10月15日-7 抽出
「あんたもそんな顔するんだ」
人が驚く姿を見るのも悪くない。
自分が優位に立つ状況ならなお一層、ね。
ルエが絶句する後ろで、レミは困惑している。
彼女をこの話に巻き込んでいいものか、クレアの意識世界を出た後からしばらく考えていた。
危険が過ぎるうえ、あくまで個人的な話に過ぎないのだ。
いずれルエには話すつもりで、レミはその絶好のタイミングに偶然同席しているというだけだ。
あまり余裕のない状況で選んだ答えは、おそらく正しいものじゃない。
それでも、私の目的を優先させてもらった。
責任という二文字が重くのしかかる。
「私はアンドロイドの意識にダイブした。そして彼女の無意識から記憶を覗いた。だからあんた達がやっていることもおおかた知ってる」
「……じゃあさっきの俺の話も」
「全部理解してたよ」
ルエは悔しげに歯を食いしばった。
彼はきっと、あえて私たちに与える情報を理解できないものに限り、情報戦で優位に立とうとしていたはずだ。
私がダイブをしていたなんて想像もしていなかっただろう。
ダイブは研究所の機密情報であり、私たち権限のない人間には存在さえ知らされず極秘で行われる。
クレアの記憶からわかったこと。
ようやく対等。
いや、まだわからない。
私の出方次第だ。
「ダイブについて教えてほしいっていったけど……すこし変えようかしら。クレアを使った実験、その目的を教えて」
「それも覗いたのか」
私はうなずいた。
「……俺のわかる範囲だけだ。実験の目的、そのおおきなもののひとつは、感情の抽出」
「あんた、またはぐらかしてないでしょうね」
「今回はまじめに答えている」
レミの不満げな声を制する。
誰にとっても不明瞭な答えだった。
「俺だって上との繋がりがあるというだけで、情報をすべて把握できているわけじゃない」
「じゃあ、その感情って?」
詰め寄ってはいけない。
できる限り情報を集めることが先決だ。
ルエは一呼吸おいてこう続けた。
「怒りの感情、そして憎しみの感情」
ルエの目は、どこか遠くを見据えていた。
感情の凪ぐ目……。




