杖と魔法
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宝物庫の中は当たり前だけれど未知のお宝で溢れていた。最終ダンジョンのような扱いの魔王城。
きっと伝説の魔剣とかも眠っているに違いない。
「精霊石……は、奥の方に保管されていたはずよね」
そんな魔王城の宝物庫であっても、精霊石だけは厳重に仕舞い込まれていた。
精霊石があっても、誰もが精霊を呼び出せるわけではない。
しかし、高位精霊の怒りにより滅んでしまった国の伝承は一つや二つではないのだ。
目的の宝石箱は、すぐに見つかった。厳重に封印が施されている。私はそれを手に取った。
気になるものはとても多いけれど「呪いのアイテムも多いから迂闊に触ってはいけないよ」と父が心配そうな顔をしていたから、賢い私はさっさと撤退することにする。
「それにしても精霊の力で国が滅ぶとか、保管が厳重になるのもわかる。それにしてもすごい数の宝物……え?」
腰に下げていたあの杖に何気なく触れた瞬間、再び私の手から離れなくなってしまった。
「うん、やっぱりこの杖、呪われているんじゃないかしら」
見た目としては、初期装備の木の杖って感じなのに。ステラの魔力は高いから、こんなふうに手から離れないほど干渉するなんてよっぽど強い呪いに違いない。
申し訳ないけれど、もう一度ディアーシュ様に外してもらわなければならないようだ。二度も同じことするなんて、ダメな子と思われたらどうしよう。
そんなことを考えていたら、ぐいっと手を掴まれたような感触がして、杖に引っ張られた。
引っ張られたまま、抵抗も虚しく一つの宝箱の前に私は誘導されていた。
「……これは、危険な香りしかしない」
逃げたいのに、初期装備の見た目をした杖はそれを許してくれそうもない。杖がそのまま、宝箱の鍵穴に触れる。その瞬間、虹色の光とともに焼けつきそうに杖が熱くなる。
「うっ?!」
眩しさと熱さで、思わずつぶってしまった目を開けると、先ほどまで初期装備風だった杖が、なんというか「魔法少女の杖?!」な見た目に変化していた。
赤から紫に色を変えるハート型の石が埋め込まれた、淡いピンクを帯びた白銀の杖とか……。
このビジュアルを使いこなせるのって、多分ヒロインだけだと思う。
そして私の手から、やっぱり離れてくれる様子はない。いや、むしろ先ほどよりも強固に貼り付いているみたいだ。
「え?いつのまにか違うゲームの世界に来てしまったのかしら」
そんな現実逃避も虚しく「え?これを剥がして欲しいって頼むの?!」と、先ほどよりも強い羞恥心を感じながら、私はディアーシュ様の元へと走り出した。
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