青虫は水煙草をふかし、蝶は羽根を広げる
「ここまで来たら、少し休もうかしら・・・?」
草をかきわけてそうアリスがぼやく。
「今日の花々の歌はまるでヴァイオリンだ」
「え?」
「ああ、ここだ。ここだ。キノコの上だよ」
アリスが声のした方を見ると、キノコの上で水煙草をふかしている青虫を見つけた。
青虫は、しばらく何も言わなかった。
「『ムシ』をしているの?」
「君は誰?」
「あなたは?」
「片方は大きくなる、片方は小さくなる」
「何のお話?」
「キノコの話さ」
水煙草の煙がもくもくとあがり、青虫はさなぎになった。
「青い青虫だったから、青い蝶々になるのかしら?」
「今度、青い蝶々が見れるかもよ」
近づいて来たのは、イコールだった。
「それはどういうこと?」
「赤い蝶だったりしてね」
「うぅ~ん・・・小さい頃、そんな話を聞いたことがあるような気がする」
「小さい頃?」
「もしかしたら、ご先祖様が聞いたことかしら?」
「うん?」
「どこで聞いたのか・・・」
「なにを?」
「なんだったかしら?」
「うた?」
「そう、かも、しれない・・・」
「考え出すと、きりがないよ」
「ん?」
アリスは頭を抱えるのをやめて、イコールを見た。
イコールは肩をおおぎょうにすくめてみせた。
ううん、とひとうなりすると、アリスは眉根を寄せた。
「お腹すいたし、キノコ食べてみようかしら?」
そう言った瞬間、さなぎは青い蝶になって飛んで行った。
「体感時間がすごいね」
「そうね・・・体感時間・・・」
アリスは円形のキノコの両側をもいで、その片方をかじってみた。
するとたちまち身体の大きさは、木々のてっぺんを抜きんでそうになった。
鳩が飛んできて、このヘビめぇ、と叫びだす。
「お腹すいたわ・・・」
アリスは鳩の叫びを横耳に、もう片方のキノコをかじる。
にょきにょきのびた背丈が、やっと縮まって落ち着きを取り戻した頃。
近づいてきたイコールに、アリスは言った。
「地面に足がついてたからよかったけど、途中でジャンプしたらどうなったのかしら?」
「うーん・・・ちょっとの間、空飛べたんじゃない?」
「そうね、私もそれを少し考えながら縮んだわ」
「そうなると、飛んでるんじゃなくて、落ちてるだけなんだけどね」
「そうそう」
「うんうん。地に足つかない話だね」
「そんなことより、お腹、すいた・・・」
「バターフライがいるところに戻ろうか?」
「なんだか、向こう側からいい匂いがするわ」
「ほう・・・なんだか香ばしい・・・そっちに行こう」
「ええ」
アリスはイコールのうしろポケットにもいだキノコの片方ともう片方を託した。




