二人の結末
◆このマークが狼視点で、○このマークが赤ずきん視点です。
カラオケのデュエットっぽくなっているのは、すみません。
◆『赤ずきん』の狼である僕は今、赤ずきんの
おばあさんのベッドで赤ずきんが来るの
を待っている。
○赤ずきんである私は今、おばあさんの家へ向
かっている。
もうすぐ着く。
◆赤ずきんが部屋に入ってきた音がする。
手には花をいっぱい持っているのだろう。
今日も僕は物語の通りに……。
「おはようございます」
○とりあえず私は物語通りにする。ベッドでは
おばあさんのパジャマを着た狼さんが寝てい
る。これはどうみても狼だ。おばあさんと間
違えるはずないではないか。だが、今までは
物語の通り、間違えてきたのだ。
そして私は狼さんのベッドの隣に立つ。
さぁ、物語に抗おう。
「私は狼さんが好きよ」
◆赤ずきんが物語に逆らった……!?
そんなことしたら君は消えてしまうじゃない
か……。なのになんで。
どうしたらいいんだ。
突然のことに僕は戸惑ってしまった。
赤ずきんはいつもの無垢な笑顔ではなく、困
ったように笑っていた。
本当の君はそんなふうにも笑うのか。
○なぜ。なぜ狼さんはなにも言わないの?
狼さんは消滅するのが怖いの?
私はあなたと一度でも抱きしめ会えれば、消
滅したって構わないのに。
だから私は物語通りのおばあさんにではな
く、狼さんに問いかける。期待を込めて。
「まぁ、狼さん。狼さんの耳はなんて
大きいの?」
「それはね。君の声をよく聞くためだよ」
◆そうだ。僕は赤ずきんの優しい声が大好き
だ。
「まぁ、狼さん。狼さんの目はなんて
大きいの?」
「それはね。君の笑顔をよくみるためだよ」
◆そうだ。僕は赤ずきんの笑顔が大好きだ。
赤ずきんは僕の答えに満足げに微笑む。
「だけど狼さん。とても手が大きい
わ」
「それはね。君をよく抱けるようにだよ」
○狼さんは立ち上がり、私を抱きしめてくれ
た。私も抱きしめ返す。
私の胸がふつふつと熱くなるのがわかる。
狼さんは、優しい目で、そして少し悲しそう
な目で私を見つめる。
きっと狼さんは、私が消滅してしまうことを
気にしてるんだわ。そんなこと気にしなくて
いいのに。ほんとうにやさしい狼さん。
「ねぇ、狼さん。狼さんの口はどうし
てそんなに大きいの?」
「それはね。君に……。君に好きだと伝えるた
めだよ」
○狼さんは真剣な瞳で私を見据える。こういう
表情も素敵ね。
「僕も君が好きだ、赤ずきん。初めてみた時か
らずっと」
「知ってるわ。私はずっと待ってたんだもの」
◆赤ずきんは頬に涙を流しながら、笑う。
ずっと気持ちを伝えられる日を夢見てきた。
僕は今まで臆病者だった。赤ずきんの為だと
か言って、本当は、自分も消滅するのが怖か
ったんだ。
でも今は後悔はない。これでよかったんだ。
○あぁ。行動して良かった。狼さんが応えてく
れてよかった。
それだけで私はもう満足だ。
◆○◆○◆○
その後は物語通りに物事が進んだ。猟師がやってきて、狼の腹を裂き、石を詰める仕草をする。
猟師もおばあさんもあたかも赤ずきんがお腹の中から出てきたような反応をし、その後の話を赤ずきんと狼不在で進めていく。
見ている方からすれば、ずいぶんと滑稽な茶番だった。
しかし、彼らは消滅したくはないのだ。
そして物語は終わりを迎えようとしていた。
「そろそろ物語が終わるわ。私たちの消滅も近いわね」
二人は手を繋ぎ、猟師たちの様子を見ていた。
「僕たちが消滅するその時まで、ずっと手を繋いでいよう」
「ええ」
顔を見合わせて笑い合う。これから消えるだなんて嘘のような、最高の笑顔だ。
そして物語は終焉を迎えた。
二人は消滅し、また別個体の赤ずきんと狼が誕生した。『赤ずきん』の世界はこれからも、何事もなかったかのように回り始める。
物語の登場人物たちは、今日もまた、終わっては始まる童話の世界を駆け巡っている。
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「悪役令嬢と身体を入れ替えられ俺だが、なぜかこの世界は彼女を殺したがっている」
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