第一章 7
夕食を終えて部屋でレイラと遊んでいると、古く厚い本を脇に抱えたクリシアが入ってきた。
「これが聖戦士様の本よ」
手渡された本を見て健人は驚いた。
「前に話したと思うけど、これはとても大事な本だから、絶対に失くさないようにね」
「うん、わかった、ありがとう」
手にした本の表紙は少し汚れているが、見覚えのある字で『Dark』とはっきり書かれていた。
みんなが寝静まった後、蝋燭の明かりの中で本を開いた、聖戦士の話より何よりも本に描かれていたあの扉の絵の頁を探して捲れば元の世界に戻れるかもしれないと思って必死に探した、しかしあの頁は見つからなかった。
この本はあの本にとてもよく似ているけど自分が見た物とは別の物なのだと諦め、あらためて本を最初から読み始めると、図書館で見た時は何が書かれているかわからなかった文字も今は読めるし意味も理解できる、この本は学校で借りて読んだ歴史の本とは違って聖戦士のことを中心にかなり細かいことが書かれているようだ。
その一方でアルムの歴史についてはほとんど書かれておらず、この本は歴史書という感じではなく、聖戦士の戦いの真実を何者かに伝えるために書かれた本のように感じた。
人の邪悪な心から生まれる力が、Dark(悪魔)を呼び起こし破滅へと導いた。
強い邪悪な心は人々の魂を侵し、獣たちを魔物へと変えていく。
魔物たちは街を破壊し、人を襲い、国は滅びの時を迎えようとしていた。
神は救いの手を差し延べた。
大地を汚すDarkを滅ぼすため、3人の勇敢な者に神の力を与えた。
3人はそれぞれが月、水、炎の力を使い、魔物を次々と倒していったが、
魔王を倒さない限り、人々の痛みや苦しみが終わることはなかった。
どうやらDarkという単語はアルム語では悪魔を意味する言葉のようで、悪魔がこの国を滅ぼそうとしたのだろうと想像したのだが、いまひとつ良くわからない。
とうとう夜が明けて一睡もせずに半分ほどまで読み進んだが、学校で借りた本に書かれていたムーラ、アキュア、バールの名前は出てきてもレミルの名は出てこなかった、そしてムーラたち3人は神でも、その使途でもないことは理解できた。
3人はそれぞれが武術に優れた人だったようで、それぞれが槍、杖、鞭を使ったことはわかったが、まだレミルの名も、そして神器として祀られているという剣もまだ出てきていない、恐らくレミルが神の化身か使途で、レミルが使ったと思われる剣があの声の言っている探しださなければならない太陽の剣ではないかと考えた。
「お兄ちゃん、おはよう・・・」
隣で寝ていたレイラが目を覚まし、寝ぼけた声を出した。
「おはようレイラ、よく眠れたかい」
笑顔を向けて、その可愛い頬を撫でるとレイラもにっこりと笑って頷いた。
「朝よ、2人とも起きなさい」
母クリシアの声が聞こえ、レイラと共にベッドから降りて部屋を出た。
「ふぁ~、眠いなぁ~、しかたない学校行かなきゃ」
「ラミル、遅くまで起きていたみたいだけど、よく起きられたわね」
「うーん、起きるというより、寝てない・・・」
「聖戦士様に興味を持つのは良いけど、寝ないのは体に良くないわよ」
「うん、わかった」
「早く食事をして学校にいきなさい」
支度をしてから食事を済ませると学校へ向かった。
学校に着いてからもレミルが何者なのかずっと気になっていた、しかし健人が一番知りたいことは何故この世界に来たのか、どうすれば戻ることができるのかということで、学校から帰ると再び部屋に篭って夕食の時間になるまで続きを読んだ。