10月15日-3 お前らのためを思ってだ
部屋の空気は張り詰めていた。
私は表情を崩さず、相手の出方をはかっていた。
自らの危機を知ってしまった状態では、ぼろを出さないよう何も言わないのが得策である。
同時に、表情を固め、相手に何も悟らせないように。
有効であるかどうかはわからない。
反論できないことを余裕のなさだと捉えられ、さらに強気で来るかもしれない。
なにぶん、相手の意図がつかめないのだ。
下手に動くことは避けなければならない。
「ふたりの替わりって……」
レミはそうつぶやいた。
しかし、その後の言葉は続かなかった。
言葉を発せないのは私も同じだった。
共通の認識に達したのだろう、その恐怖にのまれていた。
ルエはうつむいて目を閉じる。
「単なるリストラだったら穏便に済むんだろうな。お前らは気づいてるんだろうが、事はそんなに単純じゃない。いや、ある意味では単純か」
彼の感情が、私にはよくわからなかった。
おそらく、彼も私と同様、できる限り感情を相手に悟られないようにしている。
そういうところで、私と彼は似ていた。
「……大事なことを訊いてなかったわね。トーリが消えたこと、まさか気づかれてないとは思ってないでしょう。上が関与していることは間違いない。彼の身に何が起きたのか、説明して」
「ある実験の被験者になった。あいつの生死については……運が悪かった」
「実験って?」
「これ以上は話せない」
「どうして。そこまで話しておいて、守秘義務でもあるっていうの?」
「お前らのためを思ってだ」
ルエは語気を強めた。
いまの言葉は、ルエがすくなくとも私たちの敵ではないことを表している。
あくまで、好意的に考えたら。
しかし、私は口を挟んだ。
彼の善意らしきものを受け取らず、あくまで対等な立場として。
「黙ってても意味ないよ。私は知ってるから」
ルエは不思議そうに私を見つめた。
「見た、だと」
「うん。はっきりとね」
「どうやって」
「あなたと同じで、これ以上は話せない」
ルエは眉をひそめ、しばらく考えこんだ。
私の言葉の真意を。
はったりでないことくらい、言葉のニュアンスでわかるはずだ。
残念ながら、どれだけ発想を広げたところで、答えには辿り着かないだろう。
なにせ、それほど突飛で無謀な方法を使ったのだから。
正気では発想すらできない、悪魔の手段を。
「……どんな実験だったのか、それも知っているか」
だからルエは、私がそれを目撃した手段でなく、その内容を問うた。
「うん」
知らないと答えることもできたが、肯定した。
そうか、とルエはうなずく。
「お前がどこまで知っているか、それによって俺の行動も当然変わってくる」
「私たちもね」
「ああ、わかってる」
「そっちが情報を必要な情報を全部与えてくれたら、話さないでもないけどね」
「お互い相手の腹を探りつつ話すのは気分が悪いな。互いに、知っていることはすべて話そうじゃないか」
意外にも率直な応対に、私はすこし驚いた。
レミの方を見ると、ますます不審げに顔を歪ませている。
「あんたが知っていることをすべて話すとは考えてないわよ。それはそっちも同じでしょ」
「そうだな。いっておくが、何も盲目的な信頼関係を結ぼうとは考えていない。疑心暗鬼はここにいる全員の考えだからな。まどろっこしい言い方おしない。簡潔に、強引に行かせてもらう」
「どうするの」
「お前らを脅迫する」
ルエはそういって、口の端を吊り上げた。




