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Dark  作者: 赤岩実
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序章

 健人は学校からの帰り道、いつものように通学路の途中にある図書館に立ち寄った。

趣味は読書だと言うとひ弱そうに思われてしまうが、母親の勧めで小学1年生の時に始めた剣道は中学生になった今でも続けている、たまたま健人が通う中学校には剣道部が無く、球技や陸上と言った他のスポーツにあまり興味が無いため学校の運動部には入っていないが、週末に地元の警察署で行われている剣道クラブでの鍛錬はずっと続けているので三段の腕前で、小学生の時には市民大会で二連覇し、県大会へ出場した経験を持つほどの実力だ。


 週に一度は学校帰りに図書館に立ち寄って本を借りる、特にこれと言って好きなジャンルや大好きな著者がいるわけでは無いので毎回借りていく本を探すのに時間がかかってしまうのだが、いつも全ての本棚をゆっくり見て回わり、たまたま目に留まった題名が気になると本を手に取って目次や最初の数頁を読んでみる、そうやって面白そうだと思った本を借りているため、推理小説、歴史物、恋愛小説など、どんなジャンルの本でも読むのだが図書館では一度に5冊までしか借りられない決まりがあるため、読んだことのある本を借りてしまわないようにしなければならない、しかし健人は今までに読んだ本の題名をノートなどに書きとめているわけでもなく、もちろん題名を全て覚えているわけではないので、そういう理由もあって次々と本を手に取って数頁読んでから本を決めるようにしている。

 今日も借りていた本を返却するためにカウンターに行くと、顔見知りの司書の女性と新しく入荷した本や返却する本の感想などを話しながら手続きが終わるのを待ち、手続きが終わるとすぐに借りていく本を探すために奥へと歩いていった。

 いつものようにそうやって選んだ本を10冊ほど抱えて歴史書などが並ぶ書棚まで来たとき、一番下の棚に今までに見たこともないような古い本があることに気が付いた、ひとまず抱えていた本を近くの椅子の上に置いてその本を手に取ってみると背表紙は傷んでいて汚れもひどく、図書館の本には必ず貼られているはずの分類用のシールが貼られていない。

 変な本だと思って表紙をよく見てみると、汚れているが厚みのあるしっかりとした表紙には手書きに近い書体で薄っすらと『Dark』とだけ書かれているが著者名や出版社名などは何も書かれてない、でもなぜかその本がとても気になってしかたなかったので、かなり古そうな本だから破いてしまわないようにその硬い表紙を慎重に開いてみた。

 目次はなく表紙の裏側の頁には手書きでアルファベットに似た文字で数行の文書が書かれている、中には見たこともない記号のようなものもあり、書かれている文字はどうやら英語ではなさそうだということだけは何となくわかる、そもそも英語があまり得意ではない健人は見たこともない文字や記号で書かれた本など読めるわけなどないと思い、本を閉じて棚に戻そうとしたが何故か手が思うように動かなくなっていて、次第にどれほど力を入れてみても全身がいうことをきかない状態になっていった。

 意識ははっきりしているのに、まるで金縛りにでもあっているかのように全身の自由が奪われていくことに頭の中は混乱し、あまりの恐怖で泣きそうになりながら必死に体を動かそうともがいていると突然左手だけが自分の意思に反して動きはじめ、今にも破けそうな頁を1枚1枚ゆっくりと捲りはじめ、何やら聞いたことの無い言葉が頭の中を駆け巡っていく。

 誰かに助けを求めようと叫んでみても全く声を出すことが出来ず、意思に反して動き続ける左手を止めることも、この怪しい本を床に放り投げることもできないままでいると左側の頁には古い扉の絵が描かれ、そして右側の頁には数行の文章が書かれたところで手の動きは止まった、まるでこの本に封じ込められていた悪霊か何かに取り憑かれてしまったのではないかと考えると本当に恐くて涙がこぼれてきた。

「だ、誰か・・・助けて・・・助けてよ・・・」

 どれほど叫んでみても声にはなっていないようだが声を出し続けた、身動き出来ないままの健人の耳に、さっきまで聞こえていた声にならないような意味不明の音ではなく、低く響きわたるような老いた男性と思われる声が聞こえてきた。


幾千もの時を越えて生まれし、偉大なる勇者の末裔よ

扉を開けよ、邪悪なる闇を斬り裂き、民を、未来を救うのじゃ


 その言葉はあきらかに日本語ではなかったが、でもなぜか意味がはっきりわかった。

「お前は誰だ!僕に何をした?何が起こっているんだ?知っているなら教えてくれ!」

 健人が声にならない声で言うと、その声は続いた。


全てはそなたの運命、太陽の剣を探して闇と戦うのじゃ。


「太陽の剣って何だよ、そんなの知らないよ、変な夢なら醒めてくれよ」

男の声が聞こえなくなると再び左手が動いて扉の描かれた頁を捲ると、急に目の前が真っ暗になってその場に倒れこんだ。

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