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10月?日-2 私もしつこいでしょ

足裏にざらざらとした感触。

意識が覚醒すると、砂まじりの固い地面に立っていた。

頭上には夜の暗闇。

しかし、ここには空はなく、宇宙がある。


文字通り、私は宇宙を創り出した。

私の意識を写し取った空間。

創造主たる私は平常と変わらない姿で宇宙に身を晒しているのだが、なんなく生きている。

呼吸もできる。

私が創った宇宙だという証拠である。


遙かかなたの太陽を背に、私は自分の立つ灰色の星の地平線を睨んだ。

地平線がざわざわと蠢いたかと思うと、蠢きはこちらへ向かって近づいてきた。

正体はわかっている。

前回のダイブの際、あの鎖に私は敗北した。

あのときと同じ気味の悪い白い光を纏い、私に襲いかかる。

どうやら今回はその数が違う。

存在するすべての文字列が集結しているようで、ひとつひとつが竜のように巨躯をうねらせている。

雷鳴と大瀑布を纏うスーパーセルを思い出させた。


私は動かず、その嵐を静かに見据えた。

地は音を立てて割れ、大気は鳴動する。

コードは私の体を飲み込み、一片残さず食い破らんと身を躍らせる。

激しく明滅する視界に、私の頭は冷静だった。

なぜこのコードが私を襲うのか、前回はわからなかった。

いまならわかる。

だから怖くない。

だから踏ん張れる。


「叫びが聞こえる……まってて、クレア」


嵐はいつか過ぎ去る。自然の摂理。

時間が経つにつれ嵐はわずかに弱まった。

その隙間をつき勢いよく右手を振るうと、それに合わせてコードは吹き飛び、あっけなく霧散した。

開けた視界に、青く浮かぶ【start-up】の文字を見つける。

指先を動かすと、文字は触れられずして反応し光り輝いた。

何度も何度もくりかえし見た光景。

彼女という存在は、結局は展開した文字列の集積なのだということを思い知らされる。

そんな不確実な存在に、一体どれだけ惑わされてきたことか。


「私もしつこいでしょ」


姿を現した、ちいさな影に向かって笑った。

いつもより数段ちいさく感じるほどに力ない様子で立っている。


「どうして……どうしてここまでして……」


「負けず嫌いだから」


私は厳然として答えた。


「科学者ってのはね、問題が目の前にあったら解決するまで止まれないんだよ。それと、もうひとつ理由があるとしたら、あなたと話がしたいから」


「話……」


「そう。逃げ出さないで、話すべきことを」


少女のちいさな体は消え入りそうなほど弱々しく、そこにいるだけで精一杯という様子だった。


「私は……カレンに謝りたいです」


「謝るんなら、なんの説明もないまま逃げたことを謝ってほしいね」


「私は……」


クレアはもどかしそうに俯いた。


「私の本心がわからないのです。制御できない感情があって、それから逃げよう逃げようと思って、そうしているうちにまた別の感情が溢れ出てきて……。あ、あなたを、攻撃したのは、得体の知れない感情に苛まれて……いえ、他の誰でもない私の意思なのですが、なぜそんなことをしたのかわからないのです。本当に、本当にわからなくて……」


言葉を紡ぎながら、クレアは顔を手で覆った。

隙間からぽろぽろと涙が零れ出ていく。

あの涙に触れたいと、私の心はその想いでいっぱいだった。

でも、いまの私にそんな資格はない。


「変わってるんだろうけどさ、昔から私、死ぬのはそんなに怖くないんだよ。そういうのに変に鈍感というか。だから、殺されそうになったところで恨んだりしないよ。私が怖いのは、大切な人を失うこと」


大切な人がいるということが、新妻カレンという人間にとっては奇跡だった。

20数年の人生の中で、いままでそんな風に呼べる人はいなかった。


「あなたがいなければ生きていけないかもって、本気で思ってる。嫌なら嫌っていてほしい。どんな答えでもかまわない、想いを話して……」


私の右手がまっすぐに伸び、手のひらが差し出される。

願わくば、そのちいさな手が、この手のひらに重なることを。


「私が、自分が理解できないのは……」


しかし、彼女が私の手を取ることはなく。

おおきく息を吸って、こう告げた。


「ここまで私のためにがんばってくれるカレンを……どうしても信じられないこと」


「えっ?」


後方の太陽が地平線に沈む。

クレアの影が、背後を渦巻く宇宙の黒へと溶け入る。


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