表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/40

10月?日-4 約束

嵐の中で叫んでいた。

痛みをこらえるように、それでもこらえきれず泣いていた。

だというのに、絶対に助けを求めようとしなかった。

自分の中のある感情に殺されないため、叫ぶことで掻き消していた。

私にとって、それがどれほど辛かったか。


「ね、ちゃんとお話しよ。いわなきゃわからないこと、たくさんあるんだから」


残念ながら、肝心なところはすべてごまかしている。

本当はクレアの気持ちを何も理解できてなどいない。

恐怖の正体が何なのか、混乱の原因は何なのか、何もわかっちゃいないのだ。

話してもらわないとわからない、鈍感なやつ。

それでも、抱きしめなければいけない。

いまの私にはそれしかできないから。


「自分の感情は、やっぱりわかりません。唯一わかっていることは、私のせいで誰かが不幸になることが怖いってこと……」


不幸になんて……。

そんな過去があったのか? 私の知り得ないところで。

だとしたら、私はそれだって知らなきゃならない、と考えてしまう。


「私は、クレアのために生きたいと思ってる。クレアはどう思ってる?」


背後で沈んだはずの太陽が再び背後で昇り始めた。

この宇宙は物理法則ではなく、私の思いを映して動いている。


「ただひとこと、助けを求めてくれれば、私はクレアの味方でいるから。どれだけ疑われても、最後まで守ってみせる」


胸の中でちいさく震える命。

背中に回された手がぎゅっと握られる。


「カレン……た、たすけて……」


「了解」


ようやく捕まえた。

ようやく強く抱きしめられる。

人よりすこしだけ低い体温。

熱い涙。

それが彼女の生きている証。


こんなに遠回りしてしまった。

ようやく出発点に着いたに過ぎないというのに。

これからが本当の、旅の始まり。

エゴだってかまわない。

迷惑だってかまわない。

誰かの幸せを叶えるためにここまでやれた。

味わったことのない感慨に、いまだけは浸りたい。


ここからが勝負。本当の戦い。

想いだけじゃどうにもならない世界だ。

それを知っているから、私は諦めが悪い。

クレアの髪を撫でると、糸を撫でるような重たい感触がする。

手入れされておらず、ほとんど飾りに過ぎない。

まずはここから手入れしないとな。


二人の体を日の光が照らす。

私の腕の中がすこし軽くなる。

クレアは光の粒になり、きらきらと空へ向かう川を作った。

クレアは、私の名前を呼ぶとこう続けた。


「わからないことだらけですが、わかっていることもあります」


「何?」


「外の世界に出ることができたら、レンコンが食べてみたいです」


「……はい?」


……レンコンって、あのレンコン?


「レミから聞きました。東京スカイツリーの近くに、無断でスカイツリーの名前を使ったパチモンのレンコンがあったって。すぐに販売中止になったらしいんですけど。パチモンのくせに信じられないほどおいしいって、何度も話してくれました。いつか、外の世界で食べてみたいです」


……ああ。

とうきょうすかいれんこんって、遠い昔にあなたがいってたね。

まだ名前をもらう前。

まさか実在するなんて思わないよ。


「いつか、連れて行ってほしいです」


あなたにとってはきっと、笑われたくない立派な夢なんだろう。


「ふふ。うん、約束」


ムードがやや台無しになってしまったが、光の粒はなおも綺麗に宙を漂う。

販売中止だろうが生産中止だろうが、脅迫してでも手に入れてみせるさ。

あるべき肉体の元へ還る彼女の意識。

見上げると、粒は宇宙の背景に溶け、綺麗な星になった。

だけど、外の世界は、こんな宇宙よりずっと広くてずっと綺麗なんだ。


「クレア、ここから出よう。ふたりで、自由な世界に……」




--なんか納得できないなぁ、それ。




「え?」


頭上から降った謎の声。


次の瞬間、地面が揺れた。

揺れに耐えきれず、体勢を崩してへたり込んだ。

みるみるうちに地面がひびを作って割れる。

急いで逃げようと地面を掴んだが、地割れは強大な引力を発し、あっという間に引き摺り込まれた。

叫ぶこともできず、直後に意識はブラックアウトした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ