い部屋に宿を取る事もできた。

 部屋は三人部屋で、フカフカのベッドが三つも並んでいる。

 三人それぞれのベッドに横になり、にゃーにゃーよもリディアも大喜びで、広々と大の字になって眠る事が出来た。


 でも、次の日の朝。またリディアを挟んでにゃーにゃーよが俺にしがみついて寝ていた。

 俺はリディアとにゃーにゃーよを一緒に抱きしめた。

 実は喜んではいたものの、三人とも寂しいと思って寝ていたのだ。

 俺たちにはベッドがひとつの部屋で十分。

 その日から部屋を元に戻して、また三人で一緒に眠る様になった。


 ----


 そして士官選考会のエントリーが近づき、俺達『鉄壁防御の魔獣使い』の参加が認められた。

 百名程のエントリーがあり、本来ならトーナメントを勝ち抜いて行かなければならなかったが、自分達ともうひとりの魔導士は名が通っていたのでシードとなり、戦う事無く最終の八名に残る事ができたのだった。

 これから領主の御前でひと組ずつ対戦し、勝ち上がった者同士が更に対戦していく事になる。


 最初の対戦相手は双剣の戦士。

 兵士からの生え抜きで、筋骨隆々の猛者(もさ)だ。

 殺気も凄まじくて、普通ならとても戦いたいと思う相手ではなかった。

 だが、有難いことに全力で打ちかかって来てくれたので、自らの一撃ではじき返されて自滅してくれた。


 次の対戦も屈強そうな戦士が出てきたが、幾度も打ちかかって来るうちに、疲弊(ひへい)してしまい、最後は自ら負けを認めた。

 お蔭で『魔獣にゃーにゃーよ』の出番は未だない。いや、有っては困るのだが……。


 ただし、もうひとりのシードだった魔導士が厄介そうだ。

 魔導士は接近戦には非常に弱い。一撃目を避けられたり、受け流されると一気に不利になる。

 ところが、その魔導士は二戦とも開始直後に相手を倒してしまったのだ。

 かなりの手練(てだ)れだ。

 さらにリディアが嫌な事を言いだした。


「あの魔導士は凄く強力な魔法を使うわ。まともに当てられたら守り切れないかも。うふふ」


「リディア怖い事言わないで」


「まあ、その剣があるから大丈夫じゃない。知らないけど」


「……」


 


 領主の号令で遂に魔導士との対戦が始まった。

 魔導士の表情はフードに隠れていて見えない。不気味な奴だ。


 魔導士が杖を前に出すと、立て続けに数種類の魔法が殺到して来る。

 かなり迫力のある攻撃だったが、剣が全てを受けきり、魔導士に向かってはじき返した。

 魔導士は自分の放った魔法を打ち消す為の強力な魔法を使い、その勢いで更に強烈な魔法を繰り出して来る。

 それも全てはじき返し、魔導士の魔力をかなり浪費させることに成功した。


 しばらく攻防が続き、魔導士が疲れたのか棒立ちになる。

 一息つきたくて、こちらも体の力を抜いた途端、剣が体の後方に急に移動した。

 剣に引っ張られる様な変な格好になってしまったが、後方から飛んで来た強大な火の玉を剣が逸らし、そのまま魔導士に向けて飛ばした。魔導士は不意打ちを狙っていたのだ。

 魔導士は慌てて水流の魔法で自らの強大な火の魔法を打ち消したが、一連の攻撃でマナを使い過ぎたのか、かなり疲弊してきた様に見えた。

 剣で攻撃は出来ないが、攻撃するフリはできるので、じりじりと間合いを詰める。


 接近を避ける為に、魔導士は細かい魔法を次々と打ちこんで来たが、ことごとく跳ね返された上に全て打ち消さねばならず、遂に肩で息をし始めた。

 ここでにゃーにゃーよを投げつけて、相手を転がす事が出来れば、頭上で剣を構えて勝敗を決する事が出来るかも知れない。

 俺は腰にしがみ付いているにゃーにゃーよを掴み、素早く魔導士に向けて投げつけた。


 だが、その瞬間魔導士が杖を前に出し魔法を唱えた。肩で息をしていたのは罠だったのかも知れない。


「あの魔導士にゃーにゃーよを調べたわよ。知らないけど」


 リディアが俺の耳元で呟いた。

 しまった、にゃーにゃーよの攻撃力が皆無なのを知られた上に、強烈な魔法を打ちこまれたら、にゃーにゃーよが危ないかも知れない。

 にゃーにゃーよを助けるべく、慌てて一歩前に出た時だった。


「うわわわわわ。無理無理無理無理! 参りました!」


 魔導士が仰向けに倒れ、尻もちをつきフードが外れ顔が露わになっていた。

 不気味だった魔導士は、金髪の男の子で可愛らしい顔をしていた。


「な、何でこんな所に……レイニーブラックパ……」


 少年がにゃーにゃーよを抱えた状態で何か呟いている。


「そこまで!」


 領主の声が会場に響き渡った。

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