シナリオへの序章
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ディアーシュ様が、祖国に帰ってしまう日がやってきた。
幸せな時間は終わりを告げて、シナリオの始まる春がやってくる。
私は、真実を掴むため、セントディア王立学園に入学することを心に決めていた。
それにディアーシュ様は王太子。心配だからといって、いつまでもここに留めておくことも叶わない。
「ディアーシュ様……」
「次来るときは、銀の花をまた持ってくることを約束しますよ」
「――――何もいりません。いらないから無事でいてください。そしてまた会えると」
「――――約束します。ステラ様はなぜか、自分のことより俺を優先するみたいだから」
微笑むディアーシュ様。でも、主人公たちのセントディア王国と隷属魔法の関係が脳裏をちらついて離れない。
大好きなディアーシュ様が、隷属魔法の餌食になったら。私は、どうすればいいのかわからない。
もしも、シナリオを替えることができないのだとしたら。
もし、それが事実だとしてもあがいて見せると私は決めた。
セントディア王国がきな臭いというのなら、ディアーシュ様のためになら、火中の栗を拾うのもいとわない。そう決めた。
「――――愛しています」
「え?」
そう心に決めていたら、ディアーシュ様があまりに予想外のことを言った。
どうして、魔王の娘にそんなことを言うのか。もう、国に帰るというこの瞬間に。
「俺が自分から触れたい存在は、ステラしかいない。もし、触れた時に俺のことを拒絶していることがわかってしまうのだとしても、俺が触れたいのはステラしかいないから」
そんなことはあり得ない。
私がディアーシュ様のことを、拒絶するなんてありえない。
――――それなら、私も自分からディアーシュ様に……。
そっと、握りしめたディアーシュ様の手は、暖かくて大きかった。
――――大好き。
この気持ちはたぶん、声に出さなくてもディアーシュ様へはもう伝わってしまっているに違いない。
それでも、私はそれを言葉にせずにはいられない。
「大好きです。ディアーシュ様」
ディアーシュ様の心の中をのぞく力は私にはない。
「俺も……誰よりも愛しています。ステラ様」
それでも、その双子の月のような瞳は、真実であることを告げるように真っすぐ私を見つめていた。
物語が始まるまでもう少し。
それまで、しばらく会うことはできないだろう。
「なにがあっても、絶対助けに行きますから。ディアーシュ様」
「一般的には、それは俺の台詞だと思うんだけどね……」
そう言いながら、「俺もだよ」といったディアーシュ様は、私の唇にそっと口づけをした。
第一章完結です。
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