魔法の杖と魔王の娘
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厚いマントをすっぽりかぶって現れた私に、少しだけ不審げな顔をしたディアーシュ様が、その直後に真っ赤になった私の顔を見て珍しく笑い声を上げた。
「ははっ。本当に可愛い、ステラ様は」
「くっ。可愛いのはこの杖です! 私には似合わないですけどね?!」
私がそんな可愛くない返答をすると、ディアーシュ様がスッと目を細めて杖を握ったままの私の手を掴んだ。
「似合います。でも、本当に恥ずかしそうですね? ステラ様をこんな風にしてしまうのが俺じゃないのが残念なくらいに」
「えぇっ?!」
いいえっ? 今この瞬間に、魔法少女の杖(仮)を押しのけて、ディアーシュ様が私の羞恥心の原因、首位に立ちました。
おめでとうございます。ディアーシュ様?
いや、違う。気をたしかに持たないと。このままでは、恥ずかしすぎてとても正気を保てそうもない。
あらぬことまで全部伝えてしまいそうなほど。
「ごめん、可愛すぎて意地悪を言ってしまったみたいですね。許して」
たぶん、ディアーシュ様は本気で悪いと思っていない。感情が読めなくたって、私だってそれくらいはわかるのだ。
「本当に……。怒らないで欲しいですステラ様。そんな顔も本当に可愛いけれど」
本気……ですか? 心の声が漏れてしまってますよと指摘した方がいいのだろうか。
それとも私も、とうとうディアーシュ様の心の声が聞こえるようになってしまったのだろうか。いや、これを心の声と思うなんて思い上がりだろうか?
混乱を極める私の心。これすらディアーシュ様には筒抜けなのだ。
でも、乙女ゲームの世界では、寡黙でいつも暗い瞳をしていたディアーシュ様。こんな風に冗談を言うなんて。
嫌なんかじゃない。むしろ嬉しい。
その瞬間、ディアーシュ様が掴んでいた私の手の中で、魔法少女の杖(仮)が光り輝いた。
これはもう、変身する流れ?
その瞬間、グイッと杖が私たちの手を引っ張った。私が、ディアーシュ様の腕の中にすっぽりと収まったのを見届けたように、光を失った魔法の杖は、元の初期装備の杖に戻って地面へと転がった。
ドッドッドッと、音を立てているのは誰の心臓だろうか。もちろん早鐘を打つ私の心臓。
そして、ディアーシュ様の胸に耳をつけるように抱き寄せられて、ディアーシュ様の鼓動を聴く。
心なんて読めなくたって、いまディアーシュ様がどんな風に思っているか、鈍感と言われがちな私でもわかる。
「すごく心臓がドキドキしてます。……可愛いですね? ディアーシュ様」
「……ステラ様もけっこう意地悪ですね」
そう言いながらも、ディアーシュ様はより強く私を抱きしめた。
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