10月?日-8 ごめんね
意識が元の肉体に戻ってから、まったく動けなかった。
机の上に突っ伏したまま石になってしまった。
全身が硬直し、心臓を掴まれている。
拍動の度、掴む手の感触が強まる。
有り体な言葉でいえば、何のために生きてきたのか、何のために生きていけばいいのかという疑問に行き当たってしまった。
言葉にすれば簡単なのに。
それはきっと一般的だから。
自分のこととなれば、身動きがとれないほどの震えが襲う。
いままでの孤独は嘘であったようだ。
ひとりだと思いながら、きっと誰かに生かされていた。
見向きもしなかったから裏切られることもなかった。
気づくことも当然。
傷のない体は偽物の強さを手に入れる。
気づかなければ幸せ。
気づいてしまえば地獄。
こんな地獄を私は知らない。
この涙はなんだ。
悲しみだと思っていた。
誰を悲しんでいる。
何を悲しんでいる。
狭いカプセルの中で少女は眠る。
電源を入れなければただの人形だ。
そんな存在に、私は命を賭けることを決意した。
どんなことがあっても挫けないと。
それは、彼女の身に起きていた事態を何も知らなかった、無知な自分のエゴ。
そんなつもりはなかったのに、軽く考えていたみたい。
籠の中の鳥だと思っていた。
自覚しようもない内側の傷を負いながら、孤独の宇宙を墜ちる鳥が彼女だった。
棚の上のポトス。
翻訳できていない小説。
セントエルモの火。
おいしいれんこん。
彼女との間で育ったすべてが虚構の色になった。
輝かない、星と星の隙間の、暗闇。
ごめんね……ごめん……。
その言葉は、涙で濡れてぼろぼろになっていた。
気づくとカプセルの外郭に縋っていた。
頭の中でぷつっとおおきな音がした。
いったい何時間眠っていないかわからない体がとうとう限界をむかえたらしい。
灰色の景色が斜めに傾き、やがてかすんで消えた。




