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10月15日-1 意外とかわいい顔してる

ふと、デジタル時計の日付を見やった。

10月15日。

いつのまにこんなに時間が経っていたのだろう。

自分の意識世界を作る作業をはじめて、それからいままで時間の感覚をすべて失っていた。

深い眠りから覚めたばかりで、すべて夢だったらいいのにと考えてしまう。

そんなはずがないということは、疑いようもなく実感しているのに。


そこで、自分のいる位置の違和感に気づく。

記憶では、床に突っ伏すように倒れてしまったのが最後だ。

ベッドに横になった記憶はない。しかし、いま自分はベッドにいる。

よく状況が飲み込めないが、ひとまず体を起こしベッドの縁に腰掛けた。

ほとんど体を動かしていなかったため、それだけの動作でおおきく息をしなければならなかった。


ピッと音がした。ドアのキーが開く音だ。

私の許可なく部屋に入れる人物はただひとり。

何食わぬ顔で、レミが部屋に入ってきた。

トレーを持っていて、そこに一食分の皿を乗せている。


「やっとお目覚めかい」


レミはそういって、私の隣に座る。


「ねぇ、私ってわがままかな」

「やっと口を開いたと思ったら……どうしてそう思うの」

「答えて」


わざとらしいため息が聞こえた。

この質問は自分でもウザいな、と思った。


「この研究所にいる人間はみんな自分本位なやつばっかだよ」


ほら食べな、といってトレーを私の膝の上に置いた。


「痩せたね。前にも増してペラッペラだよ」


ここ数日で起きたこと。

意識空間で出会ったあの少女のこと。

話そうとしたが、できなかった。

喉まで来ても口が動かない。

だめだ。

ひとりで抱え込む癖がついてしまっている。


長い沈黙の後、レミがつぶやいた。


「そういえば私、レズなんだよね」


まさかのタイミングで衝撃のカミングアウト。

思わず体がビクッと反応してしまった。

レミは続けて、私の太もものそばに手を置いた。

ベッドがギシリと音を立てる。

私はたまらず顔を背けた。


「ありゃ、意外と逃げないのね」

「……偏見はないから」

「偏見って……レズがすべての女の子に興味があるわけではないっていう?」


いいながらレミは声を抑えて、顔を近づけてきた。

シチュエーションに酔ってしまっているのか、なぜか私の心拍も速さを増している。

レミの手が首元に伸びる。

抵抗することもできず、首をくるりと回す。

視界全部が彼女で埋まってしまうほど、接近していた。


「表情が堅いだけで、意外とかわいい顔してるんだよね。あなた」


いつもよりすこしだけ低い、艶めかしい声。

頰に息がかかる。

隠しようもないほど顔が熱い。

内股も硬直して震えてきた。

ご飯食べてないし、力入らないから逃げられないな……。

という言い訳。

瞼を閉じては、うっすらと開けて様子を確認する。

すぐそこにある頰と唇。

私より女らしく艶やかな頰。

私よりすこし厚い唇。

これ以上来られたらぶつかる、というところで止まっている。

向こうも時折薄らと目を開けては、舐め回すように顔の隅々を眺めてくる。

たまに目が合う。

声が漏れないよう呼吸を抑える。

鼓動は意識するほどおおきくなる。

5秒、10秒、もどかしさでどうにかなりそうだった。


やがて、唇に感触があった。


唇よりもすこし硬い、皮膚の感覚。

目を薄く開けると、レミは私の目の前、触れ合いそうなほど目の前でちいさく笑っていた。

唇に当たっていたのは、彼女の人差し指だった。


「なんて、嘘だけどね」

「……嘘?」

「私はノンケだよ」


レミはそういって、おかしそうに肩を揺らして笑う。

私ばかりが惚けて、表情を作ることもできなかった。

レミはなおもにやにやしながら体勢を元へ戻す。


「……なんだったの、いまの」

「あれ、期待した?」

「そうじゃなくて……なんの意味があったの」

「色欲に意味が必要かしらん」


どこまでもおちょくるような返答しかしない。

完全にペースに乗せられている。

心臓がまだバクバク鳴っているのが恥ずかしい。


「んー、あなたみたいな研究熱心な科学者でも性欲には抗えないって、私としては興味深いんだけど。研究結果を上に提出しようかしら」


もはやツッコむ元気もない。


「どう? 元気出た?」

「……そんなわけないでしょ」

「そう? けっこうノリノリだったのに」


まさかいまので元気づけようなんて考えてたのか。

だとしたら、発想の恐ろしいやつだ。


「ノンケだけど、けっこうドキドキしちゃった。クレアちゃんがあなたのこと好きになっちゃうのもわかる気がするなー」


クレア。


クレアは

私のこと

どう……。


不意にノックの音がした。


「ちょっといいか」


ドアの向こうから声がした。

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