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なるべく正しいスケールと速度感で描こうと試みた超未来の宇宙戦争もの

作者: 回天

正しいスケールと速度感の未来の宇宙戦争を書いてみようと思いましたが、アクションが難しかったので、ほぼ地の文です。


馴染みがない単語が多数出てくると思いますが、筆者も何も分かっていないので、適当に流してください。

 


 星の光が線となって後方へと流れていく。乗員向け休憩スペースの窓から見える船外の景色は、この6日間、変化していない。そんな単調な外の風景とは裏腹に、座って休憩しているはずの男たちの目は爛々と輝いて、落ち着きがない。設置された空間スクリーンからは、古いメロドラマが流されているが、それを見ている者たちもまったく集中できていない様子だ。


 無理もない。この空間跳躍を終えると、そこには戦場が待っている。


 かくいう俺、ハラグチ・ヨシオ4等宙戦兵もまた、武者震いが止まらなかった。



 この船、スリー・タマ王立軍第1148作戦艦隊に所属する超大型重戦闘空母「コレマサ」は、乾坤一擲の作戦である『ハチオージ・ラーメン』に投入されようとしていた。


 同作戦の目的は、我らが祖国、スリー・タマ第199王朝の領宙であるマチダ星団を蹂躙しつつある敵国、サガミハラ星系同盟の艦隊に側面から攻撃を仕掛け、これを撃滅することにある。


 情報の漏洩を避けるため、空間跳躍に入った後に行なわれたブリーフィングによれば、第1148作戦艦隊の攻撃目標は、マチダ星団内のオヤマダ=サクラダイD(Oyamada Sakuradai-D:OS-D)星系に展開するサガミハラ同盟の機動戦闘艦隊である。我々、第1148作戦艦隊が戦闘空母1200隻を基幹とする総計4万隻、人員1億3000万人で構成されるのに対して、敵艦隊は重レーザー艦800隻など総計3万隻、人員は1億人程度と見られていた。


 OS-D星系への空間跳躍に使われる4次元空間回廊は、スリー・タマ王立軍の秘匿経路であり、サガミハラ同盟は知らないはずだった。よって、攻撃は奇襲となる見込みだ。


 古参兵たちは「楽な戦いだな」と笑っていたが、3年がかりの新兵教育を終えたばかりの俺にとっては初陣である。嫌でも緊張した。しかし、いよいよ戦闘が始まるであろう今、その古参兵たちも落ち着かない様子だ。どうやら戦闘というものは、何度やっても慣れることはないらしい。



『全乗員へ通達! 空間跳躍終了および接敵予想時刻まで残り2時間! 第2種戦闘配置へ移行せよ!』


 アナウンスが響いた。休憩していた男たちが一斉に立ち上がり、我先にと休憩スペースの外へ出て行く。俺も、それに続いた。




 目的地到着直後の戦闘が予想される俺は、愛機である戦闘攻撃航宙機TSSI(タチカワ・スペース・シップ・インダストリーズ) SW-601「スペース・タヌキ」に乗り込み、宇宙空間への射出を待つ。


 戦場となるはずのOS-D星系は赤色巨星を中心として、11の惑星と4つの準惑星で構成される。それらのうち、3つはガス惑星、4つは液状惑星だ。残り8つの惑星・準惑星は地殻を有しているが、1つは恒星に近すぎて常時数千度なので人は住めない。残りの7つは数万年ほど前にテラフォーミングされて、現在は多くの住民が居住していた。また、これ以外にも複数の衛星や軌道上コロニーが存在しており、そちらにも居住者がいる。同星系が奪取される前にスリー・タマ王朝が行った人口調査によれば、星系全体で約260億の人間が住んでいるらしい。


 空母「コレマサ」は敵主力が存在すると予想される、第5惑星(OS-D-e)の公転軌道上に出現する予定であった。


 事前に星系マップをよく確認する。射出の方向を間違えて小惑星帯などに突っ込んだら、俺は一瞬の宇宙の藻屑となってしまうだろう。


「空間跳躍終了および接敵予想時刻まで残り2分! 各自、戦闘開始に備えよ!」


 アナウンスが脳内に聞こえた。戦闘開始に備えて、脳内にインプラントされた航宙戦闘支援デバイスが起動しており、それが俺の脳に直接に電気信号を送っている。このシステムは、俺の精神を補強する効果もある。これが無ければ、とうてい航宙戦には耐えられない。


「戦闘攻撃隊全員に通達する。コレマサ艦長のオガワ・カンジ上級少佐だ」


 脳内に髭面の男、艦長の顔が浮かんだ。戦闘開始前に訓示を行なうらしい。


「まもなく、我々は戦場へと突入する。攻撃が成功するかは、最初の30秒間に掛かっている。その間に出来る限りの戦果を挙げてもらいたい」


 30秒、それだけあれば敵もこちらを察知し、ほぼ完全な反撃能力を発動できる。確かに、それまでに敵をある程度無力化できなければ、面倒なことになるだろう。


「私は諸君ら戦闘攻撃隊には武勲を上げてもらいたい。しかし、諸君らが死ぬことは望んでいない。無理を避けて戦ってくれ」


 俺の神経系に、艦長の敬礼する姿が浮かんだ。


「諸君らの健闘を祈る。」


 艦長の姿が消えた。


 俺は心を落ちるかせるために深呼吸を続けた。大丈夫、訓練どおりにやれば勝てる。


「間もなく、空間跳躍が終了する。残り10秒」


 アナウンスが聞こえる。


 俺は息を吸った。


「5、4、3、2、1」


 空間跳躍が終わったまさにその瞬間に俺の認知と思考が一気に加速する。タチカワSW-601の外部演算・認知システムと、俺の脳内の航宙戦闘支援デバイス、「コレマサ」の空間把握・観測システムがリンクしたのだ。今や俺はナノ秒(10億分の1=10^-9秒)単位で考えている。


 数マイクロ秒(100万分の1=10^-6秒)の間に膨大な情報が流れ込んでくる。事前に有していた星系内マップと「コレマサ」の原子移動逆算観測データがリンクし、愛機の演算機能の助けを借りて、詳細な敵戦力の配置状況が俺の脳内に構成される。


(到達可能範囲内には重レーザー艦2、護衛光速打撃艦24、補給艦4、時間軸管理支援艦1、そして……敵の移動惑星要塞1!? 聞いていないぞ!?)


 移動惑星要塞は、文字通り、人工的に作られた移動可能な惑星サイズの要塞である。後方支援のために利用され、図体が大きすぎて攻撃能力は低いが、艦船の修理・補給機能を有している。事前のブリーフィングでは、この星系にはいないはずだった。


「ハラグチ4等兵、指定座標ж909θに展開する移動惑星要塞を攻撃せよ!」


 脳内で、「コレマサ」司令部からの指令が飛ぶ。どうやら俺は、あのデカブツに爆弾を叩きこまねばならないらしい。


 攻撃目標指示が伝達されてすぐ、同僚たちの戦闘攻撃機が「コレマサ」から射出されていく。俺の機体もそれに続いた。45ミリ秒の間に光速の74%の速度まで加速された愛機が、宇宙空間へと投げ出される。コレマサは2000機の航宙機を有している。俺の後からも続々と味方が射出されていた。


 久しぶりにコレマサの外に出られたな、と思いながら機体を傾け、目標の移動惑星要塞に機首を向ける。現実時間で約10秒で目標に到達できるだろう。体感時間が10億倍にまで加速している俺にとっては無限の彼方であるが、航宙戦闘支援デバイスが俺の精神を維持し、発狂を防いでくれていた。


 目標へ向かう間に兵装の準備を進める。機体には、近接戦闘用の圧縮レーザー兵器と、対艦用のエントロピー逆転爆弾、対航宙機用の因果操作誘導弾が搭載されている。敵の航宙機が出てくる可能性があるが、今は目標である移動惑星要塞の撃破が優先された。エントロピー逆転爆弾の発射準備を最優先で進める。


 移動している間にも、戦場についての情報が大量に脳内に流れ込んでくる。発艦から1秒も経つ頃には、星系内部の敵配置は完全に理解できていた。


「指定座標г714β2に展開する敵護衛光速打撃艦に重力子エネルギー弾が命中。但し、敵の因果シールドによってダメージは限定的、続報を待て」

「概念同一性維持支援艦「カワノリ=ヤマ」が時間軸跳躍機動を実施する、注意されたし」

「敵通信を傍受・解読に成功、指定座標л1005κ94に展開する敵輸送艦は2秒後に超光速機動によって戦闘から離脱する。当該目標を攻撃予定だった機には新たな目標を与える」


 莫大な通信情報が脳内で再処理され、戦場マップは絶え間なく更新される。どうやら味方は善戦しているらしかった。



 永遠ともいえる長い時間、現実時間にしておよそ10秒が流れ、俺の機は目標である敵の移動惑星要塞を射程に捉えた。先行した味方が攻撃を行なっていたが、因果シールドや斥力シールドによって命中弾は少なく、ダメージもほとんど入っていないようだった。


(なるべく近づいて攻撃する必要があるな)


 敵目標は徐々に反撃能力を整えつつあり、超光速レーザー兵器のきらめきが見え始めている。超光速で発せられているために、着弾地点に光が生まれ、そこから砲塔へと光が伸びる。未来から過去への攻撃は、小型機には回避が難しい。味方の航宙機がまた1機、撃墜されるのを感知した。このままだと、俺も撃墜されるかもしれない、そんな不安が生まれる。


 艦長も言っていたではないか、「無理を避けて戦ってくれ」と。ここで引き返しても咎められることは無いだろう。敵の反撃が思ったより早かっただけだ。


 だが俺は攻撃を続行することに決めた。この敵を逃せば、後で牙を剥く。少しでも削っておきたい。


 敵の砲塔の可動域と攻撃範囲を予測しながら針路を慎重に決めて進む。すぐ近くで巨大な光が瞬いた。どうやら近くに着弾したらしい。機体に損傷が走るが、軽微だ。10ミリ秒もすればナノマシンが修復するだろう。


 俺は敵移動惑星要塞が展開する因果シールドの内部に潜り込み、要塞の外周に沿うような形で機体を走らせる。ここで投下してもいいが、着弾に巻き込まれるだろう。要塞内部まで打ち込めるような深い穴はないだろうか。


 更に機体を進ませると、100kmほど先に元素重転換炉の排ダークマター孔があるのを発見した。そこに爆弾を投下すれば、大打撃を与えられるだろう。先ほどから俺を狙うレーザーの数は増していた。ダメージを受ける距離ではないが、至近距離で幾度と無く光が瞬き、光線が生まれる。


 ついに俺は排ダークマター孔の上に到着した。投下準備を整えていたエントロピー逆転爆弾を切り離し、直後に運動エネルギー再集合転位によって、機首を目標とは逆方向に向けた。自分が投下した爆弾に巻き込まれて消えてなくなるのは、真っ平ごめんだ。俺が投下した爆弾は綺麗に敵の要塞内部へと入っていき、感知できなくなった。


 120ミリ秒ほど後で、移動惑星要塞の一部が消失するのを感知した。どうやら中心部までは届かなかったが、要塞の内部で爆発したらしい。


「ハラグチ4等兵、命中だ! 目標は質量の19%を消失させ、反撃能力の55%を喪失した。あとは後続の機に任せて、コレマサに帰還せよ」


 攻撃の成功を伝えるコレマサ司令部からの通信が俺の脳内に響く。俺は機首をコレマサへと向けた。



 この戦闘が始まってから約15秒。すでに、敵の戦力は半壊しつつある。敵の反撃が本格化するまで残り15秒と見積もられているが、このペースで攻撃が進めば、その頃には敵は壊滅しているだろう。


 俺の任務はほとんど終わった。後は帰還するだけである。確かに「楽な仕事」だった。


 その時、後方、おおよそ0.02光秒(約6000km)に何かが出現したのを愛機が感知した。


 時間軸を跳躍してやってきたらしい。質量21t、移動速度は光速の78%、1秒間に0.025光秒の速度でこちらに接近している。


(クロヒバリだ!)


 敵の主力航宙機であるSSEXT(サガミハラ・スペース・エクスプロレーション・テクノロジー)製SuB-7F「クロヒバリ」がこちらに向かっていた。攻撃を受けるにはまだ距離があるが、速度はあちらの方が上だ。このままでは追いつかれる。後ろを取られているのはマズいが、下手に動くと敵の餌食だ。俺は、対航宙機戦用に搭載されている因果操作誘導弾の発射準備を整えつつ、最大航速を維持しながら、相手の出方を待った。


 出現から450ミリ秒、クロヒバリは俺の機と0.01光秒の距離にまで接近していた。いつ仕掛けてきてもおかしくない。その時を見越して覚悟を決める。


(…………来た!)


 ついに敵が何かを射出したのが分かった。アラートが起動した。因果律にブレが生じているのが分かる。相手も因果操作誘導弾を使用したようだ。


 誘導弾の接近速度は光速の96%、10ミリ秒あまりで俺に直撃するだろう。俺が取れる回避手段は1つしかないが、出来るかどうか確証はない。だがやるしかなかった。愛機の概念的一体性保証システムをオフにする。


 敵誘導弾は正確に接近している。到達まで残り4ミリ秒。


 相手は、俺が消滅するのを確認したいようで、離脱する様子はない。速度を俺と同じ、光速の74%まで落として後方についている。


 敵誘導弾到達まで残り1ミリ秒になった。永遠ともいえる時間が、しかし止まることなく流れている。


 敵誘導弾到達まで、残り3マイクロ秒。俺から1km以内という超至近距離にまで誘導弾は迫っていた。


 そして、それが、機体に、当たる。


(今だ!)


 俺は量子論的撹乱機動を行なう。機体の実在性が不安定になった。誘導弾は目標を見失い、俺が存在しているとされる位置を通過する。


 誘導弾が通過したのを見届け、直後に機動を終了して実在を元に戻す。わずか1マイクロ秒間の機動だったが、俺の実在性は失われかけ、かなり危険な水準にあったようだ。即座に概念的一体性保証をオンに戻した。


 自分の実在性が回復したのを確認した俺は、運動エネルギー再集合転位を行い、機首を反転させた。正面に敵のクロヒバリがいる。相手との距離は約0.01光秒。俺は武器管制システムにアクセスし、因果操作誘導弾を発射した。敵の再攻撃に備えて、またすぐに機首を再反転する。


 敵機と因果操作誘導弾が接近する。敵機から見た誘導弾の相対速度は光速の170%に達しているはずだ。回避は容易ではない。そして、敵機は避けることなく誘導弾に衝突し……双方が消えるのが確認できた。どうやら超光速で迫る攻撃に、認知が追いつかなかったらしい。


 ようやく邪魔者がいなくなったことを確認した俺は、息を吐き、射出前から止めていた呼吸を再開し始めた。俺の仕事は終わった。コレマサに戻るとしよう。





 俺がコレマサに着艦し、修理・補給シークエンスを終えた頃、敵の残存全艦が離脱したのが確認され、80秒間の長きにわたったOS-D星系における戦闘は終結した。この戦闘で、第1148作戦艦隊は1000隻ほどの艦艇を失ったが、敵艦12000隻あまりと移動惑星要塞1つを撃破した。大勝といってよい。


『ハチオージ・ラーメン』の第1段階は420個作戦艦隊、約1470万隻、人員約500億人による、400の星系に展開しているサガミハラ同盟艦隊への同時攻撃作戦である。俺たちの第1148作戦艦隊はその一部を構成していた。


 参加した420の艦隊のうち、315個艦隊は攻撃に成功、63個艦隊は攻撃に失敗、29個艦隊は敵艦隊を発見できず、13個艦隊は未だ戦闘中であるという。全体的に作戦は成功している。これによって、敵の攻勢の先端に展開していた小艦隊たちは一掃されたと言ってよかった。作戦に参加した艦隊は、このまま防衛へと移行し、後続の艦隊、合計して約4500万隻、人員約2700億人の到着を待つことになる。彼らが『ハチオージ・ラーメン』の第2段階、敵主力艦隊への側面攻撃を担当する。


 俺たち第1148作戦艦隊も、OS-D星系の防衛に当たることになった。後続の艦隊が到着したら、惑星上で休暇を過ごせるだろう。1週間以上、コレマサに缶詰だったのだ。早く本物の地面の上を歩きたかった。



 スリー・タマ王朝が支配するスリー・タマ銀河とサガミハラ同盟が支配するサガミハラ銀河は共に恒星数1500億前後の中堅銀河であり、それらを両国の支配惑星数(人工惑星を含む)は4000億±300億と拮抗状態にある。開発が早くから進んでいたスリー・タマ王朝の方が人口は多く、およそ16垓(16×10^20)人、対するサガミハラ同盟は人口、およそ12垓8000京(12.8×10^20)人とされている。


 約250000の星系から構成され、約125兆(125×10^12乗)人の人間が暮らすマチダ星団は、そんなスリー・タマ銀河とサガミハラ銀河とが衝突する宙域にあり、スリー・タマ王朝の統治下にあるが、サガミハラ同盟もまた領有権を主張していた。暫定領土線と定められたサカイガワ恒星ラインを挟んだ対立は6万年に及ぶ前史を持つ。


 マチダ星団は、スリー・タマ、サガミハラ両国にとっては豆粒のような部分でしかない。しかし、いつの時代も国家は一片の領宙であってもただで譲ることはない。この紛争は両国の威信を掛けた戦いとなり、十数年に及ぶ紛争の中で、スリー・タマ王朝に4兆5000億人ほどの死傷者を出し、一方で無理な攻勢を続けるサガミハラ同盟は11兆8000億人以上の死傷者を出していた。


 無為な戦争ではないか、という声は両国で上がっていた。しかし、この程度の損失ならば、と多くの人間は許容している。むしろ、相手に俺たちの力を思い知らせてやれ、と戦いを煽るような言説は多い。俺もそんな報道に押されて軍に入隊したのだ。祖国に貢献したい、と素朴に思っていた。


 同時に俺は、この広大すぎる宇宙で自分に何が出来るのかという無力感から逃げようともしていた。


 十数年続き、数万の星系を巻き込み、民間人を含めて20兆人近い死傷者を出しているスリー・タマ=サガミハラ紛争も、この宇宙全体から見れば、取るに足らない小競り合いに過ぎない。


 複数の超銀河団に拡大し、万を超える銀河、千兆を超える星系、京を数える星々に及ぶ広大な人類圏には、数百、あるいは千に及ぶ銀河を治める宇宙列強諸国が存在している。それら列強間の軋轢は、ここ1万年のうちに急速に悪化していた。近いうち、長くとも800年以内には次の宇宙大戦が勃発するだろうと、有識者たちは口を揃えて予測している。


 そんな宇宙の中で、俺は自分の手で何かを変えられるのか? 生死の狭間に自分を置けば、何か答えが見つかるような気がして、日常から逃げるようにして入隊した。だがそれは、祖国への貢献を隠れ蓑にして、自分が救われたい、と思っているだけじゃないのか、俺の祖国への献身は偽善ではないか、そんな罪悪感にもなっていた。




 デブリーフィングを終え、自室で休んでいた俺は艦長室に呼び出された。


「ハラグチ・ヨシオ4等宙戦兵、出頭いたしました!」


俺は散々に練習させられた通りに敬礼を行う。


艦長は答礼すると俺に1枚のメダルを手渡してきた。


「ハラグチ4等兵、初陣であるにも関わらず、本戦闘における君の戦果は素晴らしいものだった。よって、勲8等赤絹勲章を授与する。おめでとう!」


 手渡されたメダルにはスリー・タマの国鳥の1つであるオオルリが二次元生命刻印によって踊っている。どうやら、俺の移動惑星要塞への攻撃は高く評価されたらしい。


 艦長室に控えた艦長補佐官たちが拍手をしてくれる。


「光栄です。艦長閣下」


 ちんけなメダルだった。だが、自分の祖国への貢献は確かに評価されたのだ。俺の祖国への献身は本物だったのだと、そして俺でもこの宇宙に何かを残すことが出来るのだと、そんな確信が自分の中に生まれるのが分かった。



本作品を読んで、何か納得がいかない点があった場合、それは数百万年後の人類の技術と心理を我々が理解しきれないことによる問題なので、筆者は回答できません。あしからず。


ちなみに、スリー・タマ銀河を日本に例えると、マチダ星団(250000星系、人口125兆)は、面積では東京ドーム13個分(0.6平方km)、人口では9-10人くらい。スリー・タマ=サガミハラ紛争は、数人ずつの兵士たちが国境沿いで殴りあって、1人が死んだ、くらいの感覚です。


感想や評価をしてくれたら嬉しいです。


よかったら、筆者が書いた別の作品も読んでいってください。他はもっと普通の作品です。

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[一言]  面白かったです!  なんかすごく頭良さそうな単語と、その合間に出てくる固有名詞で、笑いながら読みました。人口あたりは数字が大きくて、理解を諦めました…  しかし、あとがき読むと、小規模なも…
[一言] エントロピーが逆転したら修復しちゃう気がシマシタ 色々と通常の機能が使えなくなるから壊れる方向に働くかもしれないけど。 通常空間で光速の70%で移動してる(しかもベクトルも違う)同士って、内…
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