表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/40

10月2日-1 マスターキー

ダイブから戻ると、記憶はすべて元通りに戻っていた。

ダイブ中の記憶を引き継いだまま、以前と変わらぬ私だ。

ベッドを背もたれにぺたりと座り込んでいた状態になっていたため、背中やお尻が凝り固まって痛い。

自主的になったのだが、全裸に白衣というエロコスプレ状態だった。

そのうえ白衣ははだけて、起伏のない胸板がほとんどさらけ出されていた。

服を着ようと起き上がろうとした瞬間に気づいた。


ダイブ前まで間違いなく誰もいなかったはずの部屋に、人がひとり立っていた。


「……見ちゃいけないトコ、見ちゃったかな?」


お互いになんてタイミングの悪さだ、と思ったことだろう。

レミは引き攣った笑みを浮かべてもじもじしていた。


「あー、うん、その、あはは……」


「はは、は……」


私もどうしたらいいのかわからず、頬を引き攣らせた。

ははは。ちーん。

二人とも混乱して何の説明もできないまま解散してしまったため、今日の昼食中に釈明と追及、質疑応答という流れ。


「どうして部屋に入ってこれたの」


研究所のすべての扉にはICカードでロックを解除する。

普通のシリンダー錠ならまだしも、カード式をどうして突破できたのか、昨日から疑問だった。

相変わらず威勢のいい食べっぷりで白飯を掻き込みながらレミは答えた。


「大声じゃ言えないけど、マスターキー作ったから」


「マスターキーって……」


「わかんない? 研究所のすべての扉を解錠できるカードだよ」


「……どうやって手に入れたの?」


「自作に決まってんじゃん」


さらりと流しているが、そう簡単には信じられない話だ。


「あなた、クレアの料理係でしょ?」


「ただのお料理お姉さんだと思ってんの? ここにいるやつはみんなテクノロジー分野でトップクラスの技術者よ。たまたま割り当てられる仕事に就いてるってだけで。やろうと思えば今日から私がメンテ係だってできるんだから」


それはどうかな、と負けず嫌いな私が出そうになるのを堪える。

しかし、技術があるのは間違いない。

研究所から脱走する、とレミは私に宣言した。

何から何まで推測の域を脱しないのだが、とにかくこの研究所にいたら自分の命が危ない、ということを彼女は危惧している。

そして、私自身もその意見にある程度賛同している。

脱走、という大仰な言葉を信じるとすれば、いまも目下計画を進めているのだろう。

その一環として、マスターキーを作ったのかもしれない。


「部屋に入ってきた理由は?」


「お話があったんだよ。それも後で話すけど、その前に今度はこっちから質問。あんな恰好で何してたの?」


当然の質問なのだが、いざこうして訊かれると困却を余儀なくされる。

彼女の顔を見やると、なにがなんでも真相を暴こうという科学者の目をしていた。

隠しごとは無駄だと悟った。

誰かに話して楽になりたかったのかもしれないが、彼女になら打ち明けても大丈夫だと信じることにした。


「実験が失敗して、あの子の、クレアの記憶が行方不明になったの。一か八かで彼女の意識を探ろうとして……」


「エロコスプレしたの?」


「語弊が……」


語弊が、ないこともないのが悔しい。


「ダイブっていう、なんていうか、人の意識に潜る禁断の実験があるの。意識を混濁させることで実験者と被験者の意識の融合を図るんだけど、そのために必要な過程だったの」


「ふぅん、なんか変態的な実験だね。そういうの嫌いじゃないけど」


どこまで理解しているのかわからないが、これ以上説明するのは面倒なので切り上げることにした。


「結果を言うと失敗だったんだけど……他の方法と比べれば希望がある。だからまたやるよ」


レミは箸を置くと、ちいさくため息をついてこういった。


「あんまりひとりで気負わない方がいいよ。やれることなら私も手伝うから」


彼女にとっては何気ない一言だったかもしれないが、私は軽く震えを覚えた。

いままでの人生でかけられたことのないほど優しい言葉だったから。

いや、いままでは私がそんな言葉を信じないで受け入れなかったのだ。

人の思いがすっと深くまで浸透する感覚に、体が驚いたのだ。

その理由はわからずとも。

半分照れ隠しのような、むず痒い気持ちから逃げようと、話題を変えた。


「そっちの話は何?」


レミは一拍置いて、声を抑えて答えた。


「例の件、計画が進んだから報告しようと思って」


例の件というのはおそらく、研究所を脱出するという彼女の計画のこと。

私は計画に乗るか否かをまだ表明していないのだが、こうして向こうから話を共有してくれる。


「でもね、さすがにそろそろ決めてもらわなきゃなんだよ。情報の収拾がつかなくなることが一番怖いから」


この瞬間が来てしまった。

もうそろそろだと予測はしていた。

そして、こちらとしても、いつまでも曖昧なままではいないつもりだった。


「ラストチャンス。これ以降の変更は認めないよ。乗るか降りるか、ふたつにひとつ。いまこの場で決めて」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ