10月?日-1 もう隠しごとはなしだよ
視界の端、窓の向こうが明るくなりまた暗くなる。
何度くり返されたのだろう。
もう何日も部屋を出ていない。
正確にはコンピューターの前から離れていない。
キーボードを叩く指は一秒たりとも止まっていない。
トランス状態にあることを頭のどこかで理解できている。
こうなってしまうと、力尽き気絶するまで自分が止まらないことも知っている。
そういえば、何時間か何日か前に誰かが部屋に入ってきた。
たぶんレミだったと思うけど、生返事しかできなかった。
会話の内容もまったく思い出せない。
あとで謝っておこう。
コンピューターには黒い背景と、その前面に白く光る文字列が映っている。
自分が打つ文字は細い線を成して、出来上がった文字列は手元を離れ、空間を漂う。
このちいさな世界の創造主かのような気分になる。
人間を作った神様がこんな面倒くさい作業をしていたのなら、神様になんかなりたくない。
こんなことはこれで最後だ。
最後だから、手抜きはナシにしよう。
「……ん?」
ふと手を止めた。
端から端へ画面を眺め、右へ左へをくり返し、ようやく状況を理解する。
手が止まったのは、もうそれ以上書く必要がないからだった。
自分の意識は、可能な限り、コンピューター内の宇宙空間に再現された。
すなわち、自分の意識を模した宇宙が完成した。
認識した途端、体がずしりと重くなった。
忘れていた疲労がどっと押し寄せた。
いますぐにでも横になりたいと思ったが、のんびりしている暇はない。
精神的余裕もない。
きっと思い過ごしに違いないのだが、手を休めたら二度とチャンスが掴めないようにさえ思えた。
強迫観念に背中を押され、電極を手にした。
ダイブのときに使用した電極だった。
前回と同じく、首の後ろにテープで固定する。
意識の波の形を、ラジオでいえば周波数を疑似宇宙に合わせればリンクできるはずだ。
いわば肉体から解き放たれた、剥き出しの意識。
裸の魂。
「もう隠しごとはなしだよ、クレア」
ここまでしてあげたんだから誠意見せなさいよね。
あなたがどこまで逃げようと、最後には追いついてやる。
スイッチを入れると、電流が脊髄から全身へと駆け抜けた。




