誕生日のサプライズ
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しかしその日の夜、私の誕生パーティーで事件は起きた。
私は白いドレスに白いバラの花が装飾された髪飾りをつけてパーティーに出席する。
15歳はこの国では成人を意味する。
私の王位継承権は実は二人の兄に続いて三位と高い。実力主義のヴェルド王国では王位継承権も実力で決まる。
よく考えれば、魔王の娘として王立学園に潜伏している悪役令嬢役のステラがぶっ壊れ性能なのは当然なのだと思う。
意外なことに光魔法も使えるし、なぜか魔王の娘なのに闇魔法が使えない以外全属性に適性がある。
そんな魔王の娘ステラはセントディア王国の王太子に恋をする。
でも、一般的な感性を持ち合わせていないステラは、自分の愛のためであれば相手の気持ちなど斟酌しないし、邪魔する者はあらゆる手を使って排除しようとする。
ステラのヤンデレ令嬢っぷりは、かなり際立っていた……。
まあ、私はそういうの趣味ではないからやらないけれど?
最愛の推しが私を見つめてくれたら……。それくらいは想像しなくもないけれど、想像しただけで頬が熱を持ってくるのを感じる。
まさか実物に耐えられるとも思えない。
そんなことを思いながら席に座っている私に、次々と家臣やその家族たちが挨拶に来る。
私は座ったままで「感謝します」と決まり文句でその挨拶を受ける。退屈だわ。
「……?」
あくびをかみ殺していたのに、最後にあいさつに来た人を見た瞬間、私の時が止まる。
思わず私の唇が「……ディアーシュ様」と声を出さずにその名前を紡ぐ。
見間違うはずがない。
ブルーグレーの髪に、淡い金色の瞳……。切れ長な瞳と整った鼻、形の良い薄い唇。
私の目の前には、なぜかアルディアの王子、ディアーシュ様が跪いていた。
瞳が交差する。心臓が口から飛び出してしまいそうだ。
思わず立ち上がってしまった私に、周囲が注目するのを感じて慌てて席に座りなおす。
「本日はお招きいただきありがとうございます。アルディアの王太子ディアーシュと申します。本日は友好の印に、銀色に輝く月写しの花を届けに参りました」
父にお願いをしたのは、今朝の話だ。
その日のうちに、まさか王太子自らが花を届けるためだけに訪れるとは思っても見なかった。
いや、乙女ゲームの中では一晩でアルディアは滅ぼされてしまったと語られている。
それだけ、魔王の治めるヴェルド王国とアルディア王国では国力の差があるのだろう。
「……お会いできて光栄ですわ。アルディアの王太子殿下。銀の花もとても欲しかったものなのでうれしいです。友好の印として早速私の部屋に飾りますね」
「光栄です……王女殿下」
そう言って、もう一度立ち上がるとその手の中の銀の花束を受け取る。
受け取る瞬間に、一瞬だけディアーシュ様の指先と私の指先が触れ合う。
もう、この手を洗うことは一生出来そうもない。
明日死んでも悔いがない。
私が微笑みかけるのを、ディアーシュ様がなぜか瞬きもせずに見つめている。
私は幸せすぎて呆然としていたので、そのことに気が付くことはなかった。
これだけで、一生分の幸せをもらった気持だったのに、その夜はまだまだ終わらなかった。
父が口を開く。
「ディアーシュ殿は、とても優秀らしいな。すでに大陸の言語のほとんどは流暢にしゃべることができると聞いている。事実か?」
「──アルディア国王陛下。流暢とまではいかないかもしれませんが、主要な国の言葉を話すことができるのは事実です」
そう、ディアーシュ様は剣も、魔法も、知識もすべてにおいて秀でている。
だからこそ、大陸でも使用を禁止されている隷属魔法によって縛られてしまった。
「魔法は闇と氷属性を使うことができると聞いているが」
「……事実です」
父の言葉に会場が一瞬騒めく。それだけ闇魔法は稀少だ。私の持つ光魔法と同等かそれ以上に。
その瞬間、いきなり父が抜剣してディアーシュ様に斬りかかる。
「だめ!!」
思わず私は、全力で光魔法で物理障壁を作り上げてディアーシュ様を守った。
父の剣が、光の壁にはじき返される。
──本気ではなかったのね。
私の力程度で父の剣を防ぐことができるはずはない。最初からディアーシュ様を試すためだけに振るわれた剣。
私は動揺を押し隠し、優雅に見えるよう微笑んだ。
「お父様……ひどいです。祝いの席が血で汚れることを私、望んでいませんわ」
いくら娘とはいえ、魔王の剣を魔法で防いでしまった。不敬と言われて罰せられても仕方がないことをした自覚がある。
そしてディアーシュ様を守りたいと思ったことを気づかれるのも良くないだろう。
その瞬間、ふわりと高く抱き上げられる。
「殺そうとしたんじゃない……。ただ、どの程度のものか確かめたかっただけだ。許してくれないか?」
魔王がたとえ娘に対してでも謝るなんて……。しかも、15歳にもなった娘を軽々と抱き上げた?
何かが乙女ゲームと違ってきている気がする。
気のせいなのかもしれないけれど。
「それにしても……俺が剣を振るっても目を瞑ることもなく、動くことすらなかったな。俺が当てることがないと読んでの事か?」
父の声は氷のような冷たさと鋭さを帯びている。
会場にいる人たちも、その冷気に当てられたのか色を失っている。
たった一人を除いて。
「斬られても、斬られなくても。わが国民のために捧げている命です。恐れなどありません」
そうだよね。ディアーシュ様はこういう人だった。
この場で反抗することも、恐怖におびえることも国のためにならないと理解している。
清廉潔白な悲劇の王子。
ああ、推しが今日も尊い。
「そうか……」
そう言って、私を下ろすと父は剣を鞘に納める。
「ははっ。面白い人材を見つけた。このままこの国に残る気はないか?」
父は思いついたかのように笑うと爆弾発言をした。
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