第二章 23
健人は動かずに剣先に集中して相手を見た、ザギルはじりじりと近づいてきて剣先がわずかに触れそうなところまで近づいた時、剣先をわずかに上げながら踏み込んできた。
健人はザギルの剣先を自分の剣先でわずかに横に弾くと、ザギルの体を避けるように横に移動しながら右手だけで持った剣を伸ばして鞭のように手首をしならせ、ザギルの右手首に剣を叩きつけた。
ザギルもその動きを読んでいたのか当たりが浅く、わずかに顔を歪ませて剣先が大きく沈んだだけだったが、その隙にザギルの右側に回りこんだ健人は、今度は両手でしっかり握った剣を振りかぶり、同じ右手首に手加減することなく剣を叩き下ろした。
鉄のぶつかり合う甲高い音が静まり返っていた中庭に響いた、鎧の上からなので骨は折れてはいないだろうが、ザギルが大きな悲鳴を上げてその手から剣が落ちた。
「そこまで」
ザギルは王様の声を無視するかのように左手で剣を拾って立ち上がると、ラミルの首めがけて振り下ろしたが慣れない左手では動きも鈍くラミルは軽々と避けた。
「ザギル、やめんか」
それでもまだラミルに襲いかかろうとしているザギルを止めようと戦士たちが近づこうとしたとき、ラミルがザギルの攻撃を弾き返しながら叫んだ。
「ザギルの剣は真剣です、危ないから下がって!」
その言葉に辺りが騒然となり、王様の顔が歪んだ。
「なんだと、何故ザギルは真剣を使っている?一体どういうつもりだ!早く止めさせろ」
王様が激怒して叫ぶと戦士たちは自分の剣に手を掛けたが、ラミルはザギルが不器用に剣を振り回すだけの攻撃を避けて素早く後ろに回りこむと、その鎧の肩口に剣が折れるのではないかと思うほどの力で剣を叩きつけてザギルを失神させて事態が収まった。
すぐに王様は玉座から立ち上がると、衛兵たちに言い放った。
「王宮の衛兵がなんと卑怯な真似を、そいつを今すぐ牢に放り込んでおけ」
衛兵たちは、気を失ったザギルから剣を取り上げて鎧をはずすと、その腕と足に大きな鉄球の付いた手枷と足枷を付けてその巨体を引きずるようにして運んでいき、その場にいた多くの者たちが衛兵ザギルを軽蔑の目で見つめ、場内には罵声が飛び交った。
王様が席につくと、罵声は静まった。
「まさかこのようなことになるとは・・・ラミルすまなかった、怪我はないか?」
「大丈夫です」
ラミルは王様に向かって頭を下げて跪いた。
「そうか、それならば良いが・・・」
大きく溜息をついてザギルが連れていかれた方をみた。
「ザギルは衛兵失格であるな」
王様は残念そうにつぶやいた。
他の戦士や衛兵、そして兵士たちもザギルの実力を知っているだけに、今回のことはあまりにも無様で卑怯だと思った。
「ザギルの衛兵の称号は剥奪する、裁きは後日あらためてするとしよう」
そう言って王様は疲れた様子を見せて奥の部屋へと消えていった。
数日後、地下牢に閉じ込められているはずのザギルは鍵がかけられたままの地下牢から、鍵がかかったままの手枷と足枷を残して忽然と姿を消した、王宮の戦士と兵士が総出で探したが、王宮の中にも、そしてザハールの町にもその姿は無かった。




