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第10話 「強いわね冒険者様」

 

「で、取りあえずこの世界で何をすれば良いの?」


「えっとね。王様に会えば良いみたいよ。知らないけど」


「王様に会えば任務終了なの?」


「うーん。契約書を渡すだけみたいよ。うふふ」


「何だかあっさり任務完了で終りそうだね」


「そうね。知らないけど」


「それで、王様は何処に居るの?」


「知らないわよ」


 あっさりと終わる任務と思っていたけれど、また手探りからスタートの様だ。


「と、取りあえず、街を探してみようか。この手の世界の定石だし」


「そうね。そうしましょう。知らないけど」


「おーい、にゃーにゃーよー。行くぞー」


 虫か何かを見つけて遊んでいたにゃーにゃーよが、遠くからトコトコ走って戻って来た。

 コミカルな姿が相変わらず可愛らしい。


「どこに行くにゃか?」


「街を探して移動するよ」


「分かったにゃー」


 街を探すならば山とは反対の開けた方角に行った方が良いはず。

 草原を抜け出し街道を歩いて行く事にした。


「契約書って、何の契約書だろう」


「詳しくは知らないけれど、召喚了承の契約書とか言っていたわよ」


「ふーん。王様に渡さないといけない様なものだから、結構大事なものなのかな」


「そうでしょうね。知らないけど」


「おーさま、おーさま、にゃーにゃーよー♪」


 にゃーにゃーよが自分とリディアの話に合わせるように、時々変な歌を歌い出す。

 マスタープログラムの頃の面影はもう無い。

 何か興味がある物を見付ける度に駆け寄って行き、追いかけ回したり、反撃されて驚いて転げたりしている。

 リディアもにゃーにゃーよの後を追いかけて回り、一緒に楽しんでいる様だ。


 しばらく長閑な行程が続き、日が暮れ始めた頃に街道の先に城壁の様な物が見えて来た。

 夕日に照らされながら歩き続けると、城壁に囲まれた街と城がはっきりと見て取れるようになってきた。夜になる前に運良く街を見つけることが出来たらしい。


 街を見つけて一安心だと思った途端、街道の脇から三人組の男達が飛び出して来た。

 見るからに盗賊といったいで立ちの男達。大きめの短剣を握っている。


「命が惜しければ、大人しく持っている荷物と装備を全部置いていきな」


 こういう時の定型文を言いながら、囲む様に男達が近づいて来た。

 正直なところ、内心では恐ろしかったが、腰の剣を抜いて応戦の構えを見せる。

 何と言っても転移時に与えられた剣だ。弱い訳がない。

 剣と魔法の世界での冒険の始まりだ。


「おう。死にてーみてーだな。やっちまえ!」


 男の合図と共に、男達が一斉に飛びかかって来た。

 剣で戦った事は無いが、行ける感じがする。

 正面から向かって来た男に剣を振り下ろした。

 素早く剣を振り下ろした刹那、鋭い金属音が鳴り響く。

 剣を持っていた手に強い衝撃が伝わって来る。

 当たったと思った次の瞬間、持っていた剣は何処かへと飛んで行ってしまった。


「馬鹿め、隙だらけだ!」


 そもそも戦った事も無いのに行ける訳が無かったのだ、男たちの短剣が三方から体に突き立てられる。

 短剣が体に迫るのがスローモーションの様に見えていた。

 異世界で簡単に活躍できると考えた自分の甘さを思い知った。何も出来やしない。

 視界の隅ににゃーにゃーよが走って逃げて行く姿が見えた。

 それで良い。リディアと一緒に逃げおおせてくれれば良いと思った。


 三本の剣先が体に深く刺さり、鋭い痛みが走り自分の命もここまでと思い目を瞑る。

 だが、短剣は刺さらなかった、刺されたと思った箇所も痛くも痒くも無い。

 しかも、男達は突進してきた方向に跳ね返される様に吹き飛んで行った。

 体に刺さるはずの短剣は粉々に砕け散り。男たちの体は何度もバウンドしながら転がって行く。


 マナだ! リディアが言っていたマナの力で守られたのだ。ものすごい効果だ。

 死にかけた恐怖で足が震えていたが、このままだと反撃されるかも知れない。

 周りを見渡して飛んで行った剣を見つけ、小走りで拾いに行く。

 及び腰で剣を構え直したが、振り向くと男達はほうほうの体で逃げて行くところだった。

 何とか助かった様だ。自分では何もしていないけれど……。


「強いわね冒険者様~。うふふふ」


 いつの間にかリディアが近くを飛んでいた。助かったのはリディアのマナの力だ。


「リディア様のお蔭でございます」


「うふふふ」


「ありがとう」


「どういたしまして。まあマナの力であって、私の力じゃないけれどね。知らないけど」


 遠くから様子を伺っていたにゃーにゃーよも、安全だと分かると駆け戻って来た。


「大丈夫きゃ?」


「うん。リディアのマナの力で守られたよ」


「そうなのきゃ? リディアは凄いにゃーにゃーよー」


 にゃーにゃーよが両手でリディアを抱え込んで、クルクルと回りながら踊っている。

 自分は何も出来なかったが、取りあえず全員無事で良かった。


「取りあえず街に入ろう。さっきの連中に仲間を呼ばれたりしたら、今度は助からないかも知れない」


「そうね。日も暮れて来たし、先ずは街で何か食べましょう。うふふ」


「おお、ご飯にゃか! 嬉しいにゃーにゃーよー!」


 にゃーにゃーよの呑気(のんき)な雰囲気とは裏腹に、俺は何かに追われるように小走りで街道を進んだ。

 そして、日が沈む前に城門へと辿り着き、何とか街に入る事が出来たのだ。

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