第3幕 74年目の平和祈念 其の一
戦争について自分なりに考えて、思ったことを表現してみました。
なんか話がこじれたりしていますがそこら辺はご愛k(殴
8月6日8時15分。
日本は突如、沈黙を課せられることとなった。
その中で許されるのは悲鳴と絶望する声のみ。
地獄と何ら遜色のない景色がそこにはあった…
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「なあ知ってるか?」
「知ってる知ってる。不思議な杖を持った幽霊だろ?」
「俺も見た! その杖を構えて俺に向かってきたんだ!」
八卦は丘の上から幻想郷を見下ろしていた。
手には懐中時計を握りしめ、時刻を見ている。
「そうか…こんなものですらもう幻想入りしちまったのか…」
柄にもなく悲しそうな表情で1人ぽつんと呟く。
まるで皮膚を溶かすような熱風が八卦の頬を撫でる。
「さて、始めるか。」
八卦はゆっくりと丘を下り始めた。
丘を下りきったとき、八卦の肩に手が乗せられた。
「水をオォ…水をくださいイィ!!」
八卦が振り向くとそこには全身の皮膚が溶けて引きずり、異様なほどに目が飛び出し、筋肉が焼け爛れ、骨が見えかけている人間が立っていた。
「水か…すまんな、今は持っていないんだ。」
そういうと八卦は手を振りほどきお札をその人間に張り付ける。
「アァァァァァァ!!」
その人間はあらん限りの断末魔の叫びをあげてその場に倒れ込んだ。
張られた札には「R.I.P」と3文字だけが書かれていた。
「安らかに眠れとは言わない。だが思い出せ。これが現実だ。お前はすでに知っているはずだ。」
八卦はそういうと印を結び始めた。
肉体が凍り付いていき、ゆっくりと解け始める。
後に残ったのは冷気が立ち昇る草地だけだ。
八卦はその冷気に頭を下げると歩き去っていった。
人里のそばまで歩いてきた八卦は5人ほどで構成された兵士を見つけた。
ギリギリまで接近した八卦はしゃがみ込んで耳を済ませた。
「隊長! 嫌ですよォ! 特攻なんてしないでください!」
「甘ったれたことを言うんじゃない! いいか! 全ては我らの大王の為だ! そのためには命をも惜しんではいけないのだ!」
兵士の1人が別の兵士に抱き着く。
恐らく抱き着かれた兵士が隊長なのだろう。
そこまで聞いたところで八卦は立ち上がり、兵士の下に歩み寄る。
「何者だ!?」
「死神、とでもいえば納得してくれるか?」
八卦はお札を構えて訊き返す。
「馬鹿馬鹿しい! そんな歌舞伎者が死神であるはずがないだろう!」
そういうと兵士たちは銃を構えた。
「悪い、お迎えの時間だ。」
八卦はお札を飛ばして兵士に張り付ける。
「ギャァァァァァ!!顔がァ!!顔が熱いィィィ!!!」
兵士の1人が地面をのたうち回った。
顔にはひびが入り、そこから赤い光が鈍く漏れ出している。
「貴様!」
他の兵士が銃を撃つが八卦はよけもせずそれを受け止めた。
八卦の口から血が流れる。
しかし、派手な着物には弾痕はなく赤く染まるようなこともなかった。
「何故! 何故なんだ!」
「教えてやるよ。」
八卦は兵士に接近するとお札を張り付けた。
「今日が沈黙の日だからだ。」
瞬く間に兵士が朽ち始める。
「おやすみ。」
八卦は人里の門を目指して歩き始めた。
「なあ、この人里で何か霊の怪異とかって起きたりしていないか?」
「起きているよ! ここに『大尉』って名乗る奴が里を占領しようとしているんだ! あんたも早く逃げた方が良い!」
そこまで聞くと八卦は里の中心に向かって走り始めた。
「おい! なにしてるんだ!」
という声が後ろから聞こえるが、八卦はそれを無視して走り続ける。
里の広場らしきところに来た時、八卦の目の前に軍服を着た巨大な男が立っていた。
手には剣を持ち、胸の部分には大量の勲章が付けられている。
「ここは私が占領した土地だ。アメ公はお引き取り願おうか?」
どうやら彼は八卦がアメリカの兵士に見えるようだ。
八卦は彼の顔を見上げると口を開こうとした。
次の瞬間、頬に凄まじい衝撃を感じて八卦は吹っ飛ばされた。
「はよ帰らんか! この薄汚えアメリカン野郎が!」
剣を振り回しながら大男は八卦を罵る。
頬を抑えながら八卦はよろよろと立ち上がった。
その様子を見た大男は顔を真っ赤にして剣先を八卦に向ける。
「許さんぞォ! 我が君の為にもお前の首を討ち取ってくれる!」
そういうと大男は八卦の首に剣を振り下ろした。
八卦の首が宙を舞う。
「はっはっは! 我が君よ! 見ていますか? 礼儀を知らないアメ公の首を貴方様に捧げます!」
大男は空を見上げながらそう叫んだ。
「礼儀を知らない、ねぇ…」
不意に八卦の声があたりから響き渡った。
「何だ!?」
大男は剣を構えてあちこちを警戒する。
「お前の今持っている首、それは幻だ。」
八卦の声が再び響き渡る。
「何処にいるんだ! このアメ公め!」
滅茶苦茶に剣を振り回しながら大男は叫んだ。
「ここだよ、ここ。」
ふっと、八卦が目の前に現れる。
「お前のその様子だと仲間の日本兵も泣くだろうな。そして、どうやらここが霊の出現地らしい。」
八卦は男の顔に5枚のお札をいっぺんに張り付けた。
悲鳴を上げる暇もなく男の体は灰になった。
「…ここか。」
八卦は周囲を探っていたが、何か見つけたのか穴を掘り始めた。
しばらく掘り続けると空洞になったのか、八卦の手が宙を掴む。
八卦が覗き込むとそこには大量の幽霊の顔たちがこちらを見返していた。
その顔は一貫して原型を留めていない。
あちこちが焼け爛れているのはもちろん、片目が空洞になっていたり、皮膚の所為で顔の大半がのっぺらぼうの様になったりしている者もいる。
「……………。」
幽霊たちは甲高い声で八卦に何かを訴える。
「大丈夫、お前たちを強制的に成仏させるようなことはしない。」
八卦は低い声で返した。
「……………。」
「あぁ。次に見つけたら俺はお前たちを除霊しないといけないんだ。だから大人しく冥界に帰るんだ。」
霊たちは各々頷くと地上に這い出した。
その後、立ち上がると空を見上げると白い鳩となって飛び立っていった。
その鳩を見ているうちに八卦はあることに気付いた。
「防弾服か…」
鳩の何羽かが防弾チョッキを着ているのだ。
「『終わらない戦争』ねぇ…」
八卦は胸に手を当てて黙禱した。
「かなり遅いが、被爆への黙?だ。」
1分後、目を開けると隣には金髪に道士服を着た女性が同じように黙禱を奉げていた。
「…阿呆みたいね。」
女性は眼を開けると呟いた。
「そうだな。被爆した霊たちがこの幻想郷にいるってことは外の世界の連中は原爆が落とされた事こそ分かってはいるもののその黙禱の気持ちを忘れているってことだもんな。」
「外の世界は相当悲しい世の中になっているみたいね。」
「自分の利益のためにうわべだけの体制を取り、先祖の想いを踏みにじる。やれやれだ。」
そういうと八卦は肩をすくめた。
「幻想郷では先祖であるあんたがぴんぴんしてるもんな。向こう数百年は踏みにじられることはなさそうだな。」
「幻想郷はすべてを受け入れるのよ? 生も死も、老いも不老も、そこに長寿を認めないなんて道理がどこにあるのかしら?」
そういうと幻想郷の神隠し、八雲 紫はクスリを笑った。
「しかし、世の中ってのはつまらないもんだ。人の想いが捻じれに捻じれて元に戻ったり、更に捻じれて今とは反対になったりな。」
そういうと八卦は腕を伸ばす。
その表情はとてもつまらないとは思っていなそうだった。
「それでも限られた時間の中をみんなは楽しんでいるのよ。」
「幻想郷で、だろう?」
「えぇ。だって外は己の名誉を守るためにみんな躍起になっているんだもの。」
「幻想郷でも、『おばあちゃん』と呼ばれない様に躍起になっている妖怪が1体いるけどな。」
「あら、そんな変わり者がいるのね。」
紫はすっとぼけて肩をすくめた。
「まったく、やれやれだぜ。」
そういうと八卦は声を上げて笑った。
紫もつられて笑い出す。
2つの笑い声が人里から幻想郷へ、そして外の世界へ届くようにと祈りを込めた笑い声はいずれ世界へと届いていくだろう。
共鳴した笑いがいずれこちらに返ってくることを願って2人は笑った。




