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Dark  作者: 赤岩実
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第三章 26

 ジラルは、再び荷物を馬に固定して横になると、さっきとは違う足音が近づいてきた。

「商人さん」

 昼間に話をした老婆の声だ。

「お婆さん、どうしたのですか、こんな夜遅く」

「こんなところで寝ていては体に良くないから、うちに来なさい」

「しかし・・・」

「家には私しかおらん、あんたは死んだ息子に似ているから、少しこの老婆の話し相手にでもなってくれんかの」

 ジラルは少し考えたが、何か話を聞けるかもしれないと思って老婆の言うことに従った。

「わかりました、それではお世話にならせてもらいます」

すぐに馬を引いて老婆についていった。

 家に着くと小さなテーブルの置かれた部屋に通された、壁にはきちんと手入れされた槍が飾られていて、ジラルがその槍を見つめていると老婆が声を掛けた。

「その槍は死んだ息子のものだよ、息子はアルムの兵士でね、いつか戦士になるって言っていた」

「なんで亡くなってしまったのですか?」

「兵士になると言って出て行ってからは、この村に戻ってくることはなかったが、今から10年以上前、ザハールからバグロブに異動になったと言って顔を見せに来たんだ、その時ガルディアから呼ばれてね、息子はガルディアとは幼馴染だったが、王宮の兵士になったと知って裏切り者だと言った」

「裏切り者?」

「ガルディアは、昔追放されたガルド王の末裔だと言って、今の王のことをひどく恨んでいる。王宮の兵士になった息子を裏切り者呼ばわりして・・・何も知らずに、ただ友達のところへ行くのだからと剣も槍も持たずに行った息子は、そのまま殺されてしまったのさ」

「そんな・・・」

「さっき外ではガルディア様などと呼んでいたが、本当はあんな人殺し、許せないんだよ」

 老婆は涙を流して槍を見つめている。

「すまんな、あんたにこんな話をしてもしかたないのに、私も本当はこの町を出ていきたいと思っているのだが、こんな年寄りをいまさら受け入れてくれる場所など無いだろうし、この町で産まれ育った私にとっては、離れるのも辛いんじゃよ」

「そうですか、他の町に知り合いとかはいないのですか?」

「バグロブになら、もしかして・・・」

「バグロブですか?」

「息子の嫁がいるかもしれん、息子はザハールで結婚して、生まれ故郷のシチラに近いバグロブに戻って来たと言っていた」

「そうですか、お嫁さん、もしかしてお孫さんもいるかもしれませんね」

 老婆は、少し悲しい目をして下を向いてしまった。

「わかりました、私もここへ来る前にバグロブに寄ってきましたが、ウズルの村がここからだと一番近いですから、もしお婆さんさえ良かったら、ウズルまででも一緒に行きませんか?」

「しかし本当にいるかどうかもわからんし、もし他の男と一緒になっていたら迷惑だろう」

「私も、もう少しこの町に滞在する予定なので、良かったら考えてみてください」

「ありがとう、ところでまだあんたの名前を聞いていなかったな」

「エストから来たハースと言います」

「ハースさんかい、わたしはエミルザ、なんだか息子が帰ってきたようで嬉しいよ」

 こうしてジラルは、ハースとして数日間エミルザの家を拠点にして情報収集に努めたが、やはり月の槍に関することは何もわからなかった。

 ジラルはこれ以上居ても無駄だと思い、諦めてウズルに戻る話をエミルザにすると、一緒に行く決心を固めたと言いだした。

「そうですか、馬もありますし、荷物も多くなさそうだから、一緒に行きましょう」

「そうか、すまないね」

「ところで今日、町の男が話していたのを耳にしたのだけど、この町に変わった形の槍があるのを聞いたことはありませんか?」

「変わった形の槍?」

「はい、私も良く聞こえなかったので、どんな物なのかわからないのですが、変わった槍なら見てみたいと思っただけなのですが」

 ジラルは、実際には何も聞いていなかったが、神器の話をするわけにもいかないのでそれとなく聞いてみた。

「変わった槍の話は聞いたことがないね。ただ何日か前の夜に湖に青い光が落ちたのを見たよ、その槍とは関係ないだろうけど」

「青い光ですか?」

「誰も湖には入らないだろうから、その青い光が何だったのかわからないようだけど」

「そうですか、まあ気にしないでください、エミルザさんさえ良ければ、明日の朝早くに町を出ようと思うのですが、それまでに準備はできますか?」

「どうしても持っていきたい物と言えば、この槍くらいだ。いつでも出て行けるよ」

「そうですか、では明日の朝、ここを出ましょう」

 翌朝、皮でできた袋に入れられた槍と、エミルザの服などが入った袋を馬につけて町を出た。

 町を出るときに槍について聞かれたが、一緒に行くエミルザから買ったものだと言い、エミルザは売ったその金でバグロブにいる娘に会いに行くと言って、なんとか町を出ることができた。

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