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10月15日-2 お前らふたりの替わりだ

「ちょっといいか」


ドア越しの声はそういった。

声だけで誰なのかわかった。

なぜか部屋の持ち主である私ではなく、レミが立ち上がり鍵を開けた。

廊下に立っていたのはルエだった。


「なぜ松崎がここにいる」

「いちゃ悪い?」


レミはあきらかに不機嫌な様子だった。

レミはルエのことを気に入らないらしい。以前からそんな気配はしていた。

ルエの方は気にもとめず、ずんずんと部屋に立ち入り、その様子がまたレミを不機嫌にさせていた。

ルエは私の前に立ち止まり、こういった。


「ひとつ警告しておきたいことがある。一応、大学時代からの付き合いがあるからな」

「なに」


私は目を合わせず、ずっと彼の足下を見ていた。


「PT49に盗聴機能がつけられた。あいつの前ではいろいろと、迂闊に話さないようにしておけ」

「なんであんたがそんなこと知ってるのよ」


レミがなおも険のある声でいった。

実際、いまのセリフには見逃せない疑問点がいくつもある。

特に、『事情を知ってしまった』私にとっては。

すぐにはつっこまず、ひとまず話を聞いてみることにする。


「お前らふたりは、なんとなく勘づいているんじゃないか」


ルエは近くのイスに腰掛けた。

研究所の人間は、互いに互いの印象について話さない。

話さないようにしている。

面倒なことに巻き込まれるから。

だからといって、心から無関心ではいられない。

表面は無関心を装っても、内側では人の動きを伺ってしまう。


「なんで俺がそんなことを知ってるのか。仮説を述べてみろ、松崎」


レミの目は敵対心に光っていた。

獲物を前に待てをされている猟犬の目だった。


「そういう物言いが鼻につくってのよ」

「悪かった。で、答えは?」

「簡単。あんたが上層部と繋がっているから」

「おおむね正解だ」


あっさりと肯定する。

そう。こんな話題を持ちかけたということは。

いままで隠していた事情を暴くということは。


「新妻も当然気づいていただろう」


私は答えなかった。

答える必要もない。

無関心を貫けという不文律が存在することは、人は誰かに関心を抱かずにはいられないことを裏返し的に証明している。

誰がどの勢力についているとか、誰と敵対しているとか、近くにいる人間には筒抜けになっているものだ。

それを口に出さないというだけで。

こちらの事情だって、誰かに知られている可能性は否定できない。

いや、知っているからこそ、ルエはここに来た。


「で、なぜこのタイミングでそれを自ら告白するのか、ということだな」

「いいからはやく答えなさいよ」


レミはいらついた様子で腕組みをしている。


「俺は善人じゃない。だからといって、誰がどんな仕打ちを受けてもいいとは思っていない。人が傷つくことに、人並みの嫌悪感はある」

「話が全然見えてこないんだけど」


私の苦言を呈すると、ルエはひとつため息をついた。


「所長から話を聞いた。近々、新たな研究員をふたり増員する予定だと」

「こんな時期に?」

「問題があるなら時期など気にしていられない、早急に対処する必要があるからな。前回は補充なしで済んだが、ふたりも減るとなるとさすがに痛手らしい」


そこまで聞いてはっとする。

頭をよぎる、消えたメンバー、トーリ。


「それって、もしかして……」

「お前らふたりの替わりだ」


ルエの声は冷たかった。

背中に悪寒が走った。


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