第7話 魔剣勇者レディー・ラマハイム
アタシの名前は、レディー・ラマハイム。地球からの転生者だ。
父グランバ・ラマハイムは帝国の偉大な戦士で、アタシは転生した幼い頃から一流の戦士となるように鍛え育てられた。
しかしアタシが15歳となる前、成人する前に空中城塞エアプレイスは陥落させられた。
剣魔帝デモスソード。4本腕の魔人であり、世界最強の剣士と謳われる存在。あの魔王ブロゼブブや魔竜ルンボロボンボですら手出しできなかったとわれる程の強者だ。
剣魔帝はエアプレイスにある伝説の“魔剣ユーデス”を狙い、大軍を率いて攻めて来たのだった。
グランバ・ラマハイムは命の限り戦った。あの強かった父が、デモスソードの前では赤子同然だった。
「このワシを前によく戦ったと褒めてやろう」
黄金の鎧兜を身に纏った骸骨がそう言う。そうだ。デモスソードは死霊の王なのだ。
「お、お前は逃げなさい」
自分の血で自慢の髭を濡らし、父はアタシを見て優しく微笑んで言う。
「イヤだ! アタシも、アタシもお父さんと一緒に最後まで戦う!」
アタシは地球からの転生者とはいえ、15年も育ててくれた父だ。その共に過ごした年月によって強い愛情が生まれていた。
「聞きなさい。この城の地下に魔剣がある。お前はそれを持って逃げるのだ。その間は私がデモスソードを食い止める!」
「なに? そうはさせぬ! その剣はワシが手に入れてこそ意味があるもの!」
「行け! レディー! この世界の未来を頼むぞ!!」
そう言って父は剣を構えてデモスソードに挑みかかった!
そして、アタシは城の地下で見つける。
あの魔剣ユーデスを──
★★★
あれから3年もの月日が経った──
魔剣ユーデスの力でアタシは命からがら帝国エアプレイスの城から抜け出すことができた。
それからの人生は過酷という言葉だけでは言い表せない。
アタシはあれからガムシャラに戦った。そして多くの出会いと別れを繰り返す。
その中でも特に印象深かったのは、あの魔王と魔竜を倒した勇者レイカス・リヒャルト・インペリオンだ。
彼はアタシが出会ったどんな男よりも強かった。剣技も魔法も超一流だ。世界最強と呼んでも差し支えないだろう。
「レディー。君は強い。だが、今のままでは剣魔帝には決して勝てはしないだろう」
「なぜ!?」
「…憎しみや怒りでは悪を滅ぼすことはできないからだ」
その言葉の意味をアタシはまだちゃんと理解できてはいない……
そして、世界武闘コロシアム。
世界中の戦士が集い、真の強者を決める10年に一度の闘技大会が開催されている。
そして、なぜアタシがここに居るのかと言えば、あの剣魔帝デモスソードがこの大会に出場するという噂を聞きつけたからだ。
ここでは人間も魔族も、貴族も平民も等しく同じルールの元に戦うことになる。相手が死霊の王であってもそれは変わらない。
そして、1対1で戦えるこの戦いをアタシは絶好の復讐の機会だと思っていた。
「…緊張しているのかい?」
“ユーデス”が私に話しかけてくる。
「まさか。ヤツをこの手で倒せるかと思うと悦びで身が震えてきてるくらいさ」
「フフ。あの泣いて私に助けを求めていた子が頼もしくなったものだよ」
そうだ。ユーデスは喋る魔剣だった。巨大な魔力を刀身に宿し、膨大な叡智を誇る神々が創りし剣だった。
「いよいよ準決勝だ。これが終われば…」
「決勝で剣魔帝デモスソードに当たる」
アタシは拳を握りしめる。あの頃とは違う。日焼けした褐色の腕には無数の傷跡。数え切れない激闘を生き抜いてきた証がそこにはあった。
「…レディー。落ち着いて戦おう。大丈夫。君は独りじゃない。私が付いている。今までも…そしてこれからも…」
「ああ。ありがとう。…ユーデス。お前は剣魔
帝を倒したら本当に姿に戻れるのか?」
これが魔剣ユーデスがアタシに協力する理由だ。
実は彼はかつて冥界を支配していた神の一柱だった。神々の世界から逃げ出した天使を助けてしまったがために、神々の怒りで呪いをかけられ剣にされてしまったということだった。
そして、その呪いを解くには、神々に敵対するような強い悪者を倒すことが条件だったのである。
「…たぶんね。でも、もうそれは関係がない。私は君が気に入ってしまったんだよ」
「そう? でも、デモスソードを倒して…仮にお前が元の姿に戻れなかったとしても……今度はアタシが借りを返す番さ。お前が元の姿に戻るまで付き合うよ」
「…ありがとう。レディー。でもね。この姿でも色々と良い事はあったから…」
「良い事?」
「ああ。夜も肌身はなさず君の側にいられたりね…」
「ば、バカ//// 。そ、そんなこと今言うことか!」
「私の振動機能はそこそこ役立ったろう?」
「わーわー! や、やめろ////! へ、圧し折るぞ! クソ剣!!」
「フフ…。おっと……」
ユーデスが急に黙る。
そう。それはアタシの仲間たちがやってきたからだ。彼との関係は秘密なのだ。
「レディー。どうした紅い顔して?」
「なんでもねぇよ!」
「しっかりしてよね。レディー。次の剣魔帝の相手は魔法使いらしいわよ」
「魔法使い? …そうか。でも、きっと魔法を使う前に斬り殺されるな」
アタシはその魔法使いを気の毒に思う。
剣魔帝は剣を4本それぞれの手に持っている。その中の1本は魔法を無力化させる魔力が宿った魔剣で、もう1本は斬撃を飛ばし竜巻を起す魔剣のハズだ。魔法使いに勝ち目のある敵じゃない。
「敵情視察。見に行くだろ?」
「ああ。当たり前だろ!」
★★★
「えーい♡ 『ボルケーノエクスプロージョンフレアメガインパクトダイレクトドライブベータマグマ』!!」
闘技場を覆わんばかりの究極魔法が炸裂し、それを受けた剣魔帝デモスソードはヨロヨロと数歩さがる。
「ば、馬鹿な…。これは勇者だけが使えるという魔法ではないか!!」
究極魔法が相手では、“魔剣アンチマジック”でも食い止めることはできない。
「おのれ! このワシを追い詰めるとは人間にしてはなかなかやるな! しかし、その魔法は魔力の消費が半端ないハズ! ククク、二度使える魔法では…」
「もういっちょ♡ えーい♡ 『ボルケーノエクスプロージョンフレアメガインパクトダイレクトドライブベータマグマ』!!」
「エッ?!」
まさかの2発目の究極魔法を受けて、剣魔帝デモスソードはこの世から消え去ったのであった……。
★★★
レディーはやるせない気持ちを胸に決勝戦へと臨む。
「あの剣魔帝が倒された。それならアタシはなんでこんなところにいる…」
「しっかりしろ。レディー。相手の魔法使いは只者じゃない。邪悪な者とは限らないが、それでも油断していい相手じゃない」
ユーデスの言葉も上の空で、レディーはトボトボと闘技台へと進む。
観客の声援どころか、仲間の励ましすらも今の彼女には聞こえていなかった。
「ん? あれは…!」
レディーの肩越しに驚きの声が上がる。いつも沈着冷静なユーデスには滅多にない動揺した声だ。
「どうした?」
「まさか、私がかつて助けた…天使、か?」
それを聞いて、初めてレディーの眼が対戦相手へと向いた。
そこに居たのは美少女のスタイルをした魔法使いだ。しかし、顔だけは醜悪な老人という地獄からやってきたような風貌なのであった!!
「ば、ば、ば、化け物だぁ!」
「ほほーい! 次の相手はお前さんかーい!」
「おい! ユーデス! ふざけるなよ! あれのどこが天使だと…」
「い、いや、しかし、顔は違うが…着ている服や持っているステッキは…あれ天使の輪っかと翼をつければ…」
「ほう? ワシのこの“美少女夢叶物”の魔女っ娘バージョンだけでなく、エンジェル・バージョンを知っるのか? ほい! ポチッと!」
老人が胸の谷間のボタンを押すと、天使の輪っかと翼が現れ、服装も白を基調としたドレスへと早変わりした! …だが、顔はジジイのままだ。まごうことなきジジイだ。
「そ、そんな…天使が…天使が…」
「しっかりしろ! ユーデス!」
「ほえ? “湯デス”? どこにワシの大好きな銭湯が? それにその板っぺりの切れ端みたいなのは……あ! そうじゃ思い出したわーい! そういや冥界銭湯で、どこの誰だか解らんヤツを改造したんじゃったわーい♡」
「「エッ?!」」
そんな爆弾発言に、レディーもユーデスも固まる。
「い、いや、ユーデスは…神々の呪いで…」
「そうじゃった? そういう“設定”じゃったかのぅ? 冥界銭湯に入りに行ったのは良かったんじゃが、“湯かき棒”が無くて困ってたんで近くにいたヤツで代用したような覚えが…」
「ゆ、湯かき棒…」
若い読者のために説明しなければなるまい!
湯かき棒とは、昔の一般家庭のボイラーの湯沸かし式の浴槽は、湯の下部分から熱くなってしまうため、湯の温度を均一にさせるためにかき混ぜるために使われた便利アイテムだったのだ! 今では湯沸かし器の性能の向上と共に見られなくなった! 棒の先によく解らん穴の空いた板がくっついてる代物なのであーる!
え? よく解らん? なら、鍋に水を張ってガスコンロにかけてみんさい! じばらくして、指入れてみたら底から熱くなってても上は冷たいでしょ(言うまでもないが熱くなり過ぎてる中にはいれないよーに!)? これが風呂で起きるからシャモジみたいなデカいので混ぜて温度を一定にしないと入れないの!
それでも解らん? なら自分で調べろ! ggrks! …そう言いたいところだが、優しい筆者はそんなことは言わない!
ほら、草津温泉のかでほっかむりしたおっかさんが歌いながら長い板で左右にギッコンギッコンやってるのテレビ見たことあるでしょ! 要はあれよ! 湯かき棒とは長い板だと思っていてくれればOK!
「わ、私が…湯かき棒……」
「しっかりしてくれ! ユーデス!!」
「まあ、どーでもいいわーい! ワシのさっきの“ハナクソ魔法”で…あ! でもどーせだったらもっと強い魔法つかってみよーっと!」
「な、なにを…」
『ボルケーノエクスプロージョンフレアメガインパクトダイレクトドライブベータマグマ』より強い魔法があるものかと、レディーはゴクリと息を呑む。
「ウヒヒ! 史上超最強魔法! その名も『ダップンジャー』じゃーい!」
「ハ?」
「はーい♡ ピンピロリーン!」
胸と尻を突出すムカつくポージングで、クソジジイが魔法を唱える。
「は…ハググゥッ!!」
レディーを襲ったのは突如として生じた強烈な便意!
ここで説明しなければなるまい! どんな屈強な戦士でも鍛えられない場所がある! それが股間だとか、空手家なら睾丸しまえんだろみたいな武術教本とか漫画ばかり読んでいるニワカには解らない部分がある!
それはどこか!? それは大腸だ!! 大腸周りの筋肉は鍛えられるかも知れないが、大腸そのものを鍛えている武術家はまず皆無と言える!!
つまりこの『ダップンジャー』は大腸〜直腸に直接作用し、強制的に肛門から排便させる究極の便意魔法なのであーーーーった!!
「こ、こんなぁ所でッ//// い、イヤァアアアッ////!!」
そして物理的なダメージだけではない! 公衆の面前でお漏らしするという最強最大の精神的屈辱をも与えることになる恐ろしき魔法なのであーーーーった!!!
──省略──
「ワシの勝ちじゃー!!」
糞便まみれになったタマミ・シラキが勝鬨の声を上げる!!!
大会優勝者はかのクソジジイに決定した!!!
「とりかえしたぞ!! ワシの湯かき棒を!!」
アイデンティティを破壊され、単なる剣…いや、湯かき棒となったユーデスを掲げ、観客席にいるゲリアンに向かってシラキはウインクする。
ゲリアンは思った!
(このお転婆ジジイ…使える!)、と!
──第2章 お転婆ジジイの湯かき棒 完──
クソジジイの“美少女夢叶物”については、
砲撃のグリーングローサー
挿話⑥「白木ジジイやめるってよ」
https://ncode.syosetu.com/n5455cm/39/
に詳しい経緯があります。