第11話 真魔王ブロゼブブ降臨!
魔王…いや、魔王の中の魔王と呼ばれる真魔王ブロゼブブが飛び立つ!
ブロゼブブは最近では当たり前のロリっ娘系魔王だ!
「妾がパパチチイヤンの仇を討つのじゃ!」
そう。“妾”と語尾に“じゃ”はテンプレだ!
ロリババア系というギャップ萌で個性を出させるなんてもはや古典的手法!
だが、なろう読者はそれを求めているからそうする!
露出度の高いレザーっぽいタイトな衣服!
ツルペタの胸があわや見えてしまうんではなかろうかというくらいに意味のない乳当て(あえてロリ巨乳にする場合もあるがあえてここは王道ツルペタ…しかもチッパイを気にして恥じてる設定! うーん、王道!)!
股ぐらの形やケツの形までハッキリ解るくらいに、パッツンパッツンな短パンみてぇなパンツ(脱ぐとき大変そう)!
頭にゃ2本の角! 小さな身体に合った物理法則をまるで無視した小ぶりすぎるコウモリ翼、尾てい骨部分に穴を開けて通した、黒い尻尾の先が丸みを帯びたスペードだなんて当たり前でしょ!
うーん! 児童ポルノ法に抵触しそうだがこれは単なる文字情報だ! 筆者は何も悪くない! これを読んで下卑た想像をした者こそが悪い!
さらに言うなれば、男性半数以上が潜在的ロリコンなのが原因のせいではなかろうか!
故に頭に大砲のついたオッサンの話は誰も見に来ない!
だから出す! ロリを! ロリ魔王を!
「なんじゃ? なんじゃかやたらとどこかで煽られておる気が……」
★★★
さて、真魔王ブロゼブブが降り立った場所は魔界だった。
いや、違う。それは元風の谷のナウスィーカ村…現カボチャ村だ!
「な、なんじゃ…これは」
そこはまさに魔界とか地獄と形容する意外に思いつかない程にひどい有様だった。
「ちょうどいいところに子供がおる。いきなり乗り込むのではなく、偵察が必要じゃな」
幼い兄妹がいることに気づき、透明化の魔法を使って妹の方に乗り移る(そもそも透明化できんならそんなことする必要ねぇんじゃね?)。
少女の身体に入った瞬間、ブロゼブブはこの身体の持ち主が“サリサ”という名前であり、手を繋いでいる兄が“パム”という名だと識る。
そうだ! ここまで書いておいて、作者すら忘れていた第1話にチョロっとでていた兄妹だ! 妹の名前を調べ直したくらいだ!
優れた作者はモブといえ設定を無駄にはしないのだ! まさに、なろう系小説投稿者の鑑であーる!
「どうしたの? サリサ?」
「なんでもないよ、お兄ちゃん」
“サリサ”の記憶を探ると、どうやら今から兄と共に父のところへ昼食を届けに行くところのようだった。
(村人の様子から、何が起きたか解るかも知れんのじゃ)
そして家に辿り着く。
そこにはもはや廃人と化した父がいた。
「ニラレバ、レバニラ、ニラレバ、レバニラ…」
哀れ! まさに憐れ! まさしくアワレ!
虚ろな眼をして座った父は、定食屋で最も紛らわしいメニュー名を連呼し続ける。
「父さん…これしか喋れなくなっちゃったんだ」
「な、なんという…」
ブロゼブブは戦慄する。このような非道を見たことがなかったからだ。
「これは…もっと村の中を見ねばならんのじゃ」
★★★
村人であるエルフたちは精神的疲労で痩せこけ、眼だけがギラギラと輝き、村人同士でエサの取り合いでケンカをしている。
村の建物の半分以上は倒壊しており、ゴミや汚物がそこらに放り投げられて悪臭を放つ。
対象的に村の半分以上を占める畑は立派であり、そこに奇妙な櫓のような物が組まれていた。
そして櫓にはハニワがいた!
真っ赤な卑猥な形をしたハニワだ!
何が卑猥なのか!
頭だ!
頭がまず卑猥なのだ!
それが“ブツ”の形をしている!
そして腕だ! 天を指す右腕、そして地を指す左腕…それらも“ブツ”の形をしていた!
そして顔だ! すっとぼけたエロオヤジそのものの顔だ!
そこに平伏して祈りを捧げているのは、軍魔司令パパチチイヤンとコボルトキングを欠いた六魔王だ。
「はー、アンベレベレベレアンベレベ! ハッ!」
燃え盛る薪を前に、村長らしき人物が一心不乱に御幣のような物を振り回す!
「アンベレベレベレアンベレベ! ハッ!」
村長の両隣には、とてもエルフとは思えないクソババアが両手を擦り合わせてゴッドパワーを高めている!
「さっきから、うるせー! バカヤロー!!」
頭にコボルトキングの頭蓋を乗せた大砲オヤジが怒り狂って現れる!!!
「こ、これはヤオキチ様。ワシらは“童貞大邪神アンベレベ”様に祈りを捧げておりまして…お耳障りだったことは大変申し訳なく…」
「あーん?」
ヤオキチはハニワをジロリと見やる。
「なんじゃこりゃあ!」
「は? あ、あの、ヤオキチ様がこれが豊穣神様だと…」
「これが豊穣神だ!? フザケてんのかぁッ! バカヤロー!!」
チュボーン!!!
「ひ、ヒィイイイッ!!」
ヤオキチの大砲が火を噴き、童貞大邪神アンベレベの像は大破した!
「こんなモンに祈るな! 俺が神だ! バカヤロー!!!」
一昨日には別のことを言っていた。「俺に祈るな! これにでも祈ってろ!」と、ハニワ像を持ってきて、童貞大邪神アンベレベだと伝えたのはヤオキチだったのだ。
童貞大邪神アンベレベとは何なのか。それを聞かれても答えられる者はおるまい。
平たく言えば、ヤオキチがどこかの悪徳弁護士を倒した返礼にもらったものなのだが、別に重要なイベントでもないので説明は割愛させて頂こう。
よく道端に落ちている片方だけの軍手。意味ありそうでまったくない。それに近いと思って頂ければ良いだけなのであーる!
「な、なんという混沌…ここには混沌が渦巻いておるのじゃ」
遠くからその様子を見やっていたサリサ…もとい、ブロゼブブはゴクリと息を呑む。
そして指で輪っかを作り、ヤオキチを見やる。これは魔族にしか使えないステータスチェッカー…
いや、ぶっちゃけスカ○ターだ。戦闘能力を測る役に立つんだか立たないんだが、肝心な時にぶっ壊れたり、オーバーフローすると爆発するよく解らん測定器だ。
──ピピピピ
名前:八百屋 八百吉
年齢:60歳
職業:八百屋(自称)、還暦型決戦兵器
趣味:競馬・冷やしたキンキンのビール
自己PR:「フサフサの頭」
HP:無量大数
MP:0
攻撃力:無限大
防御力:無限大
素早さ:ヤヴァイ
運の良さ:天上天下唯我独尊級
スキル:トモグイーターLV.10 強奪者LV.10 無法者LV.10 簒奪者LV.10 狂人LV.10 ナレーションサイレントLV.10 メタボLV.10 眠いLV.8 腹減ったLV.7 股かゆいLV.5 育毛中LV.1 野菜作りLV.1
──ピピピピ
「あいつ、妾より強くねー?」
ブロゼブブは驚愕する。
自分は真魔王だ。その気になれば創生神ニューワルトとすらタイマンできる存在だ。
「能力値カンストってどんだけじゃ。…じゃが、不意打ちを喰らわせれば…」
そうだ。最大最強の魔法を撃ち込んでやったら倒せるやも…そう、ブロゼブブが思った瞬間だった。
「ぶえっくしょーい!!!!」
「え!?」
──ヤオキチは凍てつかないクシャミを放った!
ゴゴゴゴウーッ!
──真魔王ブロゼブブのすべての魔法が無効化される!!
サリサに取り憑いていたブロゼブブが無理やり引きずり出される!
「サリサ!?」
急に倒れた妹に、びっくりして近づいたパムが、その後方にいたブロゼブブの姿を見て青ざめる。
「クッ! 妾の存在に気づいたか! さすがじゃな! 妾こそが…」
「ぶえっくしょーい!!!!」
「え!?」
──ヤオキチは凍てつかないクシャミを放った!
ゴゴゴゴウーッ!
──真魔王ブロゼブブのすべての衣服がはがされる!!
お約束! 猛烈な突風が局所的に吹き荒れ、ブロゼブブの衣服を持っていく!
そんなとこ破れるわけねぇーだろ! 切り込みでもいれてんのか!
と、ツッコミを入れたくなるぐらいに綺麗にビリビリになって飛んでいく!!
「キャアアッ♡」
本当に裸になったらそんな悲鳴あげるわけねーだろ!
だが、キャアと言わせる!
なろう読者がそれを求めているが故に!
大事な部分を辛うじて隠して、ペタンと座り込んだ真魔王ブロゼブブ。
正直に言って、何百年も生きてきた魔族が裸を見られたからといって、そんなピュアな反応するのかとも思わなくもないが、そんなことはどうでもいい。エロティックでさえあれば人気はでるのだ!!
そしてピュアなエルフ、パムは自分の眼をしっかり覆う。
ショタがエロティックには無知というのは定説でなければならないが故に。
「ふ、ふぇええん…。わ、妾にこんな屈辱を…」
「だ、大丈夫? これを」
気が利くショタ、パムが自分の上着を差し出す。
ショタエルフとロリ真魔王…これだけで新ジャンルが生まれそうな予感だが、それを邪魔する存在がまだいた!
「なんだバカヤロー!!!」
「ヒッ!」「ヒィイイ!」
怒り狂う八百屋サイボーグことヤオキチ。
相手がショタでもロリでも関係ない。悪いことをしたら拳骨だ。それが昭和のオヤヂというものだ。
そしてパムもブロゼブブも特に悪いことはしていないのに拳骨を喰らう!
理由などない。理由などは言い訳だ。つまり言い訳があったから殴られたのだ! つまり理由自体が言い訳だったということだ(書いてる本人もよく解っていない)!
「飽きた! この世界はつまんねぇ!」
悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!
なぜならばチート系主人公はなんでもできーる! なんでもできるが故に困難を味合うこともない!! それは飽きる!!!
困難のない人生なんて、なろう系の小説だけだ! 小説から顔を上げて外を見ろ! 困難だらけじゃないか! だから我々は現実を生きられる!!
しかし、チート系主人公最大の敵! それはまさに“飽き”だったのだ!
「おーい! ヤオキチやーい!」
遠くから何かが飛んでくる! ホウキに乗った魔女…もといジジイだ!!
「ん? あ! 白木のクソジジイ!! テメェ!!」
「ワシも来ちゃった♡」
「来ちゃったじゃねぇよ! クソが! こんな競馬もねぇ、プロ野球もねぇ、パチンコもねぇ、ビールもねぇ、無い無い尽くしのクソアメリケンなぞに連れて来やがって!! バカヤロー!!」
「ほえ? この世界はお気に召さないと?」
「当たり前だバカヤロー! これ見やがれ! 飯もマズイ!」
ヤオキチは何かを引きずっており、それをグチャグチャとさっきから食っていた。
「ハッ! そ、それはまさか…」
ブロゼブブの眼が驚愕に見開かれる。
「我が盟友…魔竜ルンボロボンボ」
黒檀を思わせる艶のある鱗、そして雷撃を思わせる紋様から言って間違いなく魔竜の胴体である。
しかし、すでにこんがりと焼かれた上、頭部分は食い散らかされていた。
「昨日、山で捕まえたウナギだ! マズイ! すこぶるマズイ! まるで古いタイヤ喰ってるみてぇだ!」
悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!
名前がすでに出ていたというのに、初登場にはすでに蒲焼き状態にされていた!
なろう小説界隈始まって以来! ラスボス級の魔物が初っ端から喰われるという最悪の登場なのであーった!
「そっかー。ワシ、喜んで貰えると思っとったのにー。頑張って神になったのになぁー」
モジモジするジジイ。正直、可愛くない。
「それになんだ白木のクソジジイ! 床屋のクセにそんな気持ちのワリィ格好しやがって!」
「だって魔法使いになって、ヤオキチと一緒に冒険したかったんじゃもーん♡」
「うるせぇ! バカヤロー! はやくバカ女の家に戻せ! あのクソ教師とクイズ番組でツマミかけて勝負すんだかんよ!」
「ウヒヒ! ヤオキチよ。そのためにはしなければならんことがあーる!」
「あ?」
空から何かが降りて来る。それを見た村人たちは眼を丸くした。
「て、天使…」
そう。それは天使だった。頭に光輪、白い翼を持ち、赤ちゃんを抱いた天使だ!
しかも真っ赤な鎧の中年男性を側に連れている!
「ゴッド・タマミ・シラキ様!」
天使と中年男は降り立った瞬間、シラキと呼ばれるジジイの前に平伏する。
「…準備の方、整いましてございます」
「うむ! ご苦労!」
天使が頭を垂れる存在…人々はそう思い、(こいつはやべーぞ)と思った。
「なんだ? クソジジイ! 説明しろ!」
「この世界、滅ぼしちゃうぞーい♡」
「お?」
「「「エーッ?!」」」
ヤオキチと天使と中年男以外が、ブロゼブブまでがモブたちと一緒に目玉を飛び出させて驚く!
「ワシらが元の世界に戻るにはそれしかぬぁーい! ってことで、世界の中心たる王様の城に異動魔法陣が隠されとるんじゃーい♡ だからまずは城を乗っとるぞい!」
「へー。よく解らねぇが、案内しろ!」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! お前たちは異世界から来たのか! そして世界を滅ぼすじゃと!? 悪魔か!? それとも魔王なのか!? 何故にそのようなことをするんじゃ!」
この中で唯一対抗できる存在…真魔王ブロゼブブが震えながらも沽券にかけて問う!
「飽きたからだ!」「飽きたからじゃーい!」
そう! まさにこの一言だ!
転生してチートになったって、なろう系小説はないし、エロゲーもない!
ここで描かれた転生者・異動者たちの末路は見ただろう! それは不運な最期だったではないか!
まさに田舎暮らしに憧れ、移り住んでみたはいいが、虫は多いし、村八分にされるし、娯楽はないし、車ないと生活できないし、道はデコボコしてるし、老人の乗った軽トラはカーブ減速もせずに殺意を持って走ってるし、食料買い出しは大変だし、プロパンは高いし、役所の対応も雑だし、思ったよりノビノビできないんだなぁーやっぱ都市部って最高だったんだなぁーと、思わせるのと同じなのだ!
先見の妙ある偉人はかつてこう言った! “隣の家の芝生は蒼く見えるのだ”…と!
「こんな競馬も競輪も競艇も、パチスロもワンカップもねぇ国なんて滅びたって同じだ!!」
ヤオキチは怒り狂う!
食いもんだって絶対、現代日本の方が美味い!
彼を弁を擁護すると、なろう作家も読者も“今いる日本に感謝せよ!”ということである(前話でゴッデムが感謝していたくらいに)!
「さあ! 行くぞ!」
「おー♡」
ヤオキチとシラキを止められるものはいない。
なぜなら彼らはチートキャラだからだ!
なぜ現実にチートがないのか? なぜイケメンよりもバグったキャラの方が多いのか?
それはこうなるからだ! 過ぎたる力を持った人間はそれを使わざるを得ない!
まさに神が人間から知恵の実を遠ざけた理由がこんなところにあったのだ!!!
(刺し違えてでも、妾が…妾がこの世界を守らねば…)
2人の背を追おうとしたブロゼブブに影が落ちる。
「待て! 今行ってもやられるだけだ!」
「だ、誰じゃ!?」
「皆も知っての通り、俺は武神ゴッデム! 創生神ニューワルトの双子の妹の隣に住んでいたババアの知り合いの家電屋の息子だ!」




