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魔王の娘は推しの国を滅亡させたりしない。  作者: 氷雨そら
第一章 魔王の娘。亡国の王子と出会う
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抱擁と魔法


 どうしてディアーシュ様は、その情報をすでに持っているのだろう。頭の中でその疑問がグルグルと廻っている。


 思考がまとまらない、なんて答えれば……。


 お母様、魔王、そしてセントディア(主人公たちの)王国。……ディアーシュ様。


 目がまわって気分がひどく悪い。


 ディアーシュ様がどうしても破滅してしまうのは、セントディア王国が関係しているの?


 その時、そっと抱きしめられて頭を撫でられる。温かくて優しいその感覚にディアーシュ様を失うかもしれないという不安と恐怖が和らぐ。


「────っ。大丈夫だから」


「ディアーシュ様……?」


 ボロボロと勢いよく涙が零れ落ちていく。この世界に来てから、ディアーシュ様を助け出すまで泣かないと決めていたのに。


「何がそんなに不安なんですか」


「ディアーシュ様、私は」


「────あなたは、この世界に一人で取り残された幼な子みたいだ」


 ディアーシュ様の言うことはある意味真理をついている。

 たしかに気がついたら魔王の娘になっていて、ステラとして過ごしてきた記憶はあっても、この世界に一人取り残されたような気持ちも捨てきれない。


「なぜ、あなたは俺を助けてくれる?なぜ、そんなにも俺に対して……」


 全ての気持ちを伝えたら、ディアーシュ様はなんて答えるのだろうか。


「私は……ディアーシュ様の」


「俺の?」


「未来を」


 本当のことを伝えようとした瞬間、乙女ゲームで何度も何度も見た、ディアーシュ様の結末が脳裏に過った。


「ステラ!?」


 ────怖い。ディアーシュ様が、実際にそんな結末を迎えたら。


「……もう、大丈夫です」


 それだけは駄目。それだけは嫌。

 私が守るから。


「とても大丈夫には見えない。それに」


 トンッと軽くディアーシュ様の腕を押して距離を取る。推しを助けたいと強く願う私。ディアーシュ様を助けたい今の私。恐怖より強いこの感情は。


 ────ディアーシュ様が好き。


 そう思った瞬間、強く腕を引かれた。気づけばもう一度、ディアーシュ様の腕の中にいた。


「……俺もステラ様のこと好きですよ」


「────えっ?」


「良かったら、俺の能力、聞いてくれませんか?知っているのは両親だけで、誰にも話したことがないんです。俺のこと嫌いになるかもしれませんけど」


 優しい光を放つ、淡い月の光を宿した瞳。その美しい瞳が少しだけ潤んで私を見つめている。


「すっかり不安は消えて。残っているのは興味と俺のこと好きだって気持ちと、もう気がついているんですよね?……なんで少し喜んでいるんです?」


 喜んでいるのは、ディアーシュ様が誰にも話したことがないことを私に教えてくれたから。


「つまり、そういうことなんですね?」


 ディアーシュ様は、私から手を離すと少し早口で能力の説明をする。


「制約はあるんですよ?対象に触れなければ発動しない不便な力だ。逆に触れてしまうと、俺の意思に関わらず感情が流れ込んでくる」


「それは……」


 両親しか知らないと言った。誰にも話したことがないと。


 私は、離れていったディアーシュ様の手を握る。


 悲しい。あなたがその能力のせいで、たぶん何度も傷ついたこと。そして恥ずかしい。私の気持ちが全部筒抜けだったこと。それからやっぱり教えてもらえて嬉しいし、好きです。


「参ったな。嫌われるつもりだったのに」


 嫌いになるはずがないと、心の中でほんの少しだけ私は怒った。


「ごめんね?」


 そう言ってディアーシュ様は、私の額にキスをした。


最後までご覧いただきありがとうございました。


『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ディアーシュ様は月明かりに照らされているイメージです、癒やされますね♪ [気になる点] ディアーシュ様の能力を念頭に、二人の場面を読み返すのもまた楽し^_^
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