第一章 4
表紙を捲って最初の頁を見てみると、そこにはArumという聞いたこともない年号が書かれているが、それが西暦何年に当たるのかわからない。
Arum創世
ガーズは、荒廃していたこの地に豊富な地下水脈があることを発見して井戸を掘った。
湧き出してきた豊富な水に人々が集まってきて小さな集落が出来ると、人々は作物を作り、その作物の恵みが集落の者たちを豊かにした。
やがてその水を求めてさらに多くの人々が集まってきて大きな集落となった。
井戸を掘ったガーズが集落の長として選ばれると、他にもいくつかの井戸を掘り、豊富な水資源だけでなくガーズの人柄の良さもあって集落に住みつく人はさらに増えていき、どんどん発展していくとガーズは集落を町とし、その名をアルムとした。
町となったアルムは周辺の町との交流も増え、ガーズはアルムの男たちに井戸掘りを教えて周辺の町にも井戸を掘らせると、ガーズはいくつかの町を統べる長に選ばれ、やがて国として治める王となり、アルムを国の名とし、ガーズの住んでいた最初の町の名をザハールと改名した。
Arum4年
ガーズ王が没して長男ガルドが2代目の王に即位した。
ガルドはすぐに初代王の側近だけでなく自分の母親と弟をも王宮から追放してしまい、初代ガーズが築いた政治や体制を根底から覆して独裁政治へと変えていった。
民に自由に与えられていた水を王が独占して使用許可制にし、水を使わせる代わりに多くの貢物を要求したため民は水を得るための貢物を作るために働き、貧困と飢えに苦しみ、そこから抜け出そうと国から逃げ出す者も増えたが、王のやり方に不満を持った者たちは暴動を繰り返し、その鎮圧のために王は兵士を差し向けたため多くの命が犠牲となり、王は悪魔と呼ばれた。
Arum5年
ガルドの悪政により多くの民が犠牲になっていることを知った神は、忠実な4人の下僕を戦士としてこの世に降臨させた。
その4人の名はレミル、ムーラ、アキュア、バールと言い、彼らがガルドに取り憑いた悪魔を聖なる壺に封じ込めるとガルドは力を失い、王宮を追われてアルムの民は救われた。
ガルドの跡を継いだ3代目の王は、この4人の戦士を聖戦士と呼び、悪魔を封じ込めた聖なる壺を守るためキリア山に祠を作り、聖戦士が使ったとされる剣、槍、杖、鞭とともに祀った。
(歴史というより神話みたいだな、2代目の王様を悪魔に見立てているみたいだけど、昔読んだ本にもこういう話があった気がする、それにしても4人の戦士というか聖戦士なんて、なんかロールプレイングゲームみたいで面白いけど、授業で教えているってことは、この祠には壺とか剣が本当にあるってことだろうな)
そんなことを考えながら夢中になって本を読んでいると昼休みが終わり、庭に出て来ないラミルを呼びにジルとバルマが戻ってきた。
「おい、ラミルが今度は真剣な顔をして本を読んでいるぞ、さっきもそうだったけど、本当に病気になったんじゃないか?」
ジルもバルマも不思議そうにラミルを見ている。
そんな言葉を聞いて、あらためてラミルという少年がかなりの勉強嫌いなのだと思った、健人自身も勉強はあまり好きな方ではなかったが、本を読むのは大好きだし、この本に書かれていることに興味が出てきたので、続きは次の休み時間に読もうと思って本を閉じた。
「おいラミル、何しているんだよ、次は剣術の時間だろ、遅れたら怒られるぞ」
そう言われ慌ててジルたちの後について庭に出ると、そこには人数分より多くの剣と盾が用意されていて、既に多くの生徒は剣と盾を手にして軽く体を動かしながら準備を整えている。
剣術と聞いて剣道のようなものを想像して庭に出たが、目の前に置かれているのは竹刀よりもはるかに重い鉄でできた両刃の剣の形をしていて、左手に盾を持って戦う姿を想像して昔の映画で見たような古代ローマ帝国の闘いのようなものを思い出し、もしかしたら古代ヨーロッパのどこかの国なのかもしれないと思った。