表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

10月?日-3 全部受け売りなんだけどね

「信じられないって……私のことが?」


いたいけな表情に神妙を映し、クレアは頷いた。

閉じられた瞼は震えている。


「信じたい気持ちがあるのに、なぜか心の奥で疑ってしまうのです。カレンのことを、疑いたくなんてないのに、理由もわからずに……」


声が震えそうなのを必死にこらえ、平静を保って私はいった。


「……ね、クレア。私が最後まで疑われて、あの嵐に襲われて、目の前からいなくなったら、あなたはその後どうするつもりなの?」


「私は……このまま、永遠の孤独を迎え入れます。それが誰も不幸にならない選択……」


「自分の感情を何もわからないまま?」


「そうしないと、それ以外に方法が……」


しきりに涙を拭う。

彼女は耐えている。

得体の知れない感情と、ひとりになる選択に。

私よりずっと素直で、ずっと臆病で、それなのに。

そんなに弱いのに、どうしてそんなに強くいられるんだ。

そんな彼女を見るのはもう限界だ。


「ね、すこしだけ私の考えを話していい?」


私はおおきく息を吸って、押しとどめるかどうか迷っていた胸中をぶつけた。


「あなたのことを縛っているのは、恐怖だと思う」


「……恐怖」


「私にとってはね、コードはただの記号じゃない。触れるだけで声が聞こえるの。最初は翻訳機を使ってたけど、いまじゃまったくいらないもん。でね、さっきコードの嵐にあったとき、あたなの声が聞こえた。何かに襲われて、我を忘れて叫ぶ声。鎖に縛られているのは私じゃなくて、きっとクレアのほう」


戸惑いも、混乱も、恐怖も、すべて聞こえていた。

私を襲ったのは、自分ひとりですべてを抱え込むため。

どこまでもついてくる私を消すことで、永遠の孤独を手に入れようとした。

そんなことはまったく知らなかったが、覚悟の熱と、ともにある恐怖はしっかりと伝わっていた。

だから倒れるわけにはいかなかった。

彼女のために生きると決意した私が、彼女の痛みに耐えられないなんてことは、そんなことはあり得ない。

誰かを失う怖さ、ひとりになる怖さ。

求め合えば埋まるはずの穴が、どうしてこんなにも深いのだろう。

私はただ、答えが知りたい。


「こ、来ないで、またカレンを……」


クレアの足下から、白く輝くコードが再び湧き出す。

とぐろを巻き、目にも止まらぬ速度で襲い来る。

私は、そこに向かって真正面から歩いている。

おおきな恐怖は、ちいさな恐怖を凌駕する。

四肢を、胴体を抉らんとコードは凶暴な体躯をうねらせる。

やがて鋼鉄の刃となり、私の体をあっけなく貫いた。

しかし、私の体は傷つかない。

体を抜けたコードは、直後に命を失うように光の塵へと四散した。


「私だって怖いんだよ。ひとりになることが。あなたは逃げるけど、私は求める。心から拒絶されない限り。優しいあなたとちがって、私はわがままだからね」


あなたが逃げるから、どこまでも追うしかない。

いっそ嫌ってくれたら、昔に戻れたのにな。


「自分の感情を理解できない恐怖。私を傷つける恐怖。いろいろあるだろうけど、そんなもの、ひとりじゃ耐えられないよ」


目の前にいる彼女に届かないなんて。

こんな宇宙にまでやってきたんだ。

どこまで逃げようと、宇宙ごと捕まえてやる。


「う……うあああぁぁ!」


いままで聞いたことのないような、感情が爆発する音。

大気が震えた。

コードから電撃が迸り、暗闇を裂く雷光として明滅した。


--複雑で強い感情は、心が耐えきれずやがて爆発する。

それは決して悪いことではなく、感情を受け入れる第一歩を歩んだともいえる。

想いの質量を知り、一度は苦しむ。絶望する。

その後が大事なんだ。

爆発が鎮まった後、誰がそばにいてくれるか。


「……なんて。全部受け売りなんだけどね」


『re:unknown』のアンドロイド・クレアも、感情の爆発を機に主人公とわかり合う。

正面から向き合う。

いままですれ違っていたことにようやく気づく。

どこまでいっても、私はあの小説を頼ってしまうらしい。


暴走するコードは収束した。

残ったのは私と、私の大切なひとりの女の子。

こうしてみると、長いようで短い旅路だった。


ようやく出発点にたどり着いた。

この体に触れられること。

強く抱きしめられること。

背中に回るちいさな腕の感触で、瞼が熱くなること。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ