転生王子は悪役令嬢のファン
王宮の広い庭園に、子連れの上級貴族が集まっている。
今日は、王子・王女の友人候補を選ぶためのガーデンパーティーが行われるのだ。
8歳の第一王子、6歳の第二王子、5歳の第一王女の年齢に近い、10歳から3歳くらいの子息令嬢とその両親が招待されているので、上位貴族だけとは言え、そこそこの人数が集まっている。
会場であるガーデンの上座にある椅子に、王と王妃、そして王子王女が座ると、筆頭公爵家の一家が挨拶にやって来た。
シルバーの髪にアイスブルーのキリッとした男の子が前へ出た。
「お初にお目に掛かります。クリスタル家長男のエドワードでございます。」
次いで、エドワードと同じ色彩の女の子が進み出る。
「王家の皆様、ご機嫌麗しゅう。クリスタル家長女のロゼリアで御座います。」
綺麗な淑女の礼をとると・・・
「っ!ロゼリア・・・!?」
ガタッと立ち上がった第二王子。
とても驚いた顔をして、よろける。
彼は、ロゼリアの容姿と名前で思い出した。
ーこの世界の王立魔法学園を舞台とした乙女ゲームがあり、自分は攻略対象である事。
婚約者となるロゼリアは、悪役令嬢であり、前世の自分「タクヤ」が推している声優がCVを担当していた事。
タクヤは、第二王子の声優を担当した事。ー
一気に思い出したせいか、頭が痛む。
転生者が悪役令嬢の方であったら、倒れただろう。
しかし、王子である自分が倒れるわけにはいかない。
「スミマセン、あまりにも美しくて・・・」と誤魔化して座った。
それを聞いて、王妃と公爵夫人は目を輝かせた。
ロゼリアは頬を赤らめ、そっぽを向く姿が可愛らしかった。
ロゼリアの弟も挨拶をし、第二王子を睨んでいたが、睨まれた第二王子は気付いてもいない。
クリスタル公爵家が下がると、エメラルド侯爵家が挨拶に来たが、第二王子の耳にはもう何も届いていなかった。
第二王子の前世、タクヤは高校生時代、大ファンであった声優「サユリさん」の側で仕事をすべく、某有名アニメーション専門学校のアニメ音響科への進学を希望していた。
しかし、深夜ラジオでリスナーが夢を語るコーナーに電話出演が叶い、熱弁するタクヤに、「タクヤ君、いい声だし、感情豊富だから声優になったら良いのに」と言うサユリさんの一言で、タクヤは声優を志す事に。
専門学校の声優学科を卒業して、オーディションを受けまくる日々。
ちょこちょこと仕事が増えていき、遂に念願のサユリさんとの初共演に浮かれた。
しかも、婚約者役だ。
しかし、いざ台本を読むと、サユリさんがキャラクターボイスを務める、ロゼリアとは不仲。
別の令嬢に恋をして、婚約破棄からの国外追放!?
「グシャリ」
台本を持つ手に力が入り過ぎたようだ。
仕事なので一生懸命こなしたが、正直、演じていて自分自身を殴りたくなる思いだった。
俺ならロゼリアを蔑ろにした挙句追放なんて絶対しないのにッ!
数日後、父である王に呼ばれた第二王子は、王と王妃から、ロゼリアが自身の婚約者となることがほぼ決まったことが告げられた。
「一目惚れなんでしょう?」と王妃である母が、優雅に微笑んでいた。
どうやらいつの間にか、王妃と公爵夫人がそれぞれの夫を説得していたようだ。
婚約破棄して国外追放するような第二王子はロゼリアに相応しくない!と思うが、その第二王子は自分である。
それなら、ツンデレなロゼリアも、デレるように自分がずっと大切にすればいいと思い至る。
クリスタル家は筆頭公爵家なので、当初は第一王子の婚約者にどうかと思われていたようだが、あの日の発言のおかげで、第二王子との婚約となった。
第一王子はおそらく近隣の国の王女との婚約になるだろう。
婚約者となり、ロゼリアは王城へ王子妃教育へ来たりするので、一緒にお茶をするようになった。
数年経ったが、関係は良好だ。
ゲームで、第二王子がロゼリアに嫌味を言われるのは、王子が努力を怠っていたのだろう。
俺は、ロゼリアに相応しくなるために、勉学や剣術は勿論、魔法もたくさん学んだ。
ロゼリアは意識が高く、ツンとしている姿も可愛いが、褒めたりプレゼントをした時、一瞬見せてくれる笑顔が最高に可愛い!
今日もプレゼントを持ってクリスタル公爵邸へ行く。
今回は、12歳から通う王立魔法学園へ入学するロゼリアに、入学祝いだ。
公爵邸に着くと、公爵夫人とロゼリア、ロゼリアの弟が出迎えてくれた。
ロゼリアの弟は今日も俺を睨んでいる。
ロゼリアの弟はロゼリアが大好きで、ロゼリアを奪っていく俺は嫌われているようだ。
「殿下、ようこそおいでくださいました。応接室に、お茶を用意致します。」
と公爵夫人が言ってくれるが、夫人は応接室にはこない。
いつもロゼリアと過ごさせてくれるのだ。
と言っても、侍女や侍従が居るので、本当に2人きりではないが。
応接室でお茶を淹れてもらい、侍女が壁際に控えたところで、ロゼリアにプレゼントを渡した。
コレは俺が前世の知識を元に考えたペンだ。
中世風のこのゲームは、ところどころ現代日本とは違う。
ペンも、インクに浸して書くものだったが、俺は前世のようにインクをつけなくてもスラスラ書けるペンが欲しかったのだ。
俺は意見を出しただけで、実際に作るのは職人だが、
学園に通うなら、筆記用具も要るだろうと作ってきたのだ。
ロゼリアの色であるシルバーにアイスブルーの薔薇模様のペンと、俺の色であるゴールドにターコイズのペンを。
ペンの他にもアイディアだけは色々出してみた。
実現出来たものもあれば、まだ試行錯誤中のものもあるが・・・
ロゼリアは一瞬、花の咲き誇る笑顔を見せてくれたが、すぐに真面目な顔で「殿下に恥じぬ様、一層努力しますわ」と言った。
学園では、俺もロゼリアもいつでも模範となれるよう気を張っていた。
しかし、やはりここは乙女ゲームの世界なのだろうか。
ヒロインである、デイジーも同学年だった。
彼女に初めて出逢った時、何故か思い出したんだ。
前世でタクヤは、ファンであるストーカー女に悩まされていた事を。
その精神的疲労からの不注意で交通事故に遭った事を。
デイジーは、いつも俺をチラチラ見ている。
自意識過剰とか言わないでくれ。
俺だって、攻略されたくないんだ!
関わらないでくれたら有難いんだが、俺が注意しても聞かないし、ロゼリアが注意しようものなら、直ぐに泣き真似をし始める。
なんで俺がマナーも教養もない女の相手をしなきゃならないんだ?
デイジーを見るとなんだかゾッとするんだ・・・
俺が相手にしないし、ロゼリアも勿論デイジーを虐めたりしていない。
しかし、デイジーはロゼリアの横で転んでみたり、何も言っていないのに「ひどいです!」と言って泣き出したりする。
ヒドイのはお前の頭だ、と言ってやりたい。
しかし、あの女は危険だ。
ロゼリアに何かあっては困るので、キレることが出来ない。
しっかり計画して対処しなければならない。
勿論、俺は学園に入る前からコツコツ計画を立てていたのだ。
準備が整ったのは、学園の卒業パーティーという、乙女ゲームでの、婚約破棄イベントと同じ時となってしまった。
サユリさんと話すまでは、音響へ進む気だったタクヤは、音響や映像にも興味があり、同じ専門学校出身の音響や映像の仕事へ就いた友人がいた。
オフでも彼らと熱く語っていたタクヤは多少の前世の知識を活かし、魔道具を作成するアイディアを出した。
勿論、作ったのは専門家だが。
そんな訳で、王城や学園には、映像や音声を録る魔道具が設置された。
毒や媚薬、精神操作系魔法を発見する魔道具も設置された。
それにより、デイジーが媚薬入りのクッキーを食べさせようとしたり、魅了魔法のうっすら掛かったブローチを持ち込もうとした事もわかり、未然に防がれた。
そして、自作自演の階段落ちもしっかり録画されたのだ。
防犯システムが強化されたと生徒達にも伝えられているのに、前世の防犯カメラのような物があるなんて思っていないデイジーは、ロゼリアに落とされたと主張した。
「殿下、騙されないで下さい!」と主張するデイジーに、証拠映像をパーティー会場で見せてあげたら「ロゼリアが用意した嘘の証拠映像だ。録画技術のない世界なのに!」とか、「ロゼリアも転生者なのか?」と言い出した。
どうやらデイジーは転生者だったようだ。
ロゼリアはデイジーの気が狂ったのか?と言うような顔をしていた。
「僕が発案した映像システムを疑うと言うことは、僕や王宮魔法使い、魔道具師を疑うのかい?」と聞いてみた。
僕が転生者かもしれないと、思い至ったデイジーは「ヒロインである自分が第二王子と結ばれるハズ」だの「前世でもタクヤと結ばれなかったのに」などと言い出した。
デイジーは、タクヤのストーカーだったあの女だったようだ。
出会った頃に思い出した記憶は、本能的なものだったのだろう。
デイジーは王子や公爵令嬢を害そうとした罪で逮捕された。
第二王子は、婚約である悪役令嬢との関係を守り抜き、卒業後、結婚をした。
ロゼリアの弟も、デイジーに言い寄られても、ロゼリアだけを大切にする第二王子を見て、渋々ではあるが姉を任せられると思ったようだ。
時々、大好きなロゼリアが可愛い声で甘えてくれるのがとても幸せだと思うのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
第二王子の名前がピンと来なくて決められませんでした。
何故か第一王子と王女様は考えていたのですが、出せませんでした。
至らないところだらけなお粗末なもので申し訳ないですが、素人の思い付きなので、ヘッタクソだなーくらいでスルーしてもらえたら、と思います。
名前ひとつ決めれない自分を見ると、いつも読んでる作品の作者様ってスゴイ!と思いました。