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10月?日-6

ちょいエグ注意。

白衣を着た人間が目の前に並んでいる。

白一色の床を行ったり来たりする。

カプセルの中に眠る。

誰かの目を借りた視点で、とりとめもなく流れゆくそれらの景色を見ていた。

その視点がクレアのものであることを理解するのに、時間はかからなかった。

景色のどれもが砂嵐がかかったように不鮮明である。

目まぐるしく変わりゆくイメージの中に、私の姿も時折ちらつく。

これは、彼女が研究所にやってきて以降の記憶だ。

周囲の言葉は、ノイズが多くよく聞き取れない。


さっきの少女のいうことを正しいとするなら、これらの映像はクレアの無意識の部分にある記憶ということになるのだろうか。


場面は切り替わり、ザッピングはようやく落ち着いた。

映ったのは実験室Aだった。

私の視点、つまりクレアはイスに座り、白衣の男たちが何か用意をしているのを待っている。

男たちはスプーンに何かを取り、ゆっくり近づいてくる。


「あれって……」


見覚えのある、ちいさな赤い実だった。

レミが警戒していたあの実。

リュウが語っていた危険性。

トウアズキ、猛毒の実。


一粒、口の中へ運び込まれる。

次の瞬間、視界がおおきく跳ねた。

目の前のテーブルをはねのけ、白いタイルの床に突っ伏す。

ほんのすこし我慢した後、体がおおきく波打つ。

目の前が、体の底から吐き出された吐瀉物でいっぱいになった。

ノイズ塗れの噎びが脳を支配する。

男は倒れるクレアを強引に持ち上げると、二粒目を口にねじ込んだ。

先ほどよりもはげしく体が跳ねる。

意識はたちまち消え失せ、映像はそこで途切れた。




指の先から脳まで、血の気が引いていくのを感じた。

つぶやきのひとつも発せないでいると、次なる映像が流れこんできた。



何者かに腕をつかまれ、叫びをあげ逃げようとしていた。

つかまれていない方の腕が伸び、手の先がその人物の目に命中する。

その人物の顔を、一瞬だけ映った砂嵐まじりのその顔を、私は捉えた。

一悶着ののち、クレアは床に倒れこんだ。

耐えるような悲鳴をあげ、首から滝のような大量の血が流れていく。

また映像は途切れた。


何かを口にして倒れる。

薬を打たれて意識を失う。

次から次へ、耐えがたい痛みと恐怖を纏う景色が脳を通過していく。



最後の映像には、消えたはずのメンバー……トーリという名の男の姿があった。

意識がありながら麻痺したように動けずベッドに横たわる彼の首から電極が伸びて、コンピューターに接続されている。

その行為が何を意味するのか、知りすぎるほどに知っている。

トーリの体がおおきく跳ねたかと思うと、クレアは耳をつんざくような悲鳴をあげた。

私のやった方法じゃない。

被験者の意識を加減なくすべて対象に送りこむ、最も危険な方法での……ダイブ。

世界の色が爆発した。

すべての色が弾け、ぐちゃぐちゃに混ざり、世界の輪郭を塗り潰した。

やがて灰色になり、また映像は途切れた。



「やめて……もう、やめて……」



全身の関節が痛い。

鼻と頬が熱く重たい。

いつの間にか元の部屋に戻ってきた私は、倒れこむように椅子にもたれた。

体の四肢が千切れ、頼りない胴体となって泣き崩れる。

涙の大雨。

悲しみの、純粋なる悲しみの涙。

鼻をすすることもできず、ただ流れゆく。


「いっとくけど、あの子の痛みはこんなものじゃない。すくなくとも、当事者じゃないあんたが泣いたところで何一つ救われない程度にはね」


近くにいるはずの少女のつぶやきが、はるか遠い世界の出来事だった。

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