第四章 26
真夜中で、しかも夜明け間近なので町の灯りはほとんど消えているがラミルは門番の兵士に事情を話して門の近くにある部屋で眠って体を休めた。
数時間ほどぐっすり眠り、朝になって町の中が賑わいを取り戻した頃に目を覚ますと兵士が部屋に入ってきた。
「ラミル様、だいぶお疲れのようでしたが、しばらく滞在なさるのでしたら宿の方へ行かれてはいかがですか?」
「いえ、急いでザハールに行きたいのですぐに出発します、申し訳ないのですが何か食べる物を用意してください」
「かしこまりました、しばらくお待ちください」
しばらくして兵士ではなく、ハスバルが食事を運んできた。
「ラミル、ハンはどうだった、何かわかったか?」
「ハスバル様・・・」
「すぐにザハールに行くそうじゃないか」
「はい、王様から預かっていた武具を返すのと、いままでの報告、それからついでにキリアへ行ってみようかと」
「そうか、新しい武具を着けているな、軽くて頑丈なのか?」
「はい」
置いてあった盾を渡すと、受け取ったハスバルがよろけた。
「おい、こんなに重い物を、なんでそんなに軽々持てるんだ?」
「えっ、重いですか?前の盾の方がずっと重いですよ」
「何を言っているんだ、こっちの方がはるかに軽いぞ、こんなに重いもので戦えるのか?」
(ラミル、ジゼルの血を継ぐものでないと、この武具や剣はとても重く感じるのかも)
「旅に出ている間に鍛えられたのかな・・・」
ラミルは、とぼけるような口調で言って笑った。
「それより、ここへ来る途中に蛾の魔物と遭遇しました。触れなくても羽から毒を出すようで、吸い込むと目が見えなくなってきます」
「毒消しは効果があるのか?最近はそれぞれの町で手に入るようになってきているが」
薬を見せてもらった、ジラルが持ってきてくれたものと同じ物だ。
「これなら大丈夫です、これは蛇の毒にも効果がありますが、蛇の毒は体を痺れさせて、そのまま死に至るようなので非常に危険ですから、できれば戦わないように十分に注意してください」
「わかった、皆にそう伝えるとしよう、ありがとう」
ラミルは食事を済ませて荷物をまとめると馬をつないでおいた場所へ行った、そこには乗ってきた馬ではなく別の馬がつながれている。
「私の乗ってきた馬はどうしたのですか?」
「ラミル様、お乗りになってきた馬ですが、今朝見たらすでに死んでいました」
「えっ、死んだ?」
(馬も毒を吸っていたんだろう、もしかしたら目も見えなかったのかもしれないな)
「そうか・・・困ったな」
「代わりにその馬をお使いください」
繋いであった馬に荷物を載せると、アンを出てザハールへ向けて先を急いだ。
(蛾の毒も放っておくと危険だな、まだ薬に余裕はあるけれど、王様に報告を済ませたらアバブに行って薬を多めに貰っておく必要があるかもしれない)
ラミルはエストを経由せずカイルの北にあるザハの丘のふもとを通った。
途中で幾度も魔物と遭遇したが、このあたりではまだ熊や猿の魔物が多く、魔物と言っても馬の走るスピードには追いつけないため、どうしても避けられない場合を除いては多少遠回りしてでも魔物を回避し、夜遅くなってやっとカイルにたどり着くことが出来た。
門番は以前ラミルを疑った兵士で、ラミルの顔を見るなり愛想よく頭を下げた。
「ラミル様、お元気そうで・・・すぐに案内させます」
「いえ、わかりますから大丈夫です、それよりこの町やザハールに変わりはありませんか?」
「特別変わったことはありませんが、ハスバル様がアンに行かれて、ジラル様がザハールに戻られたとか」
「そうですか、ジラルさんがザハールに」
しばらく雑談をして宿へと向かった、町には人通りもほとんどなく静まりかえっている。
宿に着いたラミルは食事を済ませると、疲れたのかすぐに眠ってしまった。
ラミルは夢を見た、まだレイラが産まれる前のことのようだ、母のクリシアに手を引かれて歩いている、しかし、それがどこなのかわからないがサントではないようだ。
突然クリシアはラミルの手を離し、祠のような穴へ入っていき、ラミルを呼ぶ声が聞こえる。
「ラミル、こっちへいらっしゃい、あなたに見せておかなければならないものがあるの」
幼いラミルは薄暗い穴へ入っていく勇気が無く、クリシアは穴から出てきて声をかける。
「怖がりね、しかたないわね、もう少し大きくなったらまた来ようね」
そう言ってラミルの手を取り、もと来た道を歩きだした。
目を覚まして考えたが連れていかれた場所は思い出せないが、どこかへ連れて行かれたことだけは思い出した。
(おはよう、どうした?)
(母さんの夢を見たんだ、昔どこかへ連れて行かれた記憶、場所は思い出せないんだけど)
(そうか・・・)
ラミルも健人も夢のことはそれほど気にもせずカイルを出た、歩くと半日かかる道のりも馬なら1時間ほどで着いてしまう。
(ザハールが見えてきたな、まだそれほど経っていないのになんだか懐かしく感じるよ)
ザハールに入ると、すぐに王宮へ向かった。




