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第9話 創世神ニューワルト

──ここは時間を超越した神域──



 私の名前は創世神ニューワルト。


 この地球人たちが異世界と呼んでいる場所の神々の中の最高神です。


「…異動転生者が最近多すぎますね。それに安易に新たな人生を求めるためだけに利用している者が目立ちます」


 異動や転生そのものは否定しません。しかし、現状に与えられた命を粗末にする者は神として見過ごせませんから。


「ハアアアンッ! 冥界送りぃ!!」


 不純な動機の転生者…特に人生やり直したいとかイージーなことを言っているヤツは容赦なく冥界送りです。


「しかし、あまり冥界に送るのは…」


「大丈夫です。いまは冥王神ユーデスもいませんから」


 まったく。罪を犯して逃げ出した天使を匿うだなんて…… 


「しかし、罰として剣に姿を変えた後はどうしたのです?」


「剣ですか? …いえ、あれは棒切れのようにも…」


「棒切れ?」


「い、いえ、なんでもありません。その後の行方は…」


「まあいいでしょう。仮にも神です。放っておいても問題はありません」


 そんな細かいことまで面倒みきれない。なにせ私は創世神。色々やることがあるのですから。


「しかし、勇者レイカス・リヒャルト・インペリオンが…」


「ええ。聞きました。私が直々に呼び出した勇者です。魔王と魔竜は倒してくれたんで、後は没落しても別になんの問題もありません」


 私は神だ。


 情なんてあったらやってらんない。 

 

 世界のためならなんだってやる。


 なんなら私が転生してやってもいい。


 そうしたら無双だ。


 ツエーどころじゃない。


 指先ひとつで地球も叩き割ってやれる。


 そもそも昨今のなろう小説主人公は神とか何かからなんか貰って強くなったってのばかりだけど、そもそも神が転生したらサイキョーじゃん。


 まてよ? でも神なら転生しなくてもいいんじゃね?


 転生しないでツエーって普通にツエーだけだから流行んないんじゃね?


「あー、頭くんな。なんだよ、神だぞ。私は。私だって、なろう系主人公になりてぇのに、神だからなれねぇってどういうこと? 神だから全知全能じゃん。おかしくね? 全知全能なのにハーレム系の『やれやれ』系主人公になれねぇのおかしくね?」


「ニューワルト様…」


「ゴメン。取り乱しちゃった♡ 最近、働き過ぎだからストレスたまってんのかしら…あ! また変な転生者! 陰気なデヴだから転生? ざっけんな! そんなんで転生してきてんじゃねえ! オメェを生んでくれた、お父さんお母さんと地球の神に謝れ!」


 私は転生異動を監視するための鏡を掴んでガタガタと揺らす。


「ニューワルト様! れ、冷静に!」


「わーってるよ! チッ! 脅し文句聞かせて、コイツも冥界送りしてくれる!」


 私は踊る。これは冥界送りの踊りだ。


「はー、アンベレベレベレアンベレベ! ハッ!」


 両手を擦りあげて、ゴッドパワーを高める!


「アンベレベレベレアンベレベ! ハッ!」


 擦る手に合わせて顔も左右に揺らし、右へ左へと全身を上下運動させる!



 ピンポーン!



「ッ! んだよ! 儀式中だよ! 異…間違えた。冥界送りのな! 神聖なんだぞ! 調子のってっと神パンチ…正式名称ゴッディパンチ喰らわせんぞ! あの幻の『餡口喰拳骨アンコウクウゲンコツ』の下位互換だけど30%分のパワーあんだかんな! この世界マジで滅ぶぞ! ゴラ!」


「ニューワルト様! れ、冷静に!」


「うっせーよ! オメェさっきから同じことしか言えねぇのかよ! それにいちいち名前呼ぶんじゃねぇよ! 俺とオメェしかいねぇーだろうが! ボケが!」


 あー、やる気しねぇ!


 もうやる気しねぇ!


「ニューワルト様。誰かが創造の間に来ましたが…いかが致しますか?」


「あ? 神の誰かだろ。鍛冶神あたりじゃね? 酒造神だったら嬉しいけど…」


「いえ、それが…人間種のようでして…」


「人間? あー、そっか。導いたんだったわ」


「導いた?」


「ほら、あれ。さっき言ったレイカス、ダメんなったじゃん。ブロゼブブ復活しそーだし、そしたらルンボロボンボも出てくんじゃん。パパチチイヤンがコソコソなんかやってんでしょ。なんかデモスソードも地上で好き放題してるらしいし。神としてはコレ微妙じゃん」


「は、はあ…そうですね…」


「はあ、じゃねぇーよ! タコスケ! 世界の危機! 解る? セ・カ・イ・ノ・キ・キ! ユーアンダスタン? んだから、新たな勇者必要でしょ。ソイツに全部おっかぶせんのにさ。だからちょっと導いといたのよ」


「は、はあ……なるほど」


「あ。少し待たせといて。無限ループ階段とか使ってさ。なんかいかにも神々んとこ来ましたみたいな神々しい厳かな感じだしといて。スモークとかライト使ってさ。…その間に化粧して、股引脱いでくっから」


「はい。あ! ニューワルト様」


「なによ?」


「頭に洗濯ばさみが…」


「え? 螺髪に? いっけね。洗濯物途中だったわ。干すのすっかり忘れてたわ。お前、後でやっといて」


「は、はい…」




★★★




 神域の扉が厳かにゴゴゴと開く。


 周囲に清浄な光が満ちて、柔らかで芳しい霧が下から滾々と湧き出てくる。


「よくぞ参られました。私こそ、最高神にして創世神ニューワルト」


 部屋の奥から両手を開いた巨大な影が動く。


 黄金色の輝きを背にし、慈悲と慈愛に満ちた微笑みを湛えた性別の特徴すらも超越した究極とも呼べる存在が姿を現す。


「…勇者たちよ……ん?」


 ニューワルトは違和感を覚えて首を傾げる。


 導いた勇者は8人だったハズだ。しかし2人しかいない。

 

 それも真っ赤な鎧を着た中年男性。

 

 そして魔女っ娘コスプレをしたクソジジイだった。


「来ちゃった♡」


 クソジジイが舌を出す。可愛くもなんともない。


「えーっと、もしや蘇生させるお金がないとか…」


 もしかしたらパーティーが魔物たちに半壊させられた…その可能性を考慮したのである。


「ほえ? ワシらだけじゃぞーい!」


「エッ? な、なら導かれた者たちでは…」


「勝手に来ちゃった♡」


「エーッ!?」


 ニューワルトがびっくら仰天するのも当然のことであった。

 なぜならばここは神界。普通の一般ピープルが入れる場所ではないからである。皇居やエリア51やエレベスト頂上なんて比べ物にならないぐらいに難度の高い人類未踏領域であり、創世神ニューワルトの導きなしに立ち入ることなどまず不可能なはずだったからであーる!


「おじゃまさまーないすでぃー!」


 クソジジイは中年と一緒になってガタガタと何かを運び入れる。


 それはコタツだ!


 ミカンが積まれた器が上に乗ったコタツだ!


「ちょちょちょ! なにしてんの!? 創世神の部屋になに運び込もうとしてんの!?」


「だってワシ、寒がりだしぃ〜」


「知らん! 知らないわ! さっさと帰ってちょうだい!!」


「うるさーい! ワシが何をどうしようとワシの勝手じゃーい! これでも喰らえ! 『ボルケーノエクスプロージョンフレアメガインパクトダイレクトドライブベータマグマ』!!」



──タマミは魔法を唱えた!



「ウンボアーッ!!」



──創世神ニューワルト:HP10,000,000,000 →5,000,000,000



「ほえ?」


「あー、死ぬかと思った! マジやばかった! 神で良かった! 神で! もう魔法バリア張ったからね! 効果無効だかんね! 不意打ちとはいえ、5000億ダメージとかあり得ないから! 信じらんねー! マジ(しん)じらんねー」


 まるでド○フのようなアフロヘアーとなったニューワルトがゲホゲホと咳き込む。


「何者だ! ジジイ! 創世神に向かって何したか解ってんのか!?」


「ほえ? まだ息があるようじゃの?」


「当たりマチルダー! こちとら神ぞ! 最高神ぞ! 勇者が使える程度の最強魔法如きでやられてたまるかァァァァ!」


「なら、コイツでも喰らえ〜♡ 『ダップンジャー』!!」


「ムダムダムダ! ゴッドガードォォォ……ンブゥッッッ!!!」


 おかしいとニューワルトは思う。


 自分は最高神だ。


 ましてや物理魔法無効化のチート系の完璧完全なバリアーを張っている!


 しかし! 神は忘れていた!!


 これは“便意”だと!!


 そう! 便意は物理攻撃でも魔法攻撃でもない(前回魔法だと言った? そんな昔のことは忘れたね!)!


 便意は便意だ! それは独立した第3の伏兵!!


 急に催す便意は誰にも止められない!!


 それは最高神でも例外ではなくッ!!!


「アーーーーーッ!!!」


 ブリュリュリュリュリュビタチチチチチッッッ!!


 なろう系小説界隈初!!


 最高神の着衣状態からのぉ、脱糞であーーーーった!!



──省略──



 この小説は大変お上品な作品である。故に脱糞シーンは省略させていただく。


 シラキとゲリアンはコタツに入って茶をしばく。…最高神の部屋で。


「な、なんだこれは! ニューワルト様!?」


 自身の糞便に埋もれている最高神を見やり、洗濯物を干し終わった天使はランドリーバッグを取り落とした。


「ほえ? お! 鏡があるわーい!」


「や、やめて! それは世界を安定させるための監視装置で! 触らないで!」


 シラキは鏡をベタベタと触りまくる。それで前後にグラグラめっちゃ揺れる。


 ガタコン!


「あ! 鏡の外枠が!」


 ガッシャーン!!


「愚者よ。お前には冥界こそが相応しい──エッ!?」


「ほえ?」「エッ!?」


 天使が驚くのも無理はなかった。

 なぜなら、鏡が割れ、その奥の小部屋にマイクをもった色黒なオッサンが座っていたからだ。

 創世神の鏡はマジックミラーだったのだ!


「い、いやだ! 恥ずかしい! 何が“命を嘲笑う者に等しき命は与えぬ”よ! 『ロマキャてへ☆(ロリロリ、魔法少女キャミーだ・よーん…てへ☆』の略)の主人公キャミーの有名声優であるアタシにこんなことさせて! 馬鹿みたい! ギャラ安いし! こんなナレーションの仕事なんて降りてやるんだから!」


 オッサンは涙目になると、小指をかじったまま、側にあったナップサックを背負ってどこかへと小走りに行ってしまった。


「…な、なにが。あっ! 異界に行くはずの魂が!」


 割れた鏡に、いま案内されようとしていた魂が意図しない方向へ導かれて行くのが映っていた。



 ジリリリーン!



「ヒッ!」


「お。電話じゃーい」


 天使は眼をパチパチとさせる。ここで電話が通じるはずがないと思ったからだ。

 しかし、シラキはゲリアンから黒電話を受け取る。そのレトロチックな電話機には『99G』と白文字で書かれていた。


「はーい。ワシワシ。え? 事故? へー。…うっせーわーい! ワシは忙しいんじゃ! 切るぞ!」



 ガッチャーン!



 ジリリリーン!



「またか! しつこいのぅ!」


 怒り狂いながらもシラキは再び電話に出る。


「なんじゃぁ!? 事故は…へ? ナミのヤツが和菓子屋に? 知ったことかッ! 今は和菓子なんて喰わん! ミカン食ってるんじゃ! 口が酸っぱ酸っぱになるじゃろうが!!」



 ガッチャーン!



「まったくどいつもこいつも! ワシがおらんとなーんもできんで!」


「…あのー」


 コタツの方へと向かうシラキに、天使は困った顔で声をかける。


「ワシ、今日から新世界の神になるわーい」


「エーッ!?」


 いや、どこぞの人を殺すノートを持った天才ですらなれなかったのに簡単に言うなよと地球アニメオタクの天使は思う(転生管理側の特権)。


「逆らうとそっちのヤツみたいになるぞ♡」


 シラキは創世神を指差す。糞便まみれだ。こんな神はいまだかつて見たことがない。

 そして真魔王とタメを張れる創世神を倒せたということは、誰もこのジジイに勝てないのだと天使は知る。


「そろそろヤオキチと合流せねばのぅー。ほれ、お前も入れ。ミカンあるぞい」


「は、はぁ…」


 逆らったら殺られると思った天使は促されるままコタツに入る。


(あ。温い…。電気来てないのに…スゴイ)


 向かい側に座るゲリアンが無言でミカンを差し出す。


「あ。…ども」


(…ずっと創世神に仕えてきたけど、こき使われるばっかだったしな。幸せって案外、もっと身近なところにあるのかも知れないな)

 

 天使は肩の力を抜く。ゆるゆるのローブを着てたから、肩がスルッと抜けて、胸元がはだけてしまった。

 なろう系読者が大好きな、たわわな実がプルルーンと揺れる。そして、物理的状況的に揺れるわけがない。だがしかして揺れるのはお約束だから仕方ない。


(あ! ヤダ。気が抜けて…えっ!?)


 ジッと自分を見るゲリアンの視線に気づき、天使はポッと頬を赤らめる。


(こんなに真剣な瞳…見たことない。人間なのに…)


 胸の高鳴りを感じ、天使はドギマギした。


 しかし誤解されている方のために言っておくが、ゲリアンは決して天使を見ていたわけではない。ミカンの薄皮を天使が剥くかどうかを見ていたのだ。ちなみにゲリアンは薄皮を剝かない派だった。


「…あ、あの、戦士さん。お名前は…」


「…ゲリアンだ」


「ゲリアンさん…」


 シラキが白眼を剥いて居眠りする最中、誰も知らないところで新たな出会いが始まろうとしていたのであーーーーった!


 恋の始まりはいつも唐突に……♡



──第4章 導かれもせずに勝手に来た者たち 完──

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