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憧れの異世界転生を果たしたがなんか違う

書きたくなったので書きました

「残念ながらおぬしは死亡した。」


いつの間にか真っ白な空間にいたと思ったら俺は目の前の爺にそんなことを言われた。


「ああ、その前に自己紹介をしようかの。

わしは神じゃ。」


「はあ・・・


・・・はぁっ!?」


いきなり『自分は神だ』とか言い出す人なんて怪しくて仕方がないと思わないでもなかったが

それ以上に俺は興奮していた。これは夢にまで見た()()()()()()だ!


「も、ももももももしかしていいいい異世界転生ってやつすかっ!?チートで無双ハーレムさせてくださいっ!」

「落ち着け」


これが落ち着かずにいられるか!?平々凡々、取り立てて優秀なところもなく女の子にモテることもなかった俺にもようやくチャンスが巡ってきたんだ!

そういえば異世界転生ってことは俺は死んだんだよな?どうやって死んだんだっけ・・・


「ああ、おぬしの死因はS級冒険者の広域殲滅魔法に巻き込まれての焼死じゃ。運悪くの」


「焼死?」


「まあ正確には一瞬で塵も残さず燃え尽きた、という感じじゃがの。」


なんじゃその死に方、カッコわりぃ・・・

どうせなら魔物と正々堂々戦って死にたかったぜ・・・


「まあ過ぎたことを悔やんでも仕方あるまい?

それで神たるわしが凡庸なおぬしをわざわざこんなところに呼び出したのは」

「異世界転生ですよね!?ね!?」

「食い気味じゃの・・・まあ端的に言えばその通りじゃ」


異世界転生。もともとはかつて異界から現れ世界を救った勇者様が晩年に残した伝記に記されていた言葉だといわれている。

平凡な青年が世界を渡り、神より与えられし圧倒的な力を振るう。

そして巨額の富と揺るがぬ栄誉、世継ぎを欲する女性たちに囲まれたハーレムを手に入れる。

何の力もない青年を英雄にした「異世界転生」は平凡で大きな力もない俺を惹きつけてやまなかった。

それが今目の前にぶら下がっているんだ!興奮しない男がどこにいる!


「それでっ!?チート能力はどんなものが選べるんすかっ!?最強になってモテモテになりたいっす!」


「すまないがチート能力は個々人の適正と転生先の世界におおきく依存する故、詳細はわしら神の側で決定しておる。じゃがよほど失敗しなければ人生が上手くいき幸せに暮らせるはずじゃ。楽しみにしておくのじゃ。」


チート能力は選べないのか・・・まあランダムってのも面白そうだし貰えないよりマシだよな!


「それでは転生作業にはいるぞい。よい人生を送るのじゃぞ。」


「はいっ!あ~楽しみだな~異世界!」


ほどなくして俺の意識は遠くなっていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「はぁ・・・近頃の若いもんは異世界転生モノの小説ばかり読みおるせいで転生に至る事情もまともに話せんわい・・・。」


老人風の見た目をした神はそうぼやく。


一人である時間が長いせいで独り言が多いのだ。


「勇者たちが異世界と呼ぶこちらの世界に魂が流れ過ぎたのでちょっと返せ、とあちらの神々にせっつかれただけなのじゃが・・・」


そう言いつつ神は次の転生作業に取り掛かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




あの神を名乗る爺と話して、憧れの異世界転生をしてはや2年。



「しゅてーたしゅ!」



まさか赤子からのスタートとは思っていなかったので最初はびっくりしていた俺だが、

ようやく話せるようになったので()()()()()()()()()()()()「ステータス」を開こうとした。んだが・・・


「しゅてーたしゅ!しゅてーたしゅ!・・・ありぇ?」


おかしいな・・・?ステータス画面が出ねえ。発音が悪いのか?


「あなた!あなた!和也がしゃべったのよ!」


「なにっ!?本当か!」


この世界での親父とおふくろに気付かれちまった。にしてもふたりともすんげえ美男美女に見える。

親父は顔は整ってるけどあんまり強そうには見えないが・・・こんな美女どうやって落としたんだ?


「かずや~♡ママって呼んでみて、ママって!」


「ほ~ら、パパだぞ~!」


24年生きてきて今更ママパパ呼びは恥ずかしいな・・・まあ2歳児なんですけども。

にしてもステータス画面が出ないのは気になるな・・・

俺はカズヤって名前らしいがどういうつづりなのかもステータス画面が無いと分からないし・・・よし!


「しゅてーたしゅ!・・・。」


やっぱり出ねえ。今日は諦めて寝るか・・・


「ねえあなた・・・『しゅてーたしゅ』ってなんのことだか分かるかしら?私この子の前でそんなこと話したことないのよね・・・。」


「うーん・・・悪いが分からん・・・。」


ステータスが分からない、だと・・・?

気になるが眠くて仕方がない・・・。2さいだから・・・おやすみ・・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




5歳になった。

あれからいろいろ試してみたがステータスは出ないし火炎弾魔法1発分の魔力すら今の俺にはない。

どうみても転生前より弱くなっている。

何がチート能力だクソ爺!こんなんじゃまともに魔物も倒せねえよ!


「かずやくんなにおこってるの?」


「ああ・・・俺は自分の弱さ、不甲斐なさに怒ってるんだ。七海。」


「かずやくんはよわくなんてないよ!」


本当はクソ爺に怒ってたんだが・・・隣の家に住むょぅじょの七海ちゃんにそう聞かれて俺はとっさにごまかした。

実際俺は明らかに弱くなった。前世で冒険者やってた時より強くなれる見込みもない。


「俺はもっと強くなりたいんだ。強くなって、そして・・・」


女の子にモテモテになりたい。そう言いかけてょぅじょの前であることを思い出して言いとどまった。


「大切なヤツを守れるようになりたいんだ」


「かずやくん・・・それって・・・キャッ///」


七海ちゃんがなにやら頬を染めているがどうしたんだ?


「頬赤いぞ?大丈夫か?熱でもあるのか?」


「か、かずやくん!?こんなところでだいたんだよ・・・!」


なにか勘違いされている気がするな・・・。

俺はょぅじょには手を出さないぞ!七海ちゃんのお母さんはめっちゃ美人だったからウェルカムなんだけどな!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



6歳になった。

このひ弱なボディでいつか魔物と戦うことを考えて剣術を習わせて貰っているが

前世の剣術と全然違うな・・・

重量を押し付ける感じではなく非常に鋭利な刃物を扱っている感じだ。

剣道、というらしい。

おふくろにこの剣道を習いたいと俺が言ったときは

『剣道か・・・あれ臭くてあんまりいいイメージないのよねぇ。』

と難色を示していたが習わせてくれた。見学に行った限りそんなにひどい匂いではなかったと思う。男所帯の冒険者連中のほうが何倍も臭かった。



床に足を踏みつけ、竹と竹がぶつかり、子供たちが声を張り上げる。

独特な形状の鎧と兜を身にまとい、俺たちは稽古をしている。


(まるで・・・いや子供の遊戯そのものだな)


竹でできた剣を振りながら俺はそう思考する。


「よーし、それじゃ今日は試合をしてみるぞ!2列に並べー!」


子供たちが一対一で試合を進めていく。中には素振りや打ち込み稽古で学んだ技を試合で活かしているセンスのある子供も見受けられた。そうして次は俺の番になった。相手は俺より年上で経験もあるのか、初めての試合に臨む俺を見てにやにやとしている。


「・・・始めっ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


試合開始の合図とともに少年は速攻で間合いを詰め、縦に切るように攻撃を仕掛けた。

相手は始めたての初心者、速攻で面を打てば勝てる!

そう考えていた次の瞬間、少年の前から和也の姿が消え、直後に腹部についた防具に衝撃が伝わった。


「ど、胴あり!」


審判を務める教官の旗が上がる。彼は呆然とするしかなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


攻撃をしないと相手は倒せないのだから攻撃をガンガン仕掛けるべき、というのは確かに正しい。正しいのだが・・・


(攻めるのならよりリーチに優れた槍があるというのになぜ剣が冒険者に愛されてきたのか、

なぜなら剣は防御にも用いるから。槍よりも防御的な武器なんだよ、剣は)


「す、すげー!」

「今のお侍さんみたーい!」

「どうやったの今の!?」


冒険者時代の剣術にもあった基本的なカウンターを打っただけでこんなに称賛されるなんて・・・。

これが勇者の伝記にあった俺ツエーってやつか?いや、俺はまだまだ強くないしな・・・。


「ただ相手が面を打ってきたなーって思ったから、右斜め前に足を踏み出して竹刀を横に寝かせてそのまま流したんだ。

いつものメニューに『抜き胴』ってあっただろ?あれをやってみたんだぜ」


「へー!」

「言われてみれば!」


(抜き胴の練習は確かにさせている。だが試合ですぐに使えるかと言われると否だ。あれはつまりカウンターだ。熟達して読み合いができるようにならないと使いこなせない技だ。それをこんな子供が読み切って使っただと・・・?)

盛り上がる子供たちをよそに、教官は一人考え込んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


18歳になった。

このころになると俺はなんとなく察してきていた。


つまりこの世界は魔物なんていない、平和な世界なのだと。

数多の人々が望んだ、魔物の襲撃なんてない世界なのだと。

なるほど、そんな世界に魔物と戦うための剣や槍やチート能力なんぞ不要なわけだ。

そう考えれば前世からの弱体化も納得できた。

結局あのクソ爺からチート能力なんぞもらえなかったわけだが・・・


「和也くん、明日はお休みだしおうちデートしない?お部屋で映画一緒に見ようよ~」


「ダメよ七海さん、和也君はわたくしと水族館に行くのよ!二人っきりで!」


「いや、和也は私と二人きりで稽古の予定だが?諦めてもらおう」


俺を取り合う3人の美少女たち。幼馴染の七海、いいとこのお嬢様らしい涼子、同じ剣道部の部長で凛々しい口調の彩香。

うぬぼれでなければ3人とも俺のことが好きだと思うしそのことは嬉しいんだけども

あんまり強くもない俺がどうしてこんなにモテるんだ?

それになんか思ってた「モテモテ」と違う気がする・・・。


「あの、俺明日は用事が・・・」


「また〇ろう系アニメ一気見でしょ?私は理解ある彼女だから一緒に見てあげるよ♡」


「全く、稽古しないと身体がなまるぞ?大した予定じゃないようだし朝から晩まで練習に付き合ってもらうぞ」


「彩香さんはストイックすぎますよ?和也君だって休日は水族館で癒されたいでしょ?」


「はは・・・3人ともそのくらいで・・・」


「「「和也くんは誰を選ぶのよ!!!????」」」


憧れの異世界転生を果たしたが無双はできないし3人とも独占欲が強いせいでギスギスしてハーレムになりそうにない。なんか思ってたのと違う気がする・・・。



彼に神様が与えたチートは「美男美女の間に生まれ優れた容姿を持つ」「幼馴染がいる」の2つであり、彼にとってのチートは「前世の記憶」「前世の実戦経験」です。

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