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第11話 「酒場の宿」

 街より一段高い位置に、更に堅固な城壁に囲まれた城が見える。

 日が暮れて城壁内にかがり火が焚かれ、街や城壁の内側が明るく照らされ始めた。

 初めて訪れた世界の初めての街。

 空が暗くなって来たが、城壁内はかがり火に照らされている場所がぼんやりと明るく、幻想的で美しい。

 しばらく街を散策したが、日が暮れると出歩く人も少ないようで、開いている店もあまりない。

 酒樽の看板が出ている、いかにも酒場という感じの店に入り、食事をしながら今後について話をすることにした。


 大きめの木の扉を開けて店に入ると、店内は思いの外明るかった。

 天井に吊るされたランプがいくつもあり、それぞれの席にも明かりが置いてある。

 客の何人かがこちらをちらりと見たが、それ以上の反応は特に無い。

 この街では、よそ者は珍しい訳では無さそうだ。

 店主らしき人が現れて、人数を確認すると近くの四人掛けの席を与えられた。

 食事と飲物を適当に頼むと、店主は厨房へと消えていった。


 ----


 にゃーにゃーよが何を食べられるのか不安だったが、自分たちと同じ物を普通に食べていたので、取りあえず食事に関しては一安心だ。


「さて、これからどうすれば良いと思う?」


「王様に会って手紙渡して完了よ。うふふ」


「完了ー、完了ー、にゃーにゃーよー♪」


「簡単に言うけれど、どうやって会う? そもそも、あの城に王様が居るのかも分からないし」


「うーん。その辺の人に聞けば良いじゃない。知らないけど」


「その辺の人って、周りは酔っ払いだらけだよ」


「にゃーにゃーよが聞いて来るきゃ?」


「い、いや、自分で聞きに行くよ。君が行くと話が余計ややこしくなりそうだから」


「酷いにゃーにゃーよ」


 背中に非難の声を浴びながら、それほど酔って無さそうな人を見つけ声をかけた。


「王様? ここに居る訳ないだろう。ここの城には領主様しか居ないぞ」


「そうですか。では、王様は何処に行けば会えるのですか」


「王様に会う? そんなこと無理に決まっているだろうが、お前は酔っぱらってるのか?」


 酔っ払いに言われる筋合いはないとは思ったが、情報は取れるだけ取らないといけない。


「いや、王様にどうしても会いたいのです」


「何でそんなに会わないといけないか知らないが、冒険者風情が直接王様に会えるなんてありえないだろう」


 普通に考えればその通りだ。酔っ払いだが正しい。


「そうだな。どうしてもと言うなら、ここの領主様に掛け合ったらどうだ。まあ、領主様に会うのも無理だろうけれどな」


 同じ席に座っている男達から笑い声が上がる。

 これ以上話しても埒が明かないようなので、会釈をして男達の席から離れた。


「おう! そうだ。領主様に会いたければ、兵士の選考会が開かれるから、そこで活躍する事だな。そしたら領主様に会えるぞ。楽勝だろう?」


 男達が再び大声で笑い始めたが、これは耳よりの情報だ。

 直ぐに振り返り、男たちに話しを聞くことにした。


「その選考会の事は何処で聞けば教えて貰えますか?」


「おお、兄ちゃん出るのか。そうだなぁ。明日ギルドにでも聞きに行きな。この先の広場にある大きな建物がギルドだ。まあ、頑張んな」


 礼を言って席に戻ったが、男達は弾ける様に笑い始めた。

 あんなひ弱そうな奴が、選考会で活躍できる訳が無いといった所だろう。

 まあ、確かにその通りなのだが……。


 リディア達に聞いた内容を伝え、明日ギルドに行く事にした。

 いずれにしても、どうにかして戦う為の修練を積まなければ、道が開かれない事は確かな様だ。

 男達が笑った通り、このままで選考会で活躍できるはずもない。


 食事をした酒場の二階が宿屋で、今夜はそこに泊まる事にした。

 生憎(あいにく)、ベッドがひとつの狭い部屋しか空いてなく、そこで三人で一緒に寝る事になった。

 にゃーにゃーよは初めての宿泊が嬉しい様で、暫く騒いで回っていたが、眠たくなったのか、いつの間にか静かになっていた。

 俺は襲われた時の情けない戦い方を思い出したり、これからの事が気になったりで、なかなか寝付けないでいる。

 しかし、この世界に来て早々にギルドや兵士選考会の話が飛びこんで来た。

 まさに冒険世界の王道が待っている状況には、何とも言えない高揚感がある。

 とにかく、明日から何が待っているのか楽しみだ。


 気が付くと、黒い丸い生物は既にいびきをかきながら寝てしまっていた。モフモフのお腹の上に心地よさそうにリディアが眠っている。

 にゃーにゃーよのモフモフを触りたいという気持ちを抑えきれず、そっと触れてみた。

 驚くほど触り心地が良く、手を離すことが出来なくなってしまう。リディアがお腹の上で眠ってしまうはずだ。

 柔らかな毛並みを堪能しているうちに、自分でも気が付かないまま寝入ってしまっていた。


 ----


 翌朝、目が覚めると、にゃーにゃーよが俺にしがみついて寝ていた。

 リディアは自分とにゃーにゃーよに挟まれるように寝ている。

 砂漠の星で拾われてこの方、これ程幸せな気持ちで朝を迎えたのは初めてかも知れない。

 しばらくこの幸せを堪能してから二人を起こし、部屋で朝食を食べて宿屋を後にした。


 昨日聞いた広場に行くと、既に朝市が開かれていて、大勢の人や人の様な者達で賑わっていた。この街にこれほど多くの人が居たのかと驚かされる。

 広場を挟んだ反対側に、ひときわ大きな建物が見える。

 広場側の壁一面に職業を示す紋章が沢山掲げられていた。見た目で何の職業を表しているのか直ぐ分かるものもあれば、全く想像がつかないものもある。

 この街のギルドの建物ということは間違いないようだ。


 楽し気な市場をゆっくりと見て回りたかったが、先ずはギルドにいって情報収集をしなくてはいけない。

 人をかき分けるようにしながら広場の反対側に出て、何とかギルドの入り口にたどり着くことができた。

 石造りの大きな建物で、木でできたアーチ状の両開きの扉が大きく開かれ、建物の中が見えている。

 奥の方にカウンターがあり、手前のフロアには椅子とテーブルが大量に置かれ、壁には掲示板が一面に並べてあった。

 席に座り何やら話し込んでいる者や、必死な形相で掲示物を見ている者達がいる。

 カウンターの脇に店があり、そこで購入したものを席で食べながら過ごしても良いようだ。

 何をどうして良いかも分からなかったので、取りあえず奥のカウンターで話を聞いてみることにした。


 ギルドカウンターで自分達に応対した受付の女性は、キツネの様な大きな耳が付いていた。

 若い半獣人で、とても可愛らしい。

 冒険者気分満点だ。

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