ネコ姫と彼女だけの王子様
ドアをノックする音。
鏡の前でロングヘアーを結っていたアリスは、適当な返事をする。
アリスの部屋のドアを開けたのは、執事のネリーだった。
仰々しいひとで、貫録のある目をしているので、まるで二十四歳には見えない。
毛先を緑色に染めているのが印象的。
「イコールさまがお待ちでございます」
「なかなか髪型が決まらないのよ」
片方が開いたドアをノックする男、イコールの姿を鏡ごしに見つける。
「あら、イコール。ごめんなさいね。髪型がなかなかきまらないのよ」
「だいたい察しはついていたさ。入っても?」
「どうぞ?」
悠々と部屋に入ってきたイコールは、カウチソファーに座って足を組んだ。
「水飲む?ってか飲んでいい?」
「わたしの分もお願い」
「オーケィ。大きなグラスをテーブルに?」
頭が丸いコルクのようなガラスの水差しから水をついで、グラスに二人分。
部屋のどこかにいる愛猫ダイナが鳴いた。
「よっし。決まった気がするわっ」
「どれ?」
アリスは振り向いて、ほほえんで見せる。
グラスに口をつけながら、スーツを着ているイコールがアリスを見る。
「うんうん。かわいい」
「よかったわ。それでイコール、今日は一体まったくして何のことなの?」
「僕も知らない」
「ふぅん・・・」
「水」
「ああ、ありがとう」
アリスはイコールの隣に腰掛け、グラスの水を飲んだ。
イコールがアリスの肩に手を回すかのように、カウチソファーのへりに手を伸ばす。
◆◇◆◇
「大変だぁ、遅れちまうようっ」
いつの間にかアリスはイコールにお姫様だっこをされていた。
そしてチョッキを着たウサギが飛び込んだ穴に、ひょいと飛び降りた。
「え」
その光走る暗い穴が色んな情報を抜き取っていくかのような速さでの落下。
そしてしだいに速度がゆるまってくると、周りの様子が見えてきた。