第一章 2
家の周りを見渡した、あまりにも自分のいた時代と違うことに気付かされる、周囲の家々は教科書で見たような竪穴式住居ではないが、壁は大きな石が積み上げられただけのような造りで、もちろん道はアスファルトやコンクリートで舗装などされていないし、自動車どころか自転車すら走っていない、行き交う人々の服装といい建物の造りといい、いったい自分がどれだけ昔の世界にタイムスリップさせられてしまったのかと思うとますます不安になってくる。
母親らしき女性に怒られまいと学校に行こうと思って外に出てはみたものの、どっちに行って良いのかわからない、ただ茫然と周りを見てレイラの手を握ったまま立ち尽くしていると、レイラは健人の顔を見上げ、不思議そうな目で見たあとでとても可愛らしい笑顔で微笑んだ。
「お兄ちゃん、どうしたの?早く行かないと先生に怒られちゃうよ」
レイラが手を引いて歩き出してくれたおかげで行く方向がわかり、そのままゆっくり歩いて少しだけ広い通りに出ると同じ年頃の子供たちが歩いていくのが見えた、このまま同じ方向に歩いて行けば学校に着くのだろうと思った。
「おはよう、ラミル、レイラ」
後ろから声をかけられて肩を軽く叩かれた。
「なんだ、ラミル、お前また寝坊したのかよ?頭の後ろに角が生えているぞ」
そう言って後ろから来た2人の少年が笑っている。
「レイラ、お兄ちゃん格好悪いって言ったほうが良いぞ」
一人の少年が寝癖で跳ね上がったラミルの髪を触りながら言うと、レイラもそれを見て笑っている。
「なんだ、ジルとバルマか、おはよう」
なぜかその2人の少年の名前が思い浮かんできて何事もなかったかのように呼んだ、さっきは混乱していたせいなのか、起こしに来た女性もレイラの名前も思い浮かばなかったのに、この2人の名前は思い浮かんだ、というより自然に声に出た。
そして少し冷静になって考えてみると父親の名前はラシンドで、さっきの赤茶色の髪をした女性が母親のクリシア、そして妹がレイラだということ、そして家にはいなかった父親の顔も頭に浮かんできた。
それでもまだ詳しい状況をつかむことは困難で、とりあえずジルとバルマについていって隣町のワルムに入ってすぐのところにある学校らしき場所に着いた、校庭というより単に芝生というか雑草が短く刈られただけの広場のようなところに、家よりも少し頑丈そうな大きな小屋のような建物がいくつか並んでいる。
先を歩いていく子供たちがそれぞれの小屋に入っていくのを見ているとそれが校舎、いや教室なのだろうと思い、そのまま歩いていくと一番手前の小屋の前でレイラが手を離した。
「お兄ちゃん、帰りも待っているからね」
レイラはかわいい笑顔で手を振りながら小屋に入っていった。
健人はレイラに手を振り返してジルとバルマと一緒に別の小屋に向って歩いていく、しかしどうみてもそれらの小屋は教室という感じではない。