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1 婚約破棄?



「リリアナ=ランドール。お前との婚約は破棄させてもらう」



 建国150周年のめでたいパーティーで、リリアナは久々に会った友人達と談笑していた。そこに、突然聞こえた不相応な声。

 誰かと思い振り返れば、リリアナの前に来た婚約者である王太子マーク殿下だった。

 彼は、挨拶もなく突然、高々と宣言をしてきたのだ。



「え?」

 寝耳に水のリリアナは、目を見張るしかなかった。

 確かにマーク王子とは良好な関係とは言えなかったが、まさかこんな場所で婚約を破棄されるとは想像していなかったのだ。

 淑女である友人達も余りの出来事に、口を半開きにして固まっていた。

「お前には悪いが私は【真実の愛】を見つけてしまった。婚約を破棄……いや、白紙にさせてもらう」

 そう言ったマーク王子の傍には、ピンクブロンドの髪をした可愛らしい方が寄り添っていた。

「……し、真実の愛……?」

 リリアナは気のせいかと、ゴシゴシと目を擦った。

 なんなら何度も何度も擦った。ついでに、聞き間違いかと耳も頬もツネってみた。

 だが、何一つとして気のせいではないらしい。

「そうだ。私は真実の愛を見つけた。このルーシーと結婚する」

 そう言って、傍らにいたピンクブロンドの髪の方を、マーク王子は愛おしそうに抱き寄せた。

「けっ……こん」

 その言葉には当人であるリリアナだけではなく、会場の全員が目を見開き唖然呆然としていた。



 まず、1つ。ここは婚約の破棄や白紙の話をする場所ではない。

 2つ。もし、したいのであれば、両家で話し合いの場を設けて対処するべきである。

 3つ……その方との結婚は "不可能" いや、間違いでは?



「あの、発言を宜しいでしょうか?」

 リリアナは恐る恐る小さく挙手してみた。

 婚約を白紙に戻すにしてもしなくても、一応確認したい事がある。

「なんだ。言ってみるが良い」

 宣言が出来て満足なのか、マーク王子はリリアナに発言の許可を出した。

「そちらの方と "ご結婚" なさるおつもりでしょうか?」

「そうだ」

 念のため、念のためと訊いてみたら、やはりそのつもりの様だった。

 その方と結婚って王子正気ですか?

 



 だってその方――




「えっと、失礼かと思いますが、一応……一応確認としてお訊きしても?」

「なんだ?」

「その方は、もしかしなくても【男性】なのでは?」

 そうなのだ。

 ルーシーと呼ばれたピンクブロンドの髪をした方は綺麗ではあるけれど、どう贔屓目で見ても男性にしか見えなかった。

 だが、万が一とか万が二があるかもしれない。

 男装の令嬢みたいな?

 誰もが違うと王子が否定する言葉を待っていたのだが、無情にもマーク王子が紡いだのは

「そうだ」

 と言う肯定の言葉だった。

 


「いやイヤいや、"そうだ" じゃなくて――」

「男だが、綺麗であろう?」

「綺麗ですけれど、いや、そういう問題ではなく」

「問題などなかろう」

「大アリでしょうよ!?」

 シレッとさも当然の様にマーク王子が言うものだから、リリアナはとうとう堪らずにツッコんでしまった。

 逆にどうして問題なし、とするのか聞きたいくらいだ。

 この際1億歩譲りに譲って、自分との婚約は白紙でも破棄でもなんでもイイ。だけど、相手に選んだのは選りにも選って何故どうして【男】なんですかね?

 お前は王太子なんだから、後継ぎ問題はどうするんだとか、男とは結婚出来ないだろうとか、もう色々だ。



「何が問題なのだ? 身分か?」

「彼の身分処か素性も知りませんよ!!」

 むしろ、身分なんかどうでもイイ。身分以前の問題だろうが!!

 大体何処の馬の骨なんですか!?

 マーク王子の母親ではないが、色々と心配になってきたリリアナ。

 男と浮気されたショックがどうこうよりも、次期国王として何を考えての言動なのだろうか。この国の行く末が心配で仕方がない。


 王子正気ですか?

 どうしちゃったんですか?


「あぁ、皆の者にも紹介がまだだったな。彼の名はルース=イーデス。子爵家の次子である」

 もう、やだ〜紹介始めた〜。

 リリアナは目眩を覚えた。

 マーク王子が改めて彼を紹介すれば、ルースと呼ばれた男性は両手をお腹に添え、軽くお辞儀をして見せた。

「ご紹介に与りました。ルース=イーデスでございます。以後お見知りおきを」

 ルーシーとは彼の愛称の様である。

 状況が状況でなければ、彼の綺麗なお辞儀や表情に見惚れていたかもしれない。

 だが、皆の表情は、どことなく引き攣っていた。

 以後お見知りおきをと言われても、どうお見知りおきをしたら良いのかが分からない。

 



「子爵と身分が低い。だから、お前達がイイ顔をしない理由も分かるが――」

「いえ、身分など何処か身分相応の方に養子に出された後……」

 違うんだよ。違うんだよ王子。身分が低いから皆の表情が曇ってるんじゃないんだよ。

 第一身分の低さなど、幾らでも対処出来るとついついリリアナは口を滑らせて慌てて噤んだ。

「いやイヤいや、その前に同性とは結婚出来ないですし」

 何を真面目に進言しているのかな? 私は。

 言っていてそれに気付いたリリアナは、堪らず否定と言うか当たり前の事を口にした。

 絶対に全員が思っている事だ。

 同性とは結婚出来ないだろう、と。

「今は、な」

「はい?」

「私が国王になった暁には、同性の結婚を認める法案を可決させる」

「「「…………」」」



 多分、いや、絶対、会場にいた全員がお前何言ってんの? って表情をしていたと思う。



『お前はこの国、最高最強の権力を使って、何を決めようとしてやがるんだ』



 派閥も身分も関係なく、会場にいた人達の心が1つになった瞬間であった。








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