騎士とホース
波打ち際から見渡せるのは、森。
その海岸の岩なのか森の岩なのか分からない、テリトリーを示すような場所。
大きなキノコが石化して残っているその場所に、腰掛けている人物がいる。
剣を携えている。
アリスはイコールの三歩うしろから、その男を見た。
憂い顔のその青年は、古い紙を見つめていた。
「ヘイっ、あの~・・・お取込み中?」
男がうろん、とも呼べるさびしそうな目でイコールを見た。
「なんの用だ?殺されたいのか?」
「いえいえとんでもない。道を尋ねたくて」
「どこに行かれるのか」
「とりあえず、チョッキを着たウサギを追いかけに」
「ああ・・・あのウサギか。それに乗るといい。乗り方を知っているのならば」
青年が示したのは、黒い大型バイクだった。
「おおっ・・・くれるの?」
「ああ・・・もう寿命が近いが。よければもらっていくといい」
「あなたは?」
「私は騎士。そのバイクの名は『ホース』と言う」
「なぜにそんなにさびしそうなの?」
「知らない・・・いや。分からない」
「虚空の目をしているわ」
「ふたがないのか、底がないのか」
「何のふたと底なの?」
「分からない・・・いや。知らない」
「ふぅん・・・・・・」
「話を聞いてくれて、ありがとう」
「いいえ。お話できてうれしかったわ」
イコールはバイクにまたがって、エンジンをかけた。
「アリス」
「うん」
アリスはバイクのうしろにまたがると、濡れた服のままイコールに抱きついた。
「走っている間に乾くかしら?」
「何が?」
「服よ」
「さぁ?今はどうでもいいような気がする」
「何故?」
数秒の間。
「じゃあ、発進っ」
アリスはうしろを振り向いた。
「騎士さん、ありがとうっ」
騎士はさびしそうな微笑を浮かべて、片手で挨拶をした。