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第12話 「ファザンメルトギルド」

 

「おはようございます! ご用件は何でしょう」


「このギルドの事を教えて下さい」


「あら、ギルドは初めてなのね」


 受付嬢の大きな猫耳が可愛らしくピコピコと動いている。


「ええ、昨日この街に着いたばかりなので」


「そうなのね。それじゃ説明するわ」


 受付の女性は姿勢を正し、少し胸を張った。


「ここはファザンメルトギルドという総合ギルドよ。領主様の許可を貰って、この街にある全ての職業ギルドを束ねる場所よ。この街に関する情報は全てここに集まっていると言っても過言じゃないわ」


「ファザンメルト……」


「ええ。まあ束ねるとか集めるとかいう意味だから、そのままの名前ね」


「そのままにゃーにゃーきゃ?」


「ええ、そのままね」


「そうなのきゃ!」


 受付嬢との会話を聞いて、にゃーにゃーよが割り込んで来る。


「にゃーにゃーよ、ちょっと静かにしててくれ」


「あにゃー」


「それから、この街の領主様はベイアー伯爵よ。国王陛下からの信頼も厚い素晴らしい方という噂よ」


「噂?」


「ええ。とても偉い方で、私などがお会いできる方では無いから」


「そんなに偉いにゃーにゃーきゃ?」


「ええ、とても偉いお方よ」


「あにゃー」


 再びにゃーにゃーよが話に割り込んで来る。


「にゃーにゃーよは話に割り込まなくて良いから。あの、もう少しギルドの事を詳しく教えて下さい」


「ええ、ここのギルドに登録が出来ると会員証と履歴記入書が発行されて、その履歴内容で受注できる仕事が変わってくるのよ」


「なるほど。ところで、この街で兵士の選考会があると聞いたのですが」


「選考会? ああ、領主様主催の士官選考会のことね」


「士官選考会?」


「ええ、士官候補の選考会なのよ。良い成績を収めて認められたら、領主様直属の兵士長になれるのよ」


「兵士長になる為の選考会ですか」


「そうよ。兵士長になれるということは、城内に住居を与えられて、更に武功が認められれば、爵位(しゃくい)叙勲(じょくん)される事もあるの。つまり貴族様の一員になれるかも知れないという事なのよ。凄いでしょー」


 選考会を勝ち進み、兵士長になれれば領主と話すことが出来る。そうすれば、王様との謁見をお願いできるかも知れないという事だ。

 やはり選考会に出場するしかなさそうだ。


「それで、選考会はいつあるのですか?」


「えーと、次は三月(みつき)後ね」


「三月後……。そうだ、この世界ではひと月は何日ですか?」


「えっ? ひと月が何日って……あなたどこから来たの?」


「いや、その、遠い国から」


「遠い国って言っても、ひと月は変わらないでしょう。変な人ね。ひと月は六十日に決まっているじゃない」


「ひと月が六十日。つまり六ヶ月も先の話か……」


「え?」


「あ、いえ、こちらの話です。ちょっとすみません」


「……ねぇリディア。滞在費用はあとどの位有る?」


 受付けの人に話を聞かれない様に、顔を寄せて小声で聞いた。


「そうね。あと十日といったところかしらね。知らないけど」


「十日……全然足りないな。お使い程度の任務って言っていたから、短期間で終わると思っていたけれど、カーラの勘違いかな」


「知らないわ。私は費用を預かっただけだから」


「リディア。お金を増やす魔法とか使えない?」


「使える訳ないでしょう。うふふ」


「そうだよねぇ。お金が足りないなぁ……」


「お金が無いにゃーにゃーきゃ?! それは大変にゃー!」


 小声で話しているのを聞いていたにゃーにゃーよが大きな声で喚く。


「お、お前、声がでかいって!」


 それ以上話させないように、両頬を(つね)って引っ張り上げると、むぐむぐ言いながら両足をじたばたさせていた。


「少し黙っていてくれ」


「ごめんにゃーにゃーよー」


「まあ、お金が足りないのは本当の事だからあれだけど」


「困ったわね。うふふふ」


「うーん。どうしようか……」


「あのー」


 受付け嬢が見かねた様に話しかけて来た。


「お金が無いなら、働いて稼げば良くないですか?」


「ええ、でも働いて稼ぐにはどうすれば」


「ここが何処か忘れていませんか? ギルドですよ……」


 ----


 ギルドへの仮登録を済ませ、適当な仕事を見つける為に掲示板を端から見て回った。

 本登録するには何度か仕事をして、登録に必要なポイントを稼がないといけないそうだ。

 でも、仮登録で出来る仕事はそれほど多くなく、単純だが重労働、危険だが保証も何も無いといった内容のものが殆どだった。

 戦う為の修練と滞在費用を稼ぐ為には、早く本登録を済ませ「討伐依頼」や「探索」といった仕事を得る必要があるのだが、取りあえず、日払いでお金が貰えるという事で、鉱山での荷物運搬の仕事をすることにした……。




 ところが、鉱山の荷物運搬の仕事は想像以上にハードだった。

 せいぜい手押し車を押したりする仕事かと思っていたら、その手押し車まで鉱石を運ぶ仕事だったのだ。

 それから数日間は泥まみれになりながら働き、その日の食事と宿泊代ギリギリの報酬を受け取り、川で体を洗って宿に帰るという生活が続いた。

 食事をして、狭いベッドに倒れ込むように横になる。


「ねえ、リディア。あの鉱石とかをもっと楽に運べるような魔法は無いの」


「あるわよ。知らないけど」


「えっ! 有るの!」


「それは、有るに決まってるじゃない。うふふ」


「じゃあ使ってよ」


「私はその魔法は使えないわ」


「どうして」


「この世界では、あなたを守る事しか許されてないからよ。うふふ」


「この全身筋肉痛からは守ってくれないの?」


「だって危険じゃないでしょ。うふふ」


「うーん。そう言う事かぁ」


「グオオオォォォ!」


 急に大きな音がしたと思ったら、にゃーにゃーよが大いびきをかいて寝ていた。

 殆ど手伝いにはなっていないが、大きめの鉱石をひとつずつ頭の上に抱えて運んでくれている。彼は彼なりに頑張っているのだ。

 可愛くて頭を撫でてやったら、ムニャムニャ言いながら寝返りをうっていた。


「でも、そんな魔法が有るなら、何で魔法使いがこの仕事をやらないのかな」


「貴重なマナを利用して魔法を使うには報酬が安すぎるからじゃないかしら。知らないけど」


「ああ、なるほどねぇ……」


 そう言いながら、俺も殆ど意識が無くなり、気が付くと寝てしまっていた。


 翌朝、またリディアを挟みながら、にゃーにゃーよが俺にしがみついて寝ていた。

 まあ、毎日こんな感じの朝が続いているが、鉱山の仕事は今日で終わり。

 今日の仕事で、やっとギルドの本登録に必要なポイントが溜まるからだ。

 明日からは、もう少し報酬の良い依頼をこなすことが出来るようになるはず。

 筋肉痛は相変わらずだが、最終日だと思うと元気が出て来た。


 そして、この鉱山での最終日の仕事で、転移時に与えられた剣の秘められた能力を発見する事が出来たのだった。

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