第五章 3
「ロザイル、なんだよ、そんなに浮かない顔して」
「いや、本当に嫌な予感がするんだ、ムーラがああいう顔をする時は」
「気が強いだけだろ、平気だよ」
「そうかなあ、そうだと良いんだけど」
「そんなこと気にしている場合じゃないぞ、魔物の臭いがしてきた」
「蛾の大群だな」
「また厄介なのが現われたな、ロザイル、こいつらは羽から毒が出すから注意しろよ」
「大丈夫さ、何度も戦っているから」
ロザイルは馬に乗ったまま槍を構え、接近してきた魔物に対して声を上げた。
「フィード!」
槍先から出た冷気によって、蛾の魔物が次々と落ちていく。
「よし、もう一度」
「ちょっと待って」
ラミルは、ロムの剣を抜いて左手に持って集中し、剣先から冷気が漂ったのを確認すると呪文を唱えた。
「ハス」
剣から出ている冷気が竜巻となり、猛吹雪のような強さと速さで魔物を凍らせて粉々にした。
「凄い、術の複合か」
「うん、これがザハの丘で手に入れた知の腕輪と風の石の力さ、今までの個々の術じゃなく同時に複数の呪文を使えるようになるんだ」
(やはり腕輪は本物だったな、ハスが使えるということは風の石の力だからな)
(うん、あとは光の石と技の腕輪だ)
ラミルたちはペースを上げ、夜が更ける前にようやくタンナに到着した。
タンナの村に到着してすぐ、ラミルは兵士に声をかけられた。
「ラミル様、お久しぶりです、覚えていらっしゃらないと思いますが、私はシリムへ先遣隊として行った時に助けていただいた者です」
「そうですか、すみません、名前も知らなくて」
自分のことを良く知っている兵士のようなので無理を言って特別に2人分の部屋と食事を用意してもらい、食事をしながら兵士に尋ねた。
「この村にナナという女の子はいませんか」
「えっ?ナナですか?」
兵士はかなり不思議そうな顔をした。
「ナナって、あのナナですよね?」
「ナナって子は、他に何人かいるんですか?」
「いえ、この村には1人しかいませんが、あまり関わらない方が良いかと思います」
「そういうわけにはいかないのです、何かあったのですか?」
「ナナはとても気が強くて、しかも体術の達人で、並の男、いや兵士ですらかなわないんです」
「兵士よりも強いんですか?それは凄いですね」
「凄いというか・・・」
「実は日ごろから鍛錬だと言って村から出て魔物と戦ってくるのです。幸い毒を持った魔物と遭遇していないようですが、猿の魔物ぐらいなら素手で倒してしまうんですよ」
「えっ!あの魔物を素手ですか?それは本当に凄いな」
ロザイルの顔が青ざめていく。
「やっぱり嫌な予感は当たったみたいだ、嫌だなあ、そんな子と仲間になるなんて」
「も、もしかしてラミル様はナナを仲間として連れて行くつもりですか?」
「ええ、そうですけど」
「それはやめた方がいいと思います。ナナは女がでしゃばるなと言った兵士を殴り倒して気絶させてしまい、その兵士はすっかり自信を無くして兵士を辞めてしまったくらいなんです」
「強いじゃないですか、それは心強いですね。ナナにはどこに行けば会えますか、直接会って話しをしてみます」
「そ、そうですか・・・早朝なら広場で体術の練習をしていますので行けばわかります」
「わかりました、ありがとうございます」




