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地味だけど嫌だ

 ◆


「何!? エリーナが家から出てこないだと!?」


 書類ごと、僕は手を机に叩きつける。彼女の動向を聞かされて、動揺(どうよう)してしまった。


「はい、父親が言うには殿下からの婚約破棄のお言葉で食事も喉を通らず泣き暮れていると」

「そんな……」


 ふらりと立ち上がり、考える。

 彼女はそれほど、僕の事を――。しかし、定められた運命の相手は…………。


「アナスタシアは?」

「はっ! アナスタシア様は騎士見習いのアレンと買い物に出掛けている姿が――」

「アナスタシア――」


 まさか、アナスタシアは、僕の運命ではない……のか? それでは――、あの婚約解消は……。

 ぎゅっと、手を握りしめ僕は命令した。


「やはり僕には、エリーナしかいないんだ! おい、今から彼女の家に行くぞ! シロナお前はアナスタシアにもう少しついていろ」

「「はっ」」


 僕の運命の乙女はいったいどっちなんだ……。


 ◇


「ちょ、ちょ、ちょっと待って」

「あぁ」


 私達二人はともに赤くなっていた。そうだ、着替えとか、シャワーとか、――色々どうしよう!


 この世界は、現実世界に近い作りだから、お風呂とかもあるんだけどね。うん、どうしよう……。


 ここは彼のおうち。入ってすぐのところに飛行機(ハイエアート)の制作場所があってその奥にいろいろ生活できる部屋がある。


「リリーナは(うち)は?」


 と、聞かれ答えられずにいると、彼はここに連れてきてくれたんだけど……。


「こんな状況だから、ほっぽりだせない。すまないがここで暮らしてもらっていいか?」


 宿で泊まるつもりだったけれど、彼と手を離して生活していくのは確かに色々と怖そうだ。

 でも、流石に……。


「お風呂にはいる間ぐらいならたぶん大丈夫だろう。あっても俺の時は石鹸(せっけん)がなかったりしたぐらいだ」


 石鹸って――――、地味に嫌な不幸ですね……。


「何があってもいいように、近くにいてやる」


 いや、それがもうすでに不幸では……。

 はぁ、とため息をついて私は覚悟を決めた。


 ◇


 お風呂は無事に乗り切り、今はなんとなく流れでお料理中。

 え、誰がって?


「凄いね」

「まあ、ある程度は出来るぞ」


 トントンとキレイに切り揃えられていく食材達。料理ってこんな感じで作るんだ。私もお母さんの手伝いくらいしとけばよかったかな。なんて思いながら、彼の背中にくっついて料理が出来上がるのを待つ。

 要は身体がくっついてたらいいのよね。たぶん。

 火は「サラマンデル」と炎の精霊さんを呼んでいた。精霊魔法って料理に使っていいのかな?


「男が作るもんだから、味は期待するなよ?」

「うん、いただきまーす」


 シチューみたいなスープが出来た。美味しそうな匂いにつられて私はぱくりと、一気に口の中に料理を運ぶ。そして後悔した。スープの熱さに目を見開く。


「おい、バカ!出来立てを」

「あつあっっあっつー」


 はぁ、不幸……。いや、これはただの不注意か。

 でもでも。


美味(おい)しいぃ」


 少し冷めたから、口の中で味わうといろんな材料の味がしっかりと主張していてそれでいて喧嘩(けんか)はしてなくて、とっても美味しい。もしかしてアルテはプロですか?


「はは、そう言ってくれると作ったかいがあるよ。まあゆっくり気を付けて食べろよ」


 ニコニコしながら彼は自分の分を食べだした。

 ほめられると嬉しいのかな? ほめてこんな美味しいものがいただけるなら、私、いっぱいほめるね!

 私もニコニコしながらスープをはふはふして食べ進める。


 ◇


「ねぇ、やっぱり悪いよ」

「女の子を床に寝かせて自分だけベッドでぬくぬく寝るなんて出来るか! 素直に言うこと聞いとけ」


 私がベッドで、彼は手を繋ぎながら床に座って寝ると言うのだ。

 悪い気がするけれど、うん、一緒に寝るという案は流石に出せないしなぁ。


「ごめんね」

「そうそう、子供は大人のいうこと素直に聞いとけ」


 アルテはいくつなんだろう? 私、これでも18歳なんですけど。子供扱いしないで欲しいな。

 あ、でもお子ちゃまだと思わせておいた方が身の危険から遠ざけてあげられるかな?

 一応この人が好きなのは、妹姫様(メイラ)なのよね?

 だけど、この人も男の人だ。いつ狼さんになるかわかったものじゃない。熊だけど。

 自分の身は自分で守る。気を付けなきゃ!


「明かり消すぞ」

「うん」


 ふっと明かりが消えて暗くなった部屋。そっと大きな手が私の手を優しく握る。


「変なことは考えなくていいぞ。寝ろ」


 頭の中を見透かされたように彼が言う。


「わかった、何かしたら踏み潰す」

「おいおい、おやすみ。お姫さん」

「私はエ――、リリーナ!」


 ハハハと笑ってから彼の声は止まった。


「おやすみなさい」


 大きな手が温かくて、なんだかホッとする。今日の働きぶりや、対応なんかを考えれば少しくらいなら信じても、いいかな。

 私は夢の中にゆっくりと落ちていった。

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