推しとのダンスは突然に
いつも暗く重々しい印象の黒と金色の王城も、今宵ばかりは色とりどりのごちそうや美しい色のテーブルクロス、着飾った貴族たちできらびやかに輝いている。
そして、なぜか推しとダンスを踊っています。
父からの提案という名の命令を受けたディアーシュ様は、期間限定でこの国に残ることが決まった。
その返礼として、私とともに今宵ダンスを踊る栄誉を受けることになったディアーシュ様。
……これ誰得?私だけ得してない?
私のダンスの腕は、自分で言うのもなんだけど一流の部類に入ると思う。
幼い頃から最高の講師に師事している。魔王の娘として恥をかかないレベルくらいは踊ることができる。
それでも、ディアーシュ様のダンスのリードは完璧で、本当に踊りやすい。
ステップを踏んで目が合った瞬間「本当にこんな楽しいダンスは初めてです」と言って少し意地悪そうな表情をディアーシュ様がした。
そんな顔すら美しすぎて、社交辞令だろう言葉とともに永遠に忘れられなくなりそう。
そう思った瞬間、私の体はクルリと回転しながら宙を舞う。
「わ……」
私が魔王の娘なせいで、今まで一緒に踊ったダンスの相手は必要以上に緊張していたり、型にはまったダンスしか踊らなかった。
ダンスがこんなに楽しいなんて知らなかった。
トンッと地に足が着くと同時に曲が終わり、盛大な拍手で迎えられた。
両国の友好は、完全に我が国の重鎮たちに印象付けられたことだろう。
わかっている。王太子として計算してのことだって。
でも……うれしい。
画面の中の推しが急に目の前に現れて、素敵な言葉をかけてもらって最高に楽しいダンスを踊ったら舞い上がってしまうのは仕方がないことだと思う。
今夜だけ……誕生日の今夜だけは許して欲しい。
そうすれば私は、明日からまた魔王の娘として、ただ推しの幸せのためだけに生きていけるから。
「ともに踊る栄誉を頂き、ありがとうございました」
「こちらこそ、素晴らしい腕前でしたわ」
離れていく手が名残惜しい。
こんなの我儘だ。だって、この国は乙女ゲームのラスト通りに破滅するかもしれない。
そんなヴェルド王国とアルディア王国が近くなりすぎるのは良くない。
無理に属国にされていたということであれば、セントディア王国もアルディア王国まで滅ぼそうとはしないだろうから。
私は踵を返して席に戻る。そこには楽しそうに笑う父の姿があった。
「面白いものを見たな……悩んでいたが、贈り物が決まったよ」
「え?銀の花を頂きました」
「そのプレゼントは奴に盗られてしまったからな」
父の言った意味は分からなかったけれど、なぜか私は運命のレールがズレていくような予感がした。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるととてもうれしいです。