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10月2日-2 乗る

「乗るか降りるか、ふたつにひとつ。いまこの場で決めて」


レミはそういうと、いままでに見たことのない厳しい表情をしてみせた。

冷静沈着に、人を選別する眼差しだ。

しかし私は動じない。


「乗る」


私の宣言に、レミは目を丸くした。


「意外だね」


「そう?」


「あんたのことだから、もう少し考えさせてとか決められないとかいうと思った。お子ちゃまだもん」


お子ちゃまというところは腑に落ちないが、その意見は尤もかもしれない。

どちらかといえば私は慎重にものを考える人間、というか優柔不断な人間だ。

だが今回は違う。

賭けているもののおおきさが違う。


「決意の表れだよ。ここで答えを迷ってたら、二度とあの子が戻ってこない気がして」


「どうしてもいっしょがいいんだね、やっぱり」


好きだなぁ、といって彼女は笑った。


「前にもいったけど、あの子といっしょじゃないと私はここから出て行かないよ。ここにいて、命の危険にさらされたとしてもね」


「わかったわかった。何か手伝えることがあったらちゃんと頼ること。いいね」


「うん」


「さっさと連れて帰んなさいよね。クレアちゃんといっしょにご飯食べるの楽しいんだから」


レミはそう言い残して席を立った。


彼女の歩く姿は自信に満ち溢れている。

自分は正解を知っている、というより、自分の行く道が正解なのだという確固たる信念のようなものが背中に浮き上がって見える。

あの背中を見ていると、すこしだけ安心してしまう自分がいる。



廊下でルエとすれ違った。

たった数日前に会ったはずだが、ずいぶんと顔を合わせていないような気がした。


「PT49のことだが、苦戦しているようだな」


PT49というのが一瞬、クレアの本名、というか型番だということがわからなかった。

研究所のメンバーは基本的に彼女のことをそう呼ぶのだ。


「悪かったね。仕事がなくなって暇でしょ」


私は平常を努めて軽口を叩いた。


「私があの子を直すまで全員職なしだもんね。もっと休みたいなら延ばしてあげるよ」


「それも困る。上からの催促がうるさいからな」


「上、ねぇ。あんたはその『上』についてどのくらい知ってるの?」


質問にたいした意図はなかったのだが、ルエは口篭もった。


「特別なことは何も。お前と同じだ」


「あいかわらず下手だね、嘘つくの」


ルエは無表情のくせに、心象が顔に浮き上がる。

心の翳りがそのまま顔に表れる。

学生時代からの付き合いのわりに、たいして言葉も交わさず向き合ってこなかったつもりだったが、そのくらいのことは苦もなく理解できた。


「他人に干渉するなって、前にいってたよね。私に干渉されるのは嫌?」


「お前に心配されるようなことはない。仕事だけに専念しろ」


立ち去る彼の後ろ姿を見ながら考えた。

彼が嘘をつくのが下手なのは間違いないのだが、そもそも嘘をつくことがほとんどないのだ。

どんな相手にでも遠慮せず意見をぶつけるタイプだから。

それが、今回は裏にある真実をこんなにもひた隠しにしようとする。

彼なりの特別な思いがあるらしい。

誰にでも、いえない思いのひとつやふたつあるのかと思うと、ルエのことをすこし人間らしく感じた。



しかし、いまの私にはあまり人に関わっている余裕がない。

ダイブという裏技を使っても届かなかったクレアの意識、そもそも潜れば失ってしまう記憶。

課題が多すぎる。

唯一の希望だったダイブの失敗により、ふりだしに戻った気分だった。

私だけに聞こえるため息が漏れた。


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