第13話 「剣の能力」
一日中鉱石を運び続け、鉱山で最後の仕事がやっと終わった。
これで本登録に必要なポイントが貯まった事になる。
達成感と解放感で力が抜けてしまい、鉱山の管理事務所を出た所で、埃だらけのにゃーにゃーよを抱きかかえて、へたり込んでしまった。
「大丈夫きゃ?」
「うん、大丈夫。ありがとう。お前も頑張ったな」
そう言いながらにゃーにゃーよの頭を撫でていた時だった、採掘道具を片付けていた人夫の手が滑ったのか、ツルハシが頭の上から降って来たのだ。
「危ない!」
声が聞こえた時には到底避けられるタイミングではなく、固く重たいツルハシが頭にぶつかる事を覚悟した。
もちろん、リディアのマナの力が守ってくれるという気持ちもあったが、ツルハシが頭に当たる直前、突然右腕が勝手に動いたかと思うと、腰に差した剣を引き抜いていた。
自分の意志とは関係なく、剣はツルハシを受け止め弾き飛ばした。
剣に勝手に動かされた事に驚くのも束の間。弾かれたツルハシが直ぐ傍の櫓の足を破壊してしまい、櫓の上に置いてあった物が全て自分の方に落ちて来たのだ。
当たれば絶対に助からない大きさの物が、頭上にいくつも降り注いで来た。
そしてまた、剣が勝手に手を動かし、とてつもないスピードで全てを受け止め、弾き飛ばしてしまったのだ。
周りの人達は確実に俺が潰されてしまったと思い、立ち上る砂煙のなか心配そうに集まって来たが、傷ひとつ負わずに剣を手に佇む俺の姿を見て、度肝を抜かれていた。
「に、にいちゃんスゲーな! へなちょこで弱えーと思っていたら、とんでもねー剣使いじゃねーか!」
「こりゃー、たまがったぜ」
「あんたナニモンだ?」
集まって来た皆が一様に驚いていたが、一番驚いているのは自分だ。何だこの剣……。
そして、鉱山からの帰り道。この剣の特徴を更に知る事ができたのだった。
鉱山と町を繋ぐ街道を歩いていると、かなり大きめの野良兎が草むらから飛び出して来たのだ。
このサイズであれば、明日市場で店に売れば中々のお金になるはずだ。
俺は剣を抜くと、慎重に兎に近寄り剣を振り下ろした。
兎に当ったと思った瞬間、剣を持っていた手に強い衝撃が伝わり、剣は何処かへと飛んで行ってしまった。
兎は無傷で林の中へ戻って行く。この前の盗賊の時と同じだ。
もしかしてと思い、剣を拾い色々な物に切りつけてみた。
結局、衝撃で手が痛いだけで、傷ひとつ付ける事は出来なかった。
この剣の能力は『専守防衛』なのだ。
こちらから攻撃は出来ないが、攻撃を受けた時は同じ力ではじき返す力が具わっている。完全防衛の能力だ。
「これはまた変な武器を与えられたね」
「そうね。でも、この世界の生き物を傷つけてはいけないという事じゃないのかしら。知らないけど」
「ダメにゃーにゃーよ!」
「えー。じゃあ、明日から始めようと思っている討伐依頼とかどうすれば良いのかなぁ」
「頑張って考えてね、冒険者様。うふふ」
「頑張ってにゃー!」
翌日ギルドに行き、掲示板で依頼を見ながら考えていた。
俺は攻撃は出来ない。攻撃が出来るとすればにゃーにゃーよだが、多分攻撃力は無い。
とにかく、攻撃を完全に受けきる事が出来る能力をどう使うかだな……。
もちろん、それだけで達成可能な依頼など無い。
このままだと鉱山に逆戻りかと絶望していたら、テーブルで食事をしている冒険者のグループが揉めている声が聞こえて来た。
「だから抜けるってどういう事だよ!」
「移りたいパーティーが有るんだよ」
「チッ! なんだそれ、俺らは公平に報酬を分けて来たじゃねーか。何が不満なんだよ」
「別にお前らがどうとかいう訳じゃねーよ。昔から憧れていたパーティーに誘われたから、行きてーんだよ!」
「ったく。で、いつから抜けんだ?」
「もうギルドの手続きは済ませたぜ」
「はぁ? お前、今日受けた依頼はどうすんだ! タンク役のお前が居ないと無理だろうが!」
「知らねえよ。俺はもうこのパーティーのメンバーじゃねーんだ。誰か探せよ。まぁどうしてもと言うなら、臨時雇いで四倍の報酬なら受けても良いぜ」
「なっ……クソが! 消えろ」
一緒に座っていたパーティーから、ごついドワーフが離れて行った。残ったメンバーは頭を抱えている。
見た所、弓を持ったアーチャーが二人、杖を持ったメイジが一人、雑用係の短剣を持ったのが一人といった感じのパーティ。
恐らく抜けたドワーフがタンク役で、前線で戦いつつ相手を受け止め、その隙に弓と魔法で後方から相手を倒すといった感じのパーティー構成なのだろう。
ここで俺は閃いた。
攻撃は出来ないが、受けるだけで良ければタンク役が出来るかも知れない!
物は試しという事で、声を掛けて見た。
「はぁ? お前ランクは」
「Fです」
「最低ランクじゃねーか。冗談だろ」
「今日やっと本登録になったから」
「いや、そういう問題じゃ無くてな。そのひょろい体でタンク役とか有り得ないだろ。こっちが守ってやらないといけなくなるわ」
「じゃあ試してみて下さい」
「なんだぁ。怪我しても知らねーぞ」
「構いません」
「じゃあ、裏に出な」
ギルドの裏手にやや広めの草原がある。
パーティーを組む時に、相手の実力を見る為に利用される場所らしい。
短剣を持った奴が一番手前で、やや離れた所に残りの三人が立っていた。
「まあ、自分の浅はかさを知るんだな。ちょっと高めの授業料だ」
「いつでもどうぞ」
「口だけは達者だな……。行け!」
短剣を持った男が走り込んで来た。もの凄いスピードだ。
ただの雑用係かと思っていたが、どうやら短剣使いの戦士だった様だ。
全く反応出来ない俺をあざ笑うかの様に、二本の短剣が迫って来る。
だが次の瞬間、男は短剣ごと吹き飛ばされていた。
「チッ! 何だ? 油断したのか」
転がって行く短剣使いを尻目に、二人のアーチャーが同時に弓に矢を番えて、俺に向けて放つ。
構えていたメイジの杖からも火の玉が発生し、弓と同じスピードで飛んで来ていた。
回避行動を全く取らない俺の体に、二本の矢と火の玉が命中する直前、剣が勝手に反応した。
弾かれた矢は放たれた弓に向けて飛んでいき、アーチャーの手から弓を弾き飛ばし、火の玉は跳ね返ってメイジに当たる直前に、メイジの水の魔法で打ち消された。
「なっ……。すげぇ」
「魔法を剣で返したぞ……何者だ?」
この日から、俺は雇われタンクとして様々なパーティーと共に依頼をこなし、生活していくのに困らない十分な収入を稼ぐ事ができ始めた。
だけど、大事な問題は解決できていない。士官選考会で勝ち残るには、攻撃が出来なければ相手を倒すことが出来ないのだ。
防御だけのタンク役をこなしながら、どうやれば攻撃が出来るのかを模索する毎日が続いていた。




