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第2話 現世がイヤなら転生すればいいじゃない!

 俺の名前はレイカス・リヒャルト・インペリオン。地球からの転生者だ。


 非凡な魔法の才能を持って生まれ、魔法学院では一目置かれる存在だった。


 ライバルであった左手に闇悪魔の力を封じた漆黒のギリアム・アーティファクトに打ち勝ち、熱い友情を育む。

 そして学園イチの美少女ハーフエルフのミティファと恋に落ちた。


 そしてなんだかんだあって、強敵だった魔王ブロゼブブと魔竜ルンボロボンボを、仲間の協力もあって倒し、今じゃ国を代表する英雄となってしまって困っちゃうなー。


 今も王様からは城で重用するなんて手紙が来てしまう。本当に困っちゃうなー。


 でも、俺が望んだ生活は英雄としてのものじゃない──



「パパー! おおきくなってきたよ!」


「パパー! こーんなにたくさんでてきたよ!」


 2人の愛らしい娘が、家庭菜園ではしゃいでいるのが縁側から見える。


「そうだね。カボチャが良い具合に育ってる。キュウリもダイコンも…」


 今の俺の生き甲斐は、この異世界で地球にあった野菜を作ることだ。

 似た植物をなんとか見つけて、魔法による品種改良の末、ようやくここまで辿りつけたんだ。


「…長かった。ここまで」


「あなた。良かったわね」


 ミティファが俺の座っている椅子の背もたれに手を掛ける。

 俺は彼女の美しい白魚のような手に触れた。


「ああ。魔王や魔竜と戦ったときより大変だったかも」


 彼女は優しく微笑む。


「…愛してるわ。レイカス。とても幸せよ」


「俺もだよ。ミティファ。幸せだ。俺は世界一の幸せ者だよ」


 転生して良かった。辛いこともあったけれど、こんなに美しく優しい妻、そして可愛い子供たちに囲まれた日々はかけがえのない宝物だ。

 そして、この清楚で可憐な彼女が夜の寝台ではいかに激情的になるか知ってるのは俺だけだ。そう思う度に勝ち組になった実感がより湧く。

 転生前、なろう系小説ばかり読み漁り、右手を妻と呼んでいた自分とはおさらばだ。

 きっと俺の物語を読めば、多くの地球の童貞どもは嫉妬するに違いない。書籍化もアニメ化も映画化だってされるハズだ。

 決め台詞は…そうだな。「現世がイヤなら転生すればいいじゃない」に決まりだな。


「パパー!」


「誰かいるよー!」


「ん?」


 娘たちの声に振り向く。

 もしかしたら、ギリアムかも知れない。尖っていたアイツも丸くなったもんだ。

 前は「お前を必ず殺す! 闇の翼がいつも狙っていることを忘れるな!」なんて言っていたのに、今では俺の娘たちにデレデレだ。どこぞの緑の顔をした重量物大好きな魔族か、故郷を滅ぼされた修行大好きツンデレ王子みたいなヤツだ。


「おーう! こんなところに“野菜”があるじゃねーぇか!!」

 

 粗野な声。ギリアムじゃない…。

 なんだアレは。頭に銀色の筒…あれは地球で見たことがある。大砲だ。大砲を頭に装着したオッサンが俺の畑にいる!?


「L字フックども! 収穫だ! 収穫しろ!!」


 大砲のオッサンの号令で、どうしてかエルフたちが背負ったカゴの中に野菜を入れていく。どうみても嫌々やらされているように見えるが…。


「ダメー! ダメなのー! とっちゃダメ!」


「ダメー! やめて! まだなのー!」


「うるせー! クソガキャー!!」


「わーん!」「わーん!」


 娘たちを怒鳴り散らす。


「ちょっと待て! なんだお前は!」


 俺は魔法の詠唱準備をしつつ前に出る。娘たちに危害を加えるなら容赦はしない!


「ま、待って。あなた。あれ…」


 ミティファが指差す方を見やる。

 それはあのオッサンが何かを引きずっているモノであった。


「ぎ、ギリアムーッ!?」


 それはボッコボコにされ、左右の鼻から血をしどどに滴らせたギリアムだった。


「ん? このゴミか? 返してやる!」


 ギリアムが高く放り投げられて、畑に頭からブッ刺さる。尻を突き出した姿に、かつての闇の翼だった面影はない。


「この家の前に突っ立って邪魔だったからつい殴っちまったぜ! ガハハハッ!」


「き、貴様ー!」


 ゆ、許せん! コイツは間違いなく敵だ!

  

「全力で行くぞ! 『ボルケーノエクスプロージョンフレアメガインパクトダイレクトドライブベータマグマ』!!」


 俺は魔竜ルンボロボンボを倒した勇者にしか使えないと言われる伝説の魔法をブッ放す!



──レイカスは魔法を唱えた!


──ピロピロピロリキン!


──ヤオキチにダメージ…0!!


──効果はまったくないようだ!!



「へ?」


「なんだそりゃ! 毛クズでも付いたかと思ったぜ!」


 そ、そんな馬鹿な…。


「あなたー! 新しい剣よ!」


 ミティファが剣を放り投げてくれる。


 な、ならば俺の最強剣技で!


「うおおおッ! 喰らえ! 『聖十字連斬セイントクロスリピートスラッシュ!!!』」



──レイカスは奥技を放った!


──シュバシュバシュバットル!



「ベエックシュイ!」



──ヤオキチはクシャミをした!


──レイカスの技はかき消された!!



「なん…だと?」


「あー、風邪でもひいたかな! それならなおさらタップリ野菜とらねぇとな! ビタミンだ! ビタミンを貰って行くぜ!」


 何を言ってるんだ…コイツは…


「ミティファ! 補助魔法を! かつてない強敵だ! 娘たち! 下がっていなさい!」


 ハーフエルフのミティファは世界でも3本指に入る魔法の達人だ。

 彼女が魔法を詠唱すると、ドーピングトマトスープを飲んだ時よりも遥かに筋力は倍増し、速度は音速の域に達し、頭の回転はスーパーコンピューター“富岳”並になり、一度死んでも不死鳥の如く再生されるという天使の加護までついたスペシャルお得パック状態となるのだ!


「オデ…ダレニモマゲナイ!」


 皮膚が深緑色になり、喋り方がカタコトになるという狂戦士バーサーカーによるバッドボーナスがついてくるが、それを上回る効果! こうなった俺は止められない!!


「あーん?」


──おや、ヤオキチの様子がぷるぷるとして…… 


 ブビーィッ!!


「ナ、ナニィ!?」



──ヤオキチは屁をこいた!


──レイカスに999のダメージ!!


──効果はてきめんだ!!



(くっせー!! まるでコボルトキングでも喰ったかのような屁だ…ガクッ)


「あ、あなた!!」


「パパー!」「パパー!」


「よーし! たっぷり詰め込んだか!? ズラかるぞ!」


「く、くそぉ…」


 こんなことがあっていいのか…

 世界最強となった、俺が…手も足も…


「オイ! バカヤロー! 根こそぎ取るんじゃねぇ! 少し残しとけ! 1割くらいな!」


「…ま、まさか慈悲でもかけてるつもりか」


 ヤオキチとかいうオッサンはフッと笑う。


「ちゃんと100倍に育てておけ! また穫りに来るんだからなぁ! ガッハッハ!」


 あ、悪魔だ…



──レイカス1体の撃破を確認しました。ヤオキチのレベルが29→32レベルにアップしました──



「またこれか!」



──ヤオキチは条件を満たしたので、特殊スキル『強奪者LV1』を獲得しました──



「うるせー! ちょっと貰っただけじゃねぇか! 誰が強奪者だ!!」




★★★



 村人を全員集めて広場に正座させる。そして木箱をひっくり返した物の上に座ってヤオキチは語りだした。


「いいか。俺は“神”だ。返事は“ハイ”か“イエス”かだ。それ以外は聞きたくねぇ!」

 

 大砲の上にかぶせられたコボルトキングの頭蓋骨が喋る度に前後に揺れる。


「この村の名前は…」


「か、“風の谷の…」


「バカヤロー! うるせぇ! そうだ、“カボチャ村”だ! 今日からここは“南瓜村”だ!!」


 こうしてこの村の名前は勝手に書き換えられた。


「そしてテメェらは全員、八百屋か農家にする!」


「「「えー!?」」」


「いいか! 仙人みてぇな暮らしは終わりだ! 俺が攻める! 野菜で天下を“獲る”! 間違えた“穫る”だ! ここにゃスーパーもデパートも宅配(ネットスーパーも含む)もねぇ! チャンスだ! これを活かさない馬鹿は八百屋じゃねぇ!! 解ったか! L字フックども!」

 

 メチャクチャであった。エルフたちにとってそれはコボルトキングがただ単にどこぞのオヤジと変わっただけに過ぎない。それは簒奪者であり略奪者だ。


「さあ! 始めんぞ! まずは良い土壌作りだ! あのデカイ家をまず燃やせ!!」


「な、なぜワシの家を!?」


 村長はプルプル震えて問いかける。


「バカヤロー! 焼畑農業ってのを知らねぇのか! 木材燃やして野菜の栄養にするんだ!」


 こうして、村長宅は燃やされたのだった……。



──ヤオキチは新たにスキル『無法者LV1』を獲得しました──

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