第二章 20
本隊は、先遣隊から異常が伝えられてこないまま、暗い中をシリムへと進んでいた。
ザハールとシリムまでの中間を過ぎたあたりで、突然生臭くて、なんとも言えない臭いが鼻をつき、その直後に後方で叫び声が上がった。
「化け物だ、化け物が出たぞ」
その声を聞き、既に暗闇に目が慣れていたラミルたちが目を凝らして見ると、本隊は既におびただしい数の魔物たちに囲まれている。
「攻撃しろ、矢を放て!」
ジクーズの号令で一斉に矢が放たれたが、兵士たちも初めて遭遇する魔物に怯えて手が震え、狙いも定まらない矢はほとんど命中しない。
すぐさま戦士たちも馬から降りて応戦を開始した。
魔物たちよりもはるかに戦士や兵士の数は多いため必死に応戦するが、自分たちよりも体が大きくて鋭い爪や牙を持っている魔物が多く、思うように自分たちの間合いに近づくことができないばかりか、中には小型だが毒を持っている物もいて、その毒によって体が痺れて動けなくなってしまう兵士も出てきた。
「ジクーズ様、かなりの負傷者が出ています。先遣隊も襲われているのでは・・・」
その言葉にジクーズはすぐに反応し、先遣隊にも応援が必要だと考え、近くにいたアルノに向かって叫んだ。
「アルノ、ここは俺たちに任せて先遣隊の応援に行け」
「だめだ、こっちも手が離せない、ハスバル・・・ハスバル、頼む」
一番後方で戦っているハスバルにはアルノの声が届かない。
「こうなったらしかたがない、ラミルおまえが行け」
アルノは叫んだ、その声を聞いたラミルは既に自分の周りにいた大きな魔物を数頭倒していたが、他の魔物を残したまま急いで馬に飛び乗って先遣隊を追った。
ラミルは先遣隊に追いつこうと必死になって馬をとばした、すると月明りとともに先遣隊の持っていた松明の火が周囲の草木に燃え移った炎が見えてきて、徐々に魔物たちの嫌な臭いに混じって血の臭いが強くなってきた、よく見るとその周辺には多くの兵士とわずかだが魔物の死体が転がっている。
何やら動いている姿が見えたためそこに向かって行くと、残りわずかとなった兵士が魔物たちに囲まれ、もはや抵抗することもできずに動けなくなっている姿を見て、ラミルは突然全身に怒りと力が漲り、全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
「うおおおおおおお」
ラミルは雄叫びを上げながら馬から飛び降りると剣を右手に掲げて魔物たちに向かって走った。
魔物たちは雄叫びをあげて近づいてくるラミルの方を向くと、兵士たちを襲うことをやめてラミルに向かって突進しはじめた。
この時、ラミルの体には変化が起こっていた、目は青く輝き、髪の毛は月の光に染まったかのように金色に輝いている。
そんなラミルを見て1人の兵士がつぶやいた。
「あ、あれは伝説の聖戦士レミル様・・・」
ラミルは最初に襲いかかってきた魔物の爪の攻撃を素早く避けると、右手に持った剣を鋭く振り降ろして腕を斬り落とした、まるで舞を舞っているかのような軽やかな足取りで次々と襲い掛かってくる魔物たちの攻撃を避け、剣を振りながら魔物たちの間を一瞬ですり抜けた。
すると、ただすれ違っただけと思われた魔物たちの首が次々と落ち、すれ違ったラミルの全身はおびただしい血飛沫で赤く染っていた、中には毒を持った魔物もいたが、その毒をものともせずに残った兵士たちのもとへ駆け寄り、残った魔物たちも次々と倒していく姿は神がかりで、一瞬で兵士たちを取り囲んでいた魔物たちを全滅させてしまった。
その戦いぶりを呆然と見ていた兵士たちは我にかえってラミルを見つめた、目の色も髪の色も元に戻っていて広場で見た幼い顔つきに戻っているが、全身に魔物の返り血を浴びた顔はとても恐ろしい顔にも見えた。
ラミルは大きく肩で息をしながら、たった7人になってしまった兵士たちに声をかけた。
「先遣隊で生き残ったのはこれだけですか?」
「は、はい・・・」
「とりあえず、次の魔物が現われる前にシリムへ行ってください、私はすぐに本隊へ戻ります」
兵士たちは自分たちの剣を拾い上げるとシリムへ向かって全速力で走り去っていく。
ラミルは兵士たちが走り去るのを見届けると、馬に乗ってジクーズたちのもとへ戻っていった。




